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(06/03)
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ネット小説とか書いてます。竜†婿は「小説家になろう」でも公開中です。
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第8話 宴の席で

 昨夜と今朝も食ったが、この世界の――竜人の?――食事というのは……。
 肉、肉、また肉だ。何の肉かは知らないが。
 ソテーとか塩焼きとか調理法は多彩なものの、野菜は飾り付け程度にしか出てこない。
 竜だけあって、肉食なのか?
 
「さすがに飽きてくるわ」
 
「いや、それだけ食ってから言われてものう……。」
 
 今、2つ目のテーブルが空になった。
 慌ててメイドが皿を下げ、別のメイドが料理を運んでくる。
 あ、メイドも白竜人だ。
 
 用意された宴は、立食パーティの形式だった。
 だだっぴろい広間にテーブルが点々と置かれ、これでもかというくらい肉料理が並べられている。
 楽団が奏でる音楽は、オリエンタルな感じだ。
 こうした席での服装とか城内の様子を見る限り、ファンタジーものの常として、文明レベルは中世ヨーロッパ前後といったところか。
 
 ニナの婚約の儀に駆け付けたのか、白竜人以外もちらほらと見受けられる。
 例えば赤い髪は赤竜人、青い髪は(そう)竜人というらしい。
 竜人以外はいないみたいだな。
 
「あっちに果実ならあるぞ」
 
「おお、そうか」
 
 俺はかなりの大食漢だが、肉だけでは胸焼けがしてきたところだ。
 ニナを伴い、別のテーブルに移動する。
 
 初めはどっかの偉そうな人が声を掛けてきたりしていたが、俺の食欲に恐れをなして(?)、そのうち誰も来なくなった。
 
 リンゴのような果実を齧ってみると、かなり酸っぱいが、やはりリンゴだった。
 
「しかし、リュースケは驚くほど強いのう。本当に人なのか? 肉体的な意味で竜人より強い人間なぞ、聞いたことがないぞ」
 
 そう言ってニナが俺に向ける瞳の中にあるものは、純粋な称賛。
 それと好意。
 
 力を見せれば嫉妬と恐怖の感情ばかりを向けられていた俺にとって、その視線は嬉しいがこそばゆい。
 
「城の兵士も褒めておったぞ。見事な(わざ)であったと」
 
「……そうか」
 
 確かに、時折すれ違う警備の兵士たちは、好意的に挨拶をしてくれる。
 
「おだてても戦争には参加しないけどな」
 
「うぐっ。別にそんなつもりでは……」
 
「わかってる。冗談だ」
 
 慌てたようにわたわたとするニナの頭を撫でる。
 ニナは気持ちよさそうに、されるがままだ。
 
 ここでは、俺の力を隠す必要が無い。
 誰に嫌われても、ニナだけは大丈夫だと思うから。
 
 ……ちっ。柄でもないことを考えているな。
 あまり情が移ると、いざという時逃げられん。
 
 リンゴの芯を皿に投げ捨てる。
 
「さて、腹も8分目ってところだし」
 
「「「8分目!?」」」
 
 ニナと、聞き耳を立てていたらしい客やメイドが一斉に声を上げる。
 何だうるせぇな。
 俺が視線を向けると、全員サッと目を逸らした。
 
 まあいいや。
 とにかく、逃げる時に備えていろいろ知識が必要だ。
 
「ニナ。ミッドガルドの事を教えてくれ」
 
「ふむ? そう言われても、漠然としすぎて何を教えればよいのか……」
 
「そうだな。じゃあ、とりあえず人種ついて」
 
「わかった。ここ、ミッドガルド大陸には、大きく分けて4つの人種がおる」
 
 あれ?
ミッドガルドって世界の名前じゃなくて、大陸の名前だったのか。
 あるいは、その両方か。
 
「人、竜人、獣人、魔人の4種じゃ。人は人間とも言うな。詳しくは知らぬが、『間に立つ者』という意味があるそうじゃぞ」
 
「へぇー」
 
「人は技術、竜人は力、獣人は速さ、魔人は魔力が優れているというのが、よく言われることじゃ。人も、いくらか魔力を持っておるので魔法を使えるが」
 
「俺も使えるのかな?」
 
「さあのう……。厳密な意味で、リュースケが人かどうかは、わからんからのう。異界から来たのじゃし」
 
「まあ、そうだな」
 
 ミッドガルドの「人間」と、地球の「人間」が同一であるとは限らない。
 俺をまともな地球の人間と言っていいのかは、微妙なところだけど。
 
「我ら竜人と人間、それと獣人の関係は今のところ良好じゃ。交易も活発に行われておる」
 
「で、竜人と魔人の関係は劣悪と」
 
「うむ。というよりも、魔人の国『魔国』の王である魔王ガルガディスが大々的に世界征服を標榜しておるから、魔人は全ての人種と敵対関係にあると言っても過言ではない」
 
「おいおい。それじゃいつ戦争になってもおかしくないだろうが」
 
「魔王ガルガディスは、遥か昔、神話の時代から生き続ける正真正銘の化物なのじゃ。じゃがそれ故にとんでもなく気が長いので、なかなか全面攻勢には出ようとせん」
 
 国境付近での小競合いはしょっちゅう、とのことだ。
 
「神話の時代って、具体的には何年くらい前なんだ?」
 
「少なくとも、2000年以上は前じゃ」
 
 ぶっ!
てことは魔王ガルガディスとかいうやつは、2000年かけても世界征服できてないのかよ……。
 
「どうも魔王は、世界征服は暇つぶしくらいに思っているらしいの。そこまで本気ではないのであろう」
 
 迷惑な野郎だな。
 
「じゃあ、何で今は一触即発なんだよ」
 
「魔国とて一枚岩ではない。最大派閥の魔王派とは別に、世界征服急進派が、最近魔王の娘を旗頭に立てて勢力を伸ばしておるのじゃ」
 
「ふーん……」
 
 さらに詳しく聞くと、大陸はその4つの種族の国で大別されるらしい。
 
竜人の国「竜の都ドラッケンレイ」は北方。
 魔人の国「魔国」は東方。
 人間の国は諸国あり、今は同盟を結んでいるらしいが、南方。
 獣人は部族ごとに小国家群を形成しており、西方。
 
 最も勢力が強いのは魔国。次いで竜人、人間、獣人のようだ。
 
「逃げるなら、西方かな……(ボソ)」
 
 獣人というのは非常に気になる。
 きっとリアル獣耳とか見られるに違いない。
 魔人も見た目は人や竜人と違うらしいので、気にはなる。
 
「まあわらわの夫になれば、外交の場に立つこともあろう」
 
「それはそれで面倒なんだけどな」
 
「わがままじゃのう……。話したら喉が渇いた」
 
 ニナが飲み物を盆にのせて歩いているメイドを呼びとめる。
 
「リュースケも飲むか?」
 
「酒か」
 
 盆上のグラスには赤色の液体が入っており、結構なアルコール臭がする。
 
「なんじゃリュースケ。酒は飲めぬのか?」
 
「飲めないというか、飲んだ事がない。俺の国では飲酒は20歳になるまで禁止だったんでな」
 
 腐っても法龍院。
 未成年の飲酒など許されるはずもなかった。
 
「そうなのか。ドラッケンレイでは子供でも薄めたワインくらいは飲むぞ」
 
「そうか。では試してみよう」
 
 俺はメイドからグラスを受け取り、中身を一気に呑み干した。
 
「「あ」」
 
 ニナとメイドが声を上げた。
 
「……」
 
 ……。
 
「だ、大丈夫か? これ結構度が強い酒なんじゃが……」
 
「大丈夫だ」
 
「そ、そうか?」
 
「俺は酔っちゃいない」
 
「聞いてもないのに酔っ払いの常とう句を!?」
 
 なんだか頭がふわふわする。
 身体が熱くなり、腹の底から力が無尽蔵に湧き出す感覚。
 ……これは!
 
「……そうか、そうだったのか」
 
「な、なんじゃ? どうしたんじゃ?」
 
 ニナが怯えたように後退りしている。
 何を怯えることがある。
 
「何も心配はいらない」
 
 そう、大丈夫だ。
 全て問題ない。
 満を持して、俺は宣言する。
 
「俺が、魔王を倒す!」
 
「「「「えええええ!?」」」」
 
 会場内がにわかに騒がしくなる。
 そうか、英雄たる俺を称えているのだな。
 
 この腹の底から湧き上がる力は、世界を救う神の力。
 おお、聞こえる。聞こえるぞ。魔王を倒せという神の声が。
 
「りゅ、リュースケ!? そなたは酔っておるのじゃ。気をしっかりもて!」
 
「馬鹿者! 神の使徒たる俺が酔うわけがない!」
 
「いや、意味がわからんし!」
 
「さあさあ祝杯を上げよう! 世界平和の前祝いだ!」
 
 俺はメイドが持つ盆に手を伸ばす。
 
 サッ。
 
 盆が横に避けた。
 
「あ、あの。もうおよしになったほうが……」
 
「……メイドよ。我が行く手を遮るか」
 
 神の行く手を阻む輩め。
 ただで済むと、思うなよ……。
 俺はメイドの瞳をじっと見つめる。
 
「どうぞ」
 
 顔を青ざめさせたメイドが、盆を差し出してきた。
 
「ふ。そうか。君にも神の御心が通じたようで、俺も嬉しい」
 
 ごきゅごきゅごきゅ。
 
「「ああ……」」
 
「フハハハハハ! おいどうした! そこの貴様も飲め!」
 
「ヒィィ!?」
 
 その後会場内は暴れ出した俺によって大混乱に陥ったらしいが、俺はよく覚えていない。
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