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(06/03)
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雪見 夜昼
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ネット小説とか書いてます。竜†婿は「小説家になろう」でも公開中です。
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第9話 英雄、立つ


「あれ?」
 
 目が覚めると、白竜城に来た最初の夜に泊まった客室だった。
 おかしい。いつの間にここに?
確か、婚約のお祝いでパーティをしていて……。
 
「……思い出せん」
 
 酒を勧められたあたりまでは覚えているんだが。
 窓の方を見れば、朝日が射しこんでいる。
 一夜明けた、ということか。
 わけがわからない。
 
 とにかく朝飯でも食わせてもらおう。
 出入り口の扉を開く。
 
 ガチャリ。
 
「あ」
 
 巡回の兵士と目が合った。
 
「おはようございます! 英雄殿!」
 
 は?
 
「おい、何を言って――」
 
「昨夜は驚きましたが、貴殿のお覚悟に我々兵士一同、大いに感激いたしました! 旅のご無事をお祈りしております!」
 
 では、と敬礼して去っていく兵士。
 
「……英雄? 覚悟? 旅?」
 
 何だか物凄く嫌な予感がひしひしと。
 冷や汗を流しながら、王族用の食堂へと足を進めた。
 

 
「俺が魔王討伐を宣言しただとぉ!?」
 
「うむ」
 
 食堂にはニナが来ていた。
 ニナによると、昨夜俺はパーティ会場で魔王を討つと声高に宣言し、参列者と片っ端から杯を交わしたのだという。
 
「ば、馬鹿な! あり得ん! 記憶にございません!」
 
「やはりか……。酔った勢い、という奴じゃろうな」
 
 なんという……。
 酒というのは、恐ろしいものだな……。
 
「勿論そんな、酔った席での戯言なんて誰も本気にしてないよな?」
 
「それがそのう……」
 
 ニナ、何故目を逸らす。
 
「リュースケは母上とも杯を交わしての……。感動した母上は、すでに少数精鋭の魔王討伐隊を組織し始めておる」
 
「なあっ」
 
「当然、そなたに部隊を預けるつもりでの」
 
「ぎゃあ!」
 
 どうしてこうなった。
 
 だいたい魔王を倒したからどうだっていうんだ?
 んなもんすぐに他の奴が取って代わるだけだろ。
 むしろ今の魔王のままのほうが、世界征服を暇つぶし程度にしか思ってない分、安パイじゃん!
 
「逃げ――」
 
「もし今逃げたりしたら、怒り狂った母上は魔王討伐隊の名前をリュースケ追撃隊に変更するじゃろうな……」
 
「謝っ――」
 
「母上は信頼を裏切った部下にはかなり厳しいぞ」
 
 やるしか……やるしかないのか?
 
 待て! はやまるな!
 考えろ。考えろ。生き残るための術を見つけ出せ!
 
 !
 
 これだ! これしかない!
 
「至急王妃にお目通り願いたい!」
 

 
「作戦を変えたい……?」
 
「ええ。昨夜は酒に酔って、やや冷静な判断力を失っていまして」
 
 俺がそう言うと、王妃は目を細めて訝しむように俺を見た。
 隣の王様は、ハラハラしながら俺と王妃の間で視線を彷徨わせている。
 
「誤解しないでいただきたい! このミッドガルドに平和をもたらすという信念を曲げるつもりはありません」
 
 そんな信念欠片も持っていないが。
 
「では?」
 
「冷静に考えれば、今魔王を討つのは得策ではありません。そんな事をすれば世界征服急進派が魔国を掌握し、攻め込んで来るのは目に見えている」
 
 まあ、別にこれは嘘ではない。
 冷静に考えればわかることだ。
 
「そこで、急進派の旗頭である魔王の娘を倒します」
 
「ほう?」
 
 よし、関心を持ったな。
 
「彼らは次代の魔王候補を掲げることで勢力を拡げている。彼女を倒せば急進派の勢いは衰え、全面戦争は避けられる」
 
 かもしれない。
 
「ですが、彼女の事は我々も、そして魔王派も血眼になって捜しています。あなたに、見つけられますか?」
 
「お任せください。必ずや」
 
 王妃の瞳を、(偽りの)信念を込めた眼差しで見つめる。
 王妃は…………頷いた。
 
「わかりました。では魔王討伐隊は魔王の娘捜索隊にしましょう」
 
「いえ、それには及びません。捜索は俺1人で十分です」
 
「ですが……」
 
「むしろ人数が増える程、事は成りづらくなる。白竜人が何人も集まって行動していれば、例え偽装しても魔国内では目立ってしまうはず」
 
「ええ……確かに、そのせいで捜索は難航しているのだけれど」
 
「その点俺は人間ですから。それに人数は少ない程素早く動きやすい」
 
「しかし、魔国には魔物も多く出没する。1人では危険ではないか?」
 
 成り行きを見守っていた王様が口を挟む。
 
「俺の力は見たでしょう。魔物の類など恐るるに足りません。陛下の貴重な精兵(せいびょう)を、無用な危険に晒す愚は避けたいのです」
 
 王様も王妃も感動している。
 ここでもうひと押しだ。
 
「婚約したばかりでニナと離れるのは、正直辛い。ですが、魔国の侵攻を喰い止めねば2人の未来もない。どうかこの俺に、魔王の娘捜索の許可をお与えください」
 
 俺は演出で、「くっ」と辛そうな表情をしてから、頭を下げた。
 
「そこまでの覚悟で単身魔国へ乗り込むと……。わかりました。貴方がドラッケンレイの英雄と成る事を願っています」
 
「ありがとうございます! 必ずや、魔王の娘の御首(みぐし)をご覧に入れましょう」
 
 クックック。計画通り。
 俺は頭を下げたまま、口の端を三日月型につりあげる。
 
 これで出発してしまえばこちらのものだ。
 何しろ単身なのだから見張りもいない。
 本当に捜索しているかなんぞ、誰にもわかりはしないのだ。
 そのまま、とんずらこいてしまおう。
 
「ですが」
 
 え?
 
「やはり、婚約したての2人を引き裂くのは、心が痛みます」
 
 もしもし?
 
「よかったら、ニナも連れて行ってください。あれで、白竜の中ではかなりの力を持っています」
 
 何だと!? ちょっと物分かりが良すぎるんじゃないか王妃様!?
 普通は娘を危地に送り出すような真似しないだろう!
 
「え、エルザ? しかしそれはいくら何でも危険では……」
 
「そ、そう。王様のおっしゃる通りです。ニナを死地に連れて行くわけには」
 
「わらわなら構わぬ!」
 
 うおっ! ニナ! どこから湧いた!
 いつの間にか後ろに立っていたニナが、声を張り上げた。
 
「リュースケがそれほどの大役を担うならば、妻(予定)であるわらわとて付いて行かぬわけにはいかぬ!」
 
「いや、でもな」
 
「それにリュースケは異世界から来たばかりで、この世界の事はわからぬであろう。わらわに任せておけ」
 
 両手を腰に当てて胸を張るニナ。
 
 俺は縋るような気持ちで王様を見る。
 王様は目を閉じて、首を左右に振った。
 言い出したら聞かない子なんだよ、という心の声が聞こえてきた。
 

 
 多少計画は狂ったが、まあニナ1人くらいどうとでも誤魔化せるだろう。
 
 旅の準備を終えた俺とニナは、白竜城を出て、城門へと歩みを進める。
 数十メートル先に見える城門には、道を作るように兵士がずらっと並んでいる。
 見送りの人たちだろう。
 
「これからどうするのじゃ?」
 
 スキップしそうな程ウキウキしながら、ニナが聞いてくる。
 
「とりあえず、国境付近まで行って情報収集かなあ」
 
 適当に答えておく。
 なるほど! と素直に頷くニナに、良心が痛まないでもない。
 
 整列した兵士の間を抜ける。
 
「新たな英雄リュースケと、ニナ王女殿下に敬礼!」
 
 ザッ!
 
 隊長らしき人物の掛け声で、訓練された兵士たちが一斉に敬礼する。
 
「見送り御苦労。行って来るぞ」
 
「ハッ! お気をつけて!」
 
 ニナがにこやかに告げると、隊長がビシッと答えた。
 
 ……なんか本気で悪い事してる気がしてくる。
 だが命には代えられまい。
 

 
 古の竜の加護を受けし、白竜城の敷地から、
 
今、異世界からの訪問者、法龍院竜輔が、
 
 ミッドガルドの大地へ向けて、
 
 その第一歩を、
 
 踏み出した。
 

 
「むう!?」
 
 魔王城の玉座に座した魔王ガルガディスは、覚えのある力の波動を感じ取った。
 
「どうされました?」
 
 その傍らに立つ、魔人四魔将軍の1人、知将ベリアルが問いかける。
 
「ふ、ふはーははははは! まさか、生きておったのか?」
 
 突如笑いだしたガルガディスに、べリアルはミッドガルドより遥か北にある永久凍土、ニブルヘイム大陸のように冷たい視線を送る。
 
「とうとうボケましたか?」
 
「やかましい! ……くくく。戻ってきたならば、顔を見せるがよい」
 
 ガルガディスは凄みのある笑みを湛え、その名を呼ぶ。
 
「のう、ジークよ」
 

 
 ピシッ。
 
「なっ!?」
 
 人間たちの盟主にして指導国、神聖ヴァルハラ皇国。
その中心、ヴァルハラ神殿の最奥に当たる、儀式の間。
 
 歴代の姫巫女しか入れぬそこで、当世の姫巫女キルシマイアは、自身の(まなこ)を疑った。
 国宝である未来視の鏡に、ひとりでにヒビが入ったのだ。
 およそ1200年ぶりに未来視を体現した、現人神(あらひとがみ)とも謳われるキルシマイア。
 そのキルシマイアをして、このヒビはまったくの想定外であった。
 小さなヒビではあるが、これの意味するところは……。
 
「未来に、不確定要素が混ざった……?」
 
 キルシマイアは、漠として読み取れぬ未来に、底知れぬ不安を感じた。
 

 
 世界のどこかで、あるいはどこかの世界で、鈴を転がすような声が響く。
 遠い昔に忘れ去られた、哀れな怪物の声が。
 
『おかえりなさい』
 

 
「……?」
 
「む? どうしたんじゃリュースケ?」
 
 城門から外に踏み出すと、どこか懐かしい気配を感じた気がした。
 周囲を見回す。
 背後には白竜城。遠目には城下町が見えた。
 初めて見る景色に間違いない。
 だが、どこかで……。
 
「いや、何でもない」
 
 単なる、デジャヴだろう。
 
 そうして、俺達の旅が始まった。
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