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ネット小説とか書いてます。竜†婿は「小説家になろう」でも公開中です。
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第29話 竜虎相搏つ


「落ち着け! 竜輔殿!」
 
「……」
 
 馬を駆るリュースケさんを、私たちも馬で追っています。
 ナツメちゃんが必死に宥めようとしていますが、リュースケさんは憤怒に滾らせた瞳で前を見つめるばかりでした。
 
 私はついて行くのに精一杯で、声を掛ける余裕はありません。
 
「ヴァルガノスに乗り込んでどうするつもりだ! よしんば果たし合いに勝ったとしても、生きて帰ることはできんぞ!」
 
「……うるせぇ。邪魔をするなら、お前から死ぬか」
 
 ――ゾクリ。
 
 リュースケさんはナツメちゃんを横目で見ただけなのに、私まで背筋が凍る思いでした。
 
 怖い。
 短い付き合いですが、こんなリュースケさんは始めて見ます。
 怒っても、どこかふざけているような人だったのに。
 戦闘中でも冷静で、いつも余裕のある人でした。
 やはりそれほど、ニナさんが大切だったということでしょうか。
 
 ナツメちゃんは少したじろぎつつも、真っ直ぐに見返して言いました。
 
「……拙者のこの命は竜輔殿に救われたもの。殺すというのなら受け入れよう。だがその前に、拙者の話を聞いてもらいたい」
 
 ナツメちゃんの真摯な言葉に、罵倒は返ってきません。
 リュースケさんは気まずげに視線を前へ戻し、ほんの少しだけ馬の速度を落としました。
 
「……すまん。聞こう」
 
 リュースケさんは、やや冷静さを取り戻したようです。
 それでも、怒りの炎がその瞳から消えることはありませんでした。
 
「感謝する。……ヴァルガノスは魔国防衛の要。魔国の誇る魔導兵器の宝庫――いや、魔導兵器そのものと言っても過言ではない。その射程圏内に入れば、生きて帰る事はできん」
 
 そうです。
 魔導要塞ヴァルガノスは難攻不落。数千年もの長きに渡り、魔国への侵攻を妨げてきました。
 攻めるに難く、退く事あたわぬ。
 そう言われています。
 ひとたび射程圏に入れば、超長距離広域魔導砲、ハドローンで殲滅されるからです。
 
 ナツメちゃんから同じような説明がされましたが、リュースケさんの意志は変わりません。
 
「今回は招かれているんだ。俺を罠にはめる意味もない。要塞までは行けるだろう」
 
「だが人質がいては満足に戦えまい。それに先程も言ったが、たとえ勝っても、魔人四魔将軍を倒す程の者をタダで帰す訳が無い」
 
「……」
 
 リュースケさんは、沈黙して考え込んでいます。
 
 この誘拐事件はそもそもがおかしいのです。
 人質なんてとった時点で対等な立場では戦えないし、ヴァルガノスに呼び寄せるなんて、生きて帰さないと言っているようなものでした。
 
「相手の狙いが見えて来ないが、ここは冷静に対処を考えて――」
 
「……魔導砲ってのは、どうやって動いている」
 
「は?」
 
 リュースケさんの唐突な質問に、ナツメちゃんはすぐには返答ができません。
 
「い、いや。詳しい仕組みはわからんが……。魔導兵器だから、魔力を原動力にしているのだと思う」
 
 自信なさげなナツメちゃんの解説に、リュースケさんは頷きました。
 
「それだけ分かれば十分だ。ありがとう、ナツメ。ラティも」
 
 そう言って、リュースケさんは再び速度を上げていきます。
 
「ま、待て! 駄目だと言っているだろう! 死ぬ気か!?」
 
「大丈夫だ。策はある。いや、策とも呼べない力技だが……。お前らは先に帰ってろ」
 
 どうあっても、ヴァルガノスに行く事をやめるつもりはないようでした。
 
「……わかった。そうまで言うのなら、もはや止めはすまい。だが帰っていろはないだろう。ニナ殿は拙者らにとっても友人。ここまで来れば一蓮托生だ」
 
 あれ?
 今、拙者「ら」って言いましたか?
 
「なあラティ?」
 
 ナツメちゃんが良い笑顔で私に振り向きました。
 
 ええ!? ちょ、待っ!?
 私も行くんですか!?
 
 い、いや。そりゃニナさんの事は心配ですけれど……。
 私なんかが行っても、足手まといかなー、なんて。
 
「……ありがとう。すまない2人共」
 
 ああ!
 なんか了承したことになっています!
 
ついて行くのに精一杯で、肯定も否定もできませんでした!
 
 うう……わかりましたよ……。
 
 故郷のお父さん、お母さん。ごめんなさい。
 私は今日、死にます。多分……。
 

 
 魔導要塞ヴァルガノス。
 その一室で、3人の魔人の男たちが会話を交わしていた。
 
「来るかな? ガルデニシア様のお気に入り」
 
「来る訳ないだろ」
 
「だよなあ……」
 
 男たちはため息をつく。
 
 彼らはヴァルガノスの兵ではなく、ガルデニシア個人の親衛隊である。
 昨夜ニナの誘拐に駆り出されたのも、彼らだった。
 
「またベリアル様が適当な事言ってけしかけたんだろうなあ」
 
「ガルデニシア様も、ベリアル様に相談するのはやめればいいのに……」
 
「兄妹みたいなものだからな。あのおふたりは」
 
「最凶最悪の兄妹だなあ……」
 
 再び、ため息。
 
「そういえば、例の白竜人はどうしている」
 
「地下牢に放り込まれてるみたいだよ」
 
「……ちょっと可哀そうだな」
 
「あの兄妹に目をつけられたのが、運の尽きさ」
 
 嫌な事を忘れるように、3人は昼間から酒を呷った。
 
 ガルデニシアは守る必要がまったくないので、彼らは基本的に暇であった。
 

 
 ヴァルガノス、地下牢。
 
 ニナは未だ、そこで眠っていた。
 その手には血濡れの大鎌、エレメンツィア。
 結局ここまで手放さず、面倒だからそのままでいい、というガルデニシアの一声で、そのまま放り込まれた。
 
 実際、鉄格子を斬り裂くような真似は、いかにエレメンツィアでも不可能であろう。
 
 ゴツ、ゴツ。
 コツコツコツ。
 
 体重の重さを感じさせる足音が、ニナの牢へと近づいてくる。
 後に続く足音は、逆に軽い。
 
「だ、駄目ですよダルカンさん! 将軍から手を出すなって言われてるんですよ!?」
 
 細身の魔人の男が、太った魔人の男を必死に止めている。
 
「うるぜえ! オデに意見ずるなっ」
 
 バシッ。
 
「うっ」
 
 突き飛ばされて、細身の男が尻餅をつく。
 細身の男は、ノシノシと進んでいく看守長ダルカンを、忌々しげに見つめた。
 
(まったく、何でこんな奴が看守長なんだ)
 
 これは、ヴァルガノスの前任の責任者が決めた事だ。
 同じ趣味を持つ者として、ダルカンとは仲が良かったらしい。
 今の責任者――ガルデニシアは、人事になどまったく興味がない。
 
「おお。ごいづが。めんごいでねぇが」
 
 嫌らしい笑みを浮かべて、ダルカンはニナを舐めまわすように見つめる。
 
(この変態親父がっ)
 
 細身の男も、ガルデニシアが連れてきた白竜人は、確かに美しいと思う。
 まだ年若いが、将来が楽しみな美貌である。
 
(だがっ。幼女は摘み取るものではない。愛でるものだっ!)
 
 細身の男も、十分に変態であった。
 ニナは幼女という程幼くないが、あどけない寝顔は男の庇護欲をそそるのに十二分な威力を発揮した。
 
 男は、牢を開けようとするダルカンに果敢にも掴みかかる。
 頑張れ! ニナにとっては君の方がまだ少しはマシだ!
 
「やめてください!」
 
「やがまじいっ!」
 
 バシッ。
 
「へぶっ」
 
 しかし体格差は如何ともし難く、あっけなく細身の男は敗れ去った。
 壁に叩き付けられ、揺れる視界でニナに近づくダルカンを見る。
 
(ああ……すまない、少女よ)
 
「……む……?」
 
 ダルカンの邪悪な気配を感じたか、ニナが目を覚ます。
 そして迫るダルカンの醜悪な顔を見て、驚愕の声を上げた。
 
「ぬお!? なんじゃ!? よ、寄るでないわっ!」
 
 慌てて鎌を振り回すニナ。
 
「ぶほっ。あぶねえな。何で捕虜が武器なんが持っでいやがる」
 
 気持ち悪い声を発して、ダルカンが一歩下がる。
 そしてニナに右手を向けて、彼の魔法を使った。
 
「!? な、なんじゃ!? 体が……!」
 
 ニナは自分の体が、急に動きづらくなったことを感じる。
 ダルカンはこれでも優秀な魔法使い。相手の動きを制限することができる。
 一般人ならまったく動けなくなるし、この通り白竜人であってもかなりの効果がある。
 
「げっへっへ。観念じな」
 
 何でこんなことになっているのか分からず、混乱するニナ。
 怖い。どうして。何が。何で。気持ち悪い。寄るな。触るな。
 
 下卑た笑みを浮かべながら、ダルカンがニナに手を伸ばす。
 
「っ!」
 
 ニナは思わず目を閉じた。
 
 ザシュ。
 
 生々しい切断音。
 
「薄汚い手で主に触れるな。下種が」
 
 若い女の声。
 
 目を開けると、ニナが持っていたはずのエレメンツィアを持って、ひとりの女性が立っていた。
 白。真っ白。
 髪も白、変な意匠の服も白。肌も白いし目も白い。
 色の印象としては、ニナと似たところがある。
 
 背は高く、怜悧な美貌は強く鋭く足元を睨みつける。
 
 その足元には、ダルカンであったモノ。
 頭部が切り離されたそれは、すでに生物としての機能を停止している。
 
 ニナは男のその様を見て顔を顰めたが、同時に安堵した。
 そして女を見上げる。
 
「主。助けるのが遅れて申し訳ありません。主は魔力を持たない故、自然の魔力を集めるのに時間がかかりました」
 
「あ、主? わらわの事か? そなたは一体、何者じゃ?」
 
 ニナの言葉に、女が首を傾げる。
 
「これは異な事を。私を買い取り、名づけたのは主ではありませんか」
 
「……まさか……」
 
 女の言いようから、ニナはひとつの結論に至る。
 
「私はエレメンツィア。呪いから解き放たれた、この大鎌の精霊です」
 
 手に持つ鎌を掲げ、女性――エレメンツィアはその名を告げた。
 ニナは目を丸くする。
 
「なんと、そうじゃったか。って、呪いを解いたのはわらわではないのじゃが」
 
「ええ。あの方にも感謝はしております。しかし私の所有者――主は貴女です」
 
 あまりの事態に、ニナはしばらく思考停止する。
 が、ハッとして周囲を見まわした。
 
「ここはどこじゃ」
 
「魔導要塞ヴァルガノスと呼ばれる場所のようです」
 
「な……なんじゃとぉ!?」
 
 何故そんなところにいるのか。
 しばらくうんうん唸って考える。
 そして、思い出した。
 
「あ。そうか。宿で何者かに襲われて……」
 
「……申し訳ありません。あの時は力及ばず、お助けすることができませんでした。そして今も……」
 
 ニナは、エレメンツィアの姿が徐々に透けていくのに気がついた。
 
「エレメンツィア!?」
 
「魔力が尽きたようです。どうかご無事で……」
 
 カラン。
 
 女性(エレメンツィア)が消えて、大鎌(エレメンツィア)が床に転がった。
 
 途端に、ニナは心細さを感じた。
 どうしたらいいか分からず、涙が込みあげそうになる。
 
(リュースケ……!)
 
 最愛の婚約者を思い浮かべた、その時。
 
 カツン。
 
 足音。
 廊下に目を向ければ、あの女が立っていた。
 
「ま、魔王の娘!」
 
 咄嗟にエレメンツィアを拾い、構える。
 
 ガルデニシアは床に転がるダルカンであったモノを見て、廊下に転がる細身の男に話しかけた。
 
「これは? 白竜人が?」
 
「あ、はい! その……何と言うか」
 
 慌てて細身の男は立ち上がり、直立不動の姿勢。
 しかし見た事を、どのように説明するべきか思いつかない。
 はやく説明しなくては、と焦る程に、説明を難しく感じる。
 
 そんな彼の心情を知ってか知らずか。
ガルデニシアはあっさりと言った。
 
「まあ、いい」
 
「ええ!? いいんですか!?」
 
「いい。こいつ、嫌い」
 
 茫然とする細身の男をよそに、ガルデニシアはニナに話しかける。
 
「一緒に、来なさい」
 
「……」
 
 ニナは無言で拒絶。
 
「あの男が、来た」
 
 ニタァ。
 
 禍々しい嗤いを浮かべるガルデニシア。
 引きつつ、ニナは理解した。
 
「リュースケ……リュースケが、来たのか!」
 
 ついつい、喜びが表情に表れるのを、ニナは堪えきれなかった。
 

 
「まさか本当に来るとは……」
 
「馬鹿なのか……大物なのか……」
 
 大勢のギャラリーに観察される中、俺はガルデニシアと向かい合っていた。
 ナツメとラティは少し離れてこの対峙を見守っている。
 
 ガルデニシアの後方に見えるのは、巨大な人口建築物、魔導要塞ヴァルガノス。
 立ち並ぶ砲門が、俺に狙いを定めていた。
 
「リュースケ!」
 
 俺を見て喜ぶニナ。
 少し目が赤い。それを見ただけでブチギレそうになった。
 俺はニナに頷いて応えてやる。
 
「望み通り、来てやったぞ。さっさとニナを解放しろ」
 
 ニナはガルデニシアの傍で、男に後ろ手に拘束されている。隣の男が、エレメンツィアを取り上げていた。
 
 すぐに走り寄ってぶちのめしたい衝動に駆られるが、耐える。
 
「放したら、逃げる。私に勝ったら、放す」
 
 人質をとる以上、そう来るだろうとは思っていたが。
 頭に血が上るのは、避けられない。
 
「いいぜ。なら、さっさとやろう。尤も、先にニナを解放しても、俺は逃げないけどな」
 
 怒気を込めて、ガルデニシアを睨みつける。
 ガルデニシアは少し目を見開いた程度の反応。
 
 だが近くにいた男たちが、俺を見て大きくたじろいでいた。
 
 ――な、何なんだ? あの男は。
 
 ――ただの人間ではないのか? 何というプレッシャーだ……。
 
 ギャラリーもざわつく。
 
 ニナも、俺の様子がいつもと違うことを感じ取って、不安そうにしている。
 
「俺は、怒ってるんだよ……!」
 
 こんな精神状態になったのは、初めてだ。
 冷静な思考が妨げられる。
 とにかく力任せに何でもいいから殴りたくなる。
 
「むしろ今更、ニナを解放したくらいで許されると思うな。てめぇがやったことを後悔して咽び泣け。そして死ね」
 
 ニタァ。
 
 俺の言葉を受けて、あの気持ち悪い嗤いを浮かべるガルデニシア。
 
「……いい。この感じ。父様以外では、初めて」
 
 この女は……。
 
「ニナ」
 
 俺はニナに呼び掛ける。
 
「な、なんじゃ?」
 
 初めて見る俺に、驚いているニナ。
 当然だ。俺自身驚いている。
 
「すまん。人質になってるお前には悪いが、手加減できそうにない」
 
 きょとんとする、ニナ。
 そしてニヤリと笑い、言った。
 
「構わん。全力でやれ」
 
「応」
 
 再び視線を、ガルデニシアに戻す。
 
「さて。始めるか。世間知らずのお姫様」
 
「いく」
 
 ザッ。
 
 お互いが、構える。
 ニナを連れて、男たちが下がった。
 
「圧倒的な力が売りらしいな」
 
「そう。わたしの魔法属性、怪力」
 
 それを無効化して叩きつぶしてもいいが、それでは面白くない。
 
「教えてやるよ。上には上がいるってな」
 
 ニタァ。
 
 ガルデニシアの嗤いを合図に、俺たちは同時に地を蹴った。
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