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第25話 遍く断つ
ギャオオオオオオオオ!!
右側面から、鼓膜が破れそうな咆哮。
ダンッ!
俺とナツメは咄嗟に地面を蹴って、左方向に跳び退る。
ズシン!
俺たちがいた場所に降り立ったのは…………何というか。
ザザーッ。
ナツメと同じような軌道で着地しつつ、ソレを観察する。
「あれ、緑竜人じゃないよな?」
「あ、阿呆! あのような竜人がおるか!」
だよな。
黒っぽい緑の硬質な肌。
ぎょろぎょろと動く爬虫類の瞳。
2足歩行の巨大な脚部。
長々と伸びるトカゲのような尻尾。
ギャオオオオオ!!
叫ぶ口内には立ち並ぶ鋭い牙。
以前見たゲオルグ――黒竜人よりでかい。7メートルはあるか。
ドラゴン、と言うには、少々グロテスクな印象を受ける。
「この世界、竜人の他にも竜が?」
「おるかっ! というか、あれは竜なのか?」
「竜っていうか……。俺の世界に昔いた恐竜ってのに近いな」
ティラノサウルス的な。
ギャオオオオオン!
怪獣映画のように吠え猛りながら、怪物――ティラノと名付ける――が猛然と襲いかかって来た。
すぐさま踵を返して逃げ出す俺たち。
ギャオオオオ! バキバキバキ! ズシンズシン!
木々を薙ぎ倒しながら、かなりの速度で追って来る。
両脇から「ぎゃあああ!」とか「ひえええ!」とか悲鳴がうるさい。
「十中八九、魔物だろう。あのような種は見たこともないが……」
ザザザッ。
草をかき分け、冷や汗を流して俺と並走しながらナツメが言う。
「逃げ切れると思うか?」
ナツメに問う。
チラチラと後ろを確認すれば、徐々にではあるが距離はひらいている。
「逃げるだけなら、おそらくは。だがもし、この化物が拙者たちを追って町まで来たら……」
大惨事だろうなあ。
俺は知っちゃこっちゃないと思うが、ナツメの目はそうは言っていない。
「……やるの?」
「ああ、やる」
森の終わりに近づき、少し拓けたところに出る。
ナツメはブレーキをかけて、迫るティラノの方に向き直った。
そして太刀を正面に構える。
俺はナツメより少し進んでから止まり、ナツメの背後5メートルくらいに位置どった。
急制動に小脇の2人が呻き声を上げる。
「……はあー。俺としては、町の有象無象どもを犠牲にしてでも逃げ出したいんだが……」
「……リュースケさんならそうでしょうね……ぐえ」
言いやがるラティを抱える腕で締めつけてから、2人を地面に下ろした。
「有象無象はどうでもいいが、ナツメは友達だからな。一応、手は貸してやる」
「かたじけない。しかし奴の相手は拙者がする故、竜輔殿には2人を頼みたい」
「何?」
1人でやる気か?
まさか自己犠牲……と思ってナツメの顔を見れば、浮かんでいるのは心底楽しそうな笑顔。
……この戦闘狂め。
「お礼に、後でラティを思う様触らせてもらうからな」
「何で私ですか!?」
「わらわも触る」
「ええ!?」
2人と共に、ナツメからさらに距離をとる。
ギャオオオオオ!
追いついたティラノが森から飛び出してきた。
ナツメが益々好戦的な笑みを深める。
「……楽しそうだな」
「ああ……これほど血沸き肉躍る相手は久しぶり……だっ!」
太刀を下段に構え直し、ナツメがティラノに向かって走り出す。
「せぇぇぇぇ!!」
ギャオオオン!
ティラノもズシズシと大地を揺らしながら、前傾姿勢でナツメを噛み殺そうと迫る。質量差は圧倒的だ。
急激に縮まる両者の距離。
「ナツメちゃん!」
ラティが思わずといった様子で声を上げた。
ティラノの牙がナツメを捉える、その寸前。
「ふっ!」
ガッ!
ナツメは右足で力強く地を蹴って、姿が霞む程の速度でティラノの側面に跳び込む。
着地の足をさらに蹴り足とし、ティラノの腹の下を潜りながら斬りつけた。
ザシュ! ドガァン!
腹を斬り裂かれバランスを崩したティラノが、前のめりに倒れた。
「……浅いか」
ナツメは得物を素早く血振るいし、倒れるティラノに追い打ちをかける。
「はぁぁぁ!」
ギャオオオ!
ティラノは体を起こしながら、尻尾を大きく振ってナツメを牽制した。
「! ……くっ!」
人には無い器官による攻撃に虚をつかれたナツメだが、かろうじて後ろに跳び下がってそれを避けた。
ブゥン!
ナツメの目前数十センチの距離を尻尾の先端が通過する様は、見ているこっちが冷やっとする。
その隙に立ち上がったティラノは、怒りに哮りながらナツメと向かい合う。
腹の傷から血が流れてはいるが、致命傷には程遠い。
仕切り直し。再びぶつかり合う両者。
速さを活かし確実に傷を追わせていくナツメと、当たれば即終了となるだろう一撃を繰り返すティラノ。
一見戦いはナツメ優勢に進んでいるようだが、刀というのは斬れば斬る程切れ味が鈍る。
長引く程、ナツメがティラノを倒すのは難しくなるだろう。
一刀での傷の浅さを見るに、決定打に欠けるナツメは非常に不利だ。
まあ、あの生物相手に有利な人間がいるのかという話にはなるが。
「りゅ、リュースケ。手を貸さんでいいのか?」
不安そうに訊ねるニナ。
「うーん。だってあの顔見てるとなあ」
ナツメは追いつめられる程にむしろ笑みを深めていく。
戦いを楽しんでいるのは明らかだ。
ガキン!
とうとう、切れ味の落ちた太刀がティラノの表皮に弾かれる。
体勢を崩したナツメに、ティラノの尾が叩きつけられた。
「っ!」
飛び退るナツメ。
ズドォォン!!
土や草花と共に、ナツメが大きく吹き飛ばされる。
ラティとニナの悲鳴。
空中で回転しなんとか足から着地したナツメだったが、ダメージは大きいのか片膝をついた。
直撃は避けていたが、掠めただけでもあれだ。
「手を貸すか?」
「不要。次で決める」
ナツメの目を見る。
汗だくで疲労もピークのようだが、見返す瞳には自信が見てとれた。
強がりではないようだな。
ギャオオオオン!
止めを刺すべくナツメに襲いかかるティラノ。
ナツメはティラノを……いや、自身の刀を睨みつけた。
「まったく。追い詰められないと使えないのだから、自分の未熟が身に染みる」
そう呟いたナツメは、刀で天を衝く上段の構え。
ん? 何やら、刀身が薄赤く発光している。
「斬鬼仏滅、退魔殺神。柊流奥義、天地!」
迫るティラノに数メートルの間をおいたまま、太刀を真っ直ぐに振り下ろす。
ヒュン!
天から地へ。剣先が見えぬ程の、高速の素振り。
ティラノの身体の中心を赤い光の筋が通過したことを、ニナたちは確認できただろうか。
ズン……ズン。
ティラノの足が、止まる。
直後、その巨体が真っ二つに割れた。
「「うっ」」
あまりにグロいので細かい描写は避ける。
ニナとラティが口を押さえて吐き気を堪えていた。
凄ぇ……何という厨二病。
ナツメは刀で血溜まりをビシッと指し示す。
そして得意気に宣言した。
「今宵のコテツは血に飢えている」
「いや今昼間だし」
その光景を覗き見る人影が2つ。
1人は男、1人は女。
「……驚きました。まさか私の召喚獣を真っ二つにする人間がいようとは」
そう語ったのは、魔人四魔将軍が1人、知将ベリアル。
竜輔がティラノと名付けたあの怪物。
ナツメは十中八九魔物だと言ったが、ティラノはその十中の一二に含まれる例外だった。
ある意味竜輔と同様の存在。ベリアルが召喚した異界の生物。
「……意外」
そう一言無表情に呟いたのは、まだ20歳前後に見える若い女。
白っぽい水色の髪はストレート。
魔人の証である尖った耳は、他の魔人のそれに比べてやや丸みを帯びている。
それは彼女が魔人と人間のハーフであることを示していた。
そして彼女の美しさを際立たせる、左目の下の泣きぼくろ。
「貴女の目当ては男の方でしたか」
こくりと頷く女。
「でも、あの女もなかなか」
不気味に光る瞳で、女はナツメを見つめる。
そんな彼女を見て、ベリアルはため息をついた。
「やれやれ。まさか趣味の――標的の力試しのためだけに、魔王派の私を呼び立てるとはね。四将召喚器(魔人四魔将軍相互召喚器)は、こんな事のために創ったんじゃありませんよ」
自身の耳に付いた青い石のピアスを弾きながら、ベリアルはぼやく。
女の耳にも同じピアスが見えた。
「借り、ひとつ」
悪びれもせず、女は言う。
ベリアルは肩をすくめた。
「まあこれで貴女の気が逸れて、侵攻を遅らせてもらえるのなら安いものですが。それなりの見物でしたしね。……ふう。死にかけのクソ爺ぃの顔を見て過ごすより、いっそ貴女に仕えたほうが面白そうだ」
こくこくと頷く女。
「熱烈、歓迎」
苦笑するベリアル。
「冗談です。貴女は貴女で、面倒なお人ですから」
「残念」
まったく残念そうには見えない無表情で言って、女は再びナツメへ、そして竜輔へと視線を向けた。
「暇つぶし、見っけ」
ニタァ。
女は美しい顔に、怖気の走る妖しい嗤いを浮かべた。
どこか壊れて、病みきった嗤い。
「侵攻は、しばらくやめる。アヴゼブと父様にも伝えて」
アヴゼブは元四魔将軍の力将であり、今は急進派のまとめ役のようなことをしている。
なんで私が、と頭を振りながらも、結局ベリアルは了解した。
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