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第23話 戦闘開始
「あれか」
「そのようだ」
俺の確認とも確信ともつかない呟きにナツメが呼応する。
俺、ニナ、ナツメの3人は、木に身を隠しながら洞窟――トイフェル採掘場の入り口を観察していた。
ラティは少し離れたところからこちらを窺っているはずだ。
入り口は想像していたよりもでかい。縦横それぞれ10メートルくらいはあるだろう。
少し森が拓けて広場のようになっているそこにはいくつかのテントが張られ、見張りの男が2人いた。どちらも種族は人間だ。
無駄口1つ叩かずに黙々と立ち続けている。
「思いの外練度の高い盗賊じゃな」
白竜城で幼い頃から練度の高い兵士の訓練に混ざって(遊んで)いたニナの感想。
「単なるならず者集団ではないということか。生物の気配が無いことといい、想定外が続くな」
「嬉しそうに言うなよ……」
ニヤリと笑いながら言うナツメに呆れつつ、どう出るか考える。
何も考えずに突入しても、こちらの戦力からいって負けはない気もする。
が、採掘場内ではラティの弓を活かせないかもしれない。
相手の人数も分からない以上、おびき出すというのも下策だ。
「ラティに娼婦として潜入してもらう、というのは」
カッ!
俺の目の前。木の幹に矢が突き刺さった。
「……良い腕してるじゃないか」
深々と突き立ったそれを見て、感嘆と共に冷や汗を流す。
「結局、突撃するかこっそり侵入するかくらいしか、選択肢はないか」
俺がそんな結論を口にしたところで、ナツメがすっくと立ち上がる。
「こそこそする必要はない。拙者が道を切り拓く」
「あ、おい」
止める間もなく走り出すナツメ。走りながら腰の太刀をすらりと引き抜く。
男たちがナツメに気がつくが、遅い。
すれ違いざま銀光が閃いて、見張りの1人が倒れ伏す。
淀みない一連の動作は、さすがの一言に尽きる。
離れた位置にいるもう1人が、おそらく連絡用であろう笛を鳴らそうとしていた。
1人倒されたのに動じる様子がない。ニナの見立て通りかなりの練度だ。
ガツッ!
だが笛が鳴るより速く、男の側頭部に角のない石でできた非殺傷性の矢尻が直撃する。
ドサ。
2人目も倒れ、見張りは声を上げる間もなく無力化された。
「……こりゃ、俺ら本当に人数合わせだけかもな」
「むう。エレメンツィアの活躍が……」
後から歩み寄ってきた俺とニナに、ナツメがチラチラと視線を送る。
「……何だ」
「いや、別に……」
チラチラ。
今度は倒れている男と自分の刀の間で視線を往復させる。何か言って欲しい様子だ。
……仕方ないな……。
「殺したのか?」
そう聞くとナツメは一瞬顔を輝かせたが、すぐにキリっとした表情を作って言った。
「案ずるな。峰打ちでござる」
お前それが言いたかっただけだろう。
得意気な顔してるとこ悪いが、その科白は日本ではお約束すぎて、もはやギャグなんだ。
ラティを呼び寄せて、俺たちは洞窟内部へと侵入した。
元は天然の洞窟だったんだろうが、採掘場として加工された内部は圧迫感を覚えない程度には広い。
壁には点々と灯りが灯されている。
もちろん、ここで採れる夜光石から作られたものだ。
ひと欠片では大した発光ではないが、握り拳くらいの大きさなら十分灯りとして利用できるらしい。
だから大きなものはそれだけで価値が高い。
ガス! ドサリ。
時折盗賊団のメンバーらしき相手と出くわすが、その都度ナツメが一刀のもとに斬り捨てる。
峰打ちだから正確には斬り捨ててはいないが。
「あっけない……この程度か」
ナツメが理不尽な怒りを倒した獣人にぶつける。
ナツメの実力は想像以上だった。
「首領はもう少し、できるやつなのだろうな」
「……」
うーん。正直相手にならないかもしれない……。
強すぎるぞサムライ。
竜化すればわからんが、この洞窟もそこまでは広くない。
事前にギルドで受け取っていた地図を頼りに、首領――怪盗シュピーゲルがいそうな場所を探す。
盗賊が何人か集まっている場面に遭遇しても、ナツメは危なげなく片付けていく。
「こりゃ楽でいいわ」
「エレメンツィアを使う機会がないぞ」
「あの、ニナさん? エレメンツィアで斬ったら殺してしまうと思います……」
斬りたくてウズウズしているニナ。
……呪い、解けてるよな?
結局苦労することもなく、最奥まで辿り着いてしまった。
カーン! カーン! カーン!
角から覗き見れば、広い空間で何人かの男たちが壁に向かってつるはしを振るっている。
そしてその背後で、蒼い髪の女が何やら指示を出していた。
「ほらそこ。手が止まってるわよ。もうすぐ交代なんだから気張りなさい」
「へい! すいやせん姐さん!」
あの変態的格好は怪盗シュピーゲルで間違いない。
シュピーゲル以外にもつるはしを握っていない者が2人いる。
重そうな大剣を背負った大柄な男と、壁に寄り掛かって作業を眺めているローブを着た男。
「む、あの女」
「どうした、ナツメ」
ナツメが真剣な顔で呟くので、こちらもマジな顔で訊ねてしまう。
「……胸が、でかい……」
「「「…………」」」
思わずナツメの胸部に目を向ける俺たち。
そして全員の視線が、憐れみのそれになる。
「まあ確かにナツメってニナより……だしな……」
「15歳のわらわより……」
「ナツメちゃん……」
「…………ハッ! や、やめてくれ! そんな目で見ないでくれ!」
自分が何を口走ったか理解して、赤くなった顔を両手で覆うナツメ。
「ま、まあナツメの胸はソレはソレで、アリだと思うぞ? 俺は好きだぞ。ナツメの胸」
「胸胸と連呼するな!」
「し、しー! 気付かれちゃいますよ……!」
ナツメが落ち着くまで、少々の時間を要した。
気を取り直して、作戦会議中。
「合計10人以上はいるな。さてどうする」
「あの、幸い彼らは掘る作業をしているだけでほとんど同じ位置にいますから、3人くらいなら気付かれる前に射ることができると思います」
俺が3人に問うと、ラティがそう答えた。
「そうか。よし。なら蒼い髪の女と大剣担いだ男とローブの男をやれ」
「ええ!? ちょ、あの人たち明らかに首領と幹部級じゃないですか!」
「あいつらだってほとんど動いてない。やれるなら先にやった方が楽だろうが」
「そ、それはそうですけど……。こういうのっていいのかな……」
「確かにもし俺たちを客観的に見ている誰かがいるとしたら、あの3人と正面から戦う俺たちの方が絵になるし、見ていて面白いだろう。だが俺たちは遊びに来たわけじゃないんだぞ。ニナとナツメも不満そうな顔をするな」
「うう……わかりました」
しぶしぶ納得したラティが、矢筒から矢を引き抜いた。
ラティは呼気を整え、獲物に気取られぬよう気配を殺す。
右手の指の間に3本の矢を挟み持ち、弓を横に倒すように構えた。
そして3本の矢を一度につがえる。
ギリ……ギリ……。
ゆっくりと引き絞る。
瞳は真剣そのもので、暑くもないのにラティの額には汗の玉が浮かぶ。
「……ふっ!」
短く息を吐くと同時、矢は狙いたがわず3人の人物の頭部へと吸い込まれるように放たれた。
「「「!」」」
蒼い髪の女――怪盗シュピーゲルは、寸前で上半身を傾けて躱す。
「うごっ!」
大剣の男は後頭部に直撃したが、痛そうにさするだけで倒れない。
ローブの男は、来るのがわかっていたかのように矢に手を向けた。
ボオオォォ!
手から炎が迸り、中空で矢を焼き尽くす。
そして3人が3人共、ラティの方を睨むように見た。
遅れて、他の盗賊たちもラティに気づく。
「あ、あわわわ」
ラティがはビクリと身を震わせてこちらを見る。
俺とニナは大きなため息をついて、言った。
「つかえねぇ……」「つかえんのじゃ……」
「うわあああん!」
「よしよし」
ラティはナツメに跳びついて泣いた。
仕方なしに、俺たちは姿を現す。
「あ……! アンタ……!」
シュピーゲルが俺を指差して、怒気のこもった眼差しを寄こす。
「よお。久しぶり」
俺は片手を上げて挨拶をした。
シュピーゲルは今にも怒鳴り散らしそうな剣幕になりながら、しかし大きく深呼吸をして自分を落ち着かせる。
そして何とか余裕のある笑みを浮かべて、憎まれ口をたたいた。
「久しぶりね、坊や。わざわざ私に復讐の機会を用意してくれたのかしら?」
「まさか。できればアンタみたいな変態とは2度と会いたくなかったよ」
「へ、へんたっ……」
シュピーゲルが口元を歪めて絶句する。
大剣の男が手で自らの口を押さえ、シュピーゲルから顔そむけて身体をプルプルと震わせていた。
「ジャァァン! アンタねぇええ!」
「ぶふー! くっくっく! いやすまねぇ姐さん。姐さんに面と向かって変態とか言うヤツ初めて見たから……ぶっはっは! ……まったく同感だぜ……へぶっ!」
シュピーゲルに頭を殴られて、ジャンとかいう大剣使いはとりあえず笑いを引っ込めた。
だが俺に向かって親指を立ててきたので、俺も立て返しておいた。
ビシ!
「何をやっとるんだお主らは……」
ナツメが呆れたように呟いた。
怒り心頭に発する様子なシュピーゲルがこちらに向き直る。
「とにかく! あの時のようにはいかないわよ」
今にも戦闘開始となりそうな空気となり、両集団の間で火花が散る。
「ナツメ、誰とやりたい?」
「ふむ? ならば、蒼竜人を選ばせてもらおうか」
「わらわはあの大剣使いとやるぞ」
大剣使いか……。弱くはなさそうだが、ニナも実は結構強いから多分大丈夫だろう。
自分より強い相手にはビビるから無理はしないだろうし。
「んじゃ、俺はローブだな。対魔法使いだし、妥当か」
「ラティは拙者か竜輔殿の傍を離れないようにしながら、雑魚を仕留めてくれ」
「わ、わかりました」
ちなみに俺たちこんな会話をしている間、向こうは向こうでヒソヒソと話していた。
まだ作戦会議は終わっていないようだが、待ってやる義理もない。
「柊棗、参る」
抜刀するナツメ。
「行くぞ! エレメンツィア!」
嬉々として大鎌を構えるニナ。
やはりこの2人が先陣を切って走り出した。
「やれやれ。行くか」
「は、はい」
出遅れた俺も、矢をつがえるラティを庇うよう意識しつつ、無言で佇むローブの男の方へと足を向けた。
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