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雪見 夜昼
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ネット小説とか書いてます。竜†婿は「小説家になろう」でも公開中です。
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第30話 戦慄のヴァルガノス

 ナツメと戦った時と同じく、ガルデニシアは真っ直ぐに突っ込んで来た。
 
「っらああああ!」
 
 伸びてくる右腕を掴み、突進力を利用して思いきり投げ飛ばす。
 
 ブン!
 
「!」
 
 ガルデニシアは進行方向に回転しながら吹っ飛ぶ。
 別にダメージは無いだろう。距離を離すのが目的の投げだ。
 
 俺はガルデニシアと反対方向、ニナの方へ(・・・・・)駆け寄る。
 
「!? げふぉ!」「ごべらっ!」
 
 まさか戦闘中にこちらに来るとは思っていなかった男たちは、まったく反応できていない。
 必要以上の力を込めて、ニナを掴む男とエレメンツィアを持つ男を地に沈めた。
 
「ナツメのところへ走れ」
 
 ニナに鎌を渡しながらそう告げて、頷くのを見てから後ろ回し蹴りを放った。
 
 ガツッ!
 
 その蹴りを、迫っていたガルデニシアが両腕を交差して受け止める。
 
「よそ見、駄目」
 
「丁度いいハンデだろ」
 
 ガッ。
 
 受けるガルデニシアの両腕を蹴りつけて、お互い弾かれたように距離をとる。
 
「さあ。お仕置きの時間だ」
 
「せっ!」
 
 低い姿勢で距離を詰めたガルデニシアが、地に手をついて、コンパスのように回りながら足払いを掛けてきた。
 強烈な蹴り。
普通の奴なら喰らえば両足の骨が粉々になるだろうし、俺でも受ければ相当痛いだろう。
 
 軽く跳んで躱す。
 
「ふっ!」
 
 ガルデニシアは回転をそのまま、地についた手のバネだけで体を浮き上がらせる。
 大きく体を捻り、左足裏を俺の顔面に突き出す――ローリングソバットか。
 
 左腕で受ける。同時に、浮き上がった体が吹き飛ばされないよう、後ろ足で大地を蹴るように踏みつける。
 
 ズシン!
 
 受けた左腕から、衝撃が全身を伝わる。
 俺の足元で、ガルデニシアの蹴りの力を流された大地が大きく抉れた。
 
 止められるとは思っていなかったガルデニシアの目が、大きく開かれる。
 
「死ねやクソアマ」
 
 ドゴォ!
 
 右回し蹴りを、中空のガルデニシアの背に全力で叩きこむ。
 
「っ!」
 
 ガッ! ガツッ! ドザー。
 
 ガルデニシアの身体は地面を2度跳ねて、止まった。
 
 うつ伏せのまま、ガルデニシアは動かない。
 
 ――……馬鹿な……。
 
 周囲から、息を呑む気配を感じた。
 それはまだ、早いと思うがね。
 
 案の定、ガルデニシアはむくりと起き上がる。
 飛ばされた時に切ったのか、口元の血を拭いながら、嗤う。
 
「……強い。これなら、本気でやれる」
 
「最初からくだらん出し惜しみなんざするな、雑魚」
 
 ピク。
 
 雑魚、という言葉に、ガルデニシアの眉が僅かに反応した。
 
「雑魚、じゃない」
 
「怒ったか。だったらさっさとかかってこい。本気とやらで」
 
「証明、する」
 
 ダァン!
 
 直後、眼前にガルデニシアが現れる。
 相変わらず、アホみたいに直進は速い。
 
「はあ!」
 
 ゴッ!
 
 避けきれず、右ストレートを左頬に受けた。
 
「づっ……! ってぇな!」
 
 ドゴッ!
 
 遅れて放たれた俺の左拳が、ガルデニシアの右脇腹、人体急所のひとつ肝臓の位置へと突き刺さる。
 は〇めの一歩で学んだリバーブロー。
 
「……!」
 
 苦痛に顔を歪めながらも、ガルデニシアも左の拳を突き上げる。ただし、俺の顎に。
 
「ぐっ……!」
 
 これを受けたら洒落にならない。紙一重で避け、掠った拳が俺の頬を浅く切り裂いた。
 
 ドガ!
 
 すかさずコンビネーションで俺の腹に打ち込まれた右を、右腕で止めた。
 受け止めた腕がビリビリと痺れる。
 
 ――この力で、ニナを(さら)ったのか。
 
 バシィ!
 
 休む暇なく放たれる左ハイキックを、左手の平で脛を掴むように受ける。
 腕ごと体が吹っ飛ばされそうな一撃。
 
 ――この力で、ニナを怖がらせたのか。
 
 掴んでやろうと思ったが、足はすぐさま引かれる。
 
 ガッ!
 
 さらに、引いた足を戻すように連撃。
 掲げた右腕で受ける。
 不十分な体勢から放たれた蹴りのくせに、右腕の痺れが酷くなる。
 
 俺が顔を顰めたので好機と見たか、大振りな右ストレートが再び俺の顔面に迫る。
 大気を切り裂く剛腕の一撃。岩をも砕く破壊の拳。
 
 ――この力で……ニナを泣かせたのか……!
 
 身体が熱い。
 力が湧き上がる。
 
「おらあ!」
 
 ガンッ!
 
 むしろ自分から拳に突っ込むように、前頭部を叩きつけた。
 
「っ!」
 
 弾かれたように右腕を引くガルデニシア。
 かくいう俺も、眩暈がするほど痛いぜ畜生。
 
「もう一丁!」
 
 ゴン!!
 
 今度はガルデニシアの額に、俺のそれを思いっきりぶつける。
 
「づっ!」
 
 ぐあー!
 なんという諸刃の剣!
 
 だがガルデニシアも大いにひるみ、額を両手で押さえるなどという軽挙に出た。
 
「ガラ空きだぞ!」
 
 空いた腹に右膝を叩き込んだ。
 
 ズドッ!
 
 身体がくの字に折れ曲がり、見えた頭部にさらなる頭突き。
 もう俺の額のライフはゼロだ。
 
 ゴガン!
 
「っあ……!」
 
 余りの痛みに声を上げ、顔を上げたガルデニシアの頬に、今度は俺が右ストレートをぶち込んでやる。
 
 ズガァア!
 
 吹っ飛んだガルデニシアが大地をその身で削り取った。
 

 
 痛い。身体中が痛い。
 
 何故?
 
 やられたから。あの男に。
 
 何故?
 
 わからない。
 
わたしはいつものように殴った。いつものように蹴った。
 でも、あの男は倒れない。
 今までのヤツは、すぐ倒れるか、死んだのに。
 
 何故?
 
 わからない。
 
 あの男が、近づいてくる。
 胸の奥がざわざわとして、嫌な気持ちになる。
 
 何故?
 
 わからない。
 
 これは何?
 
 わからない。
 
 あの男が倒れるわたしを見下ろしている。
 不思議な力を感じた。魔力ではない、気がする。
 
 それは何?
 
 わからない。
 
 男と目が合う。胸の奥がざわつく。
 
 何故?
 
 わからない。
 わからない。
 わからない。
 
 どうして身体が震えるのか、わからない。
 どうして身体が動かないのか、わからない。
 
「オラ、起きろ」
 
 男がわたしの胸倉を掴んで、無理矢理に立ち上がらせた。
 
「……何を悩んでる」
 
 男が問う。わたしは、答える。
 
「身体が、動かない」
 
「それは、お前が俺に負けたからだ」
 
「負け……た……? わたし、が?」
 
 負け……?
 負けって、何?
 負けたことは、ない。これまでは、なかった。
 
「そうだ。そして負けたお前は、死ぬ。お前が言った事だろう」
 
「し……ぬ……」
 
 身体の震えが止まらない。
 
 負けたら、殺される。
 わかっていたはず。
 勝ったら、殺してきた。昨日のあの女とアヴゼブ以外は、例外なく。
 
 わかっていたはず。
 
 なのに、どうして。
 こんな気持ちになるのか。
 
「わからない……何。この気持ちは……何」
 
「それはお前が、死を怖れているんだ」
 
 おそれる……?
 死……。
 
 これまで殺してきた相手が、脳裏に過る。
 
 頭を潰した。腹を貫いた。心臓を握り潰した。腕をもいだ。脚をもいだ。首をねじ切った。岩で押し潰した。殴り殺した。切り殺した。刺し殺した。くびり殺した。
 
 殺した。殺した。殺した。殺した。
 
 だから次は、わたしの番?
 
 ――ガタガタガタ。
 
 身体の震えが大きなる。
 これが、怖い、ということ?
 
「……あ……い、や……死にたく……ない」
 
 涙を流したのは、いつ以来、だろう。
 

 
 ヴァルガノスの中から決闘を見守っていた、ガルデニシアの副官の1人が、彼女の涙を見て、ハッとしたように声を張り上げた。
 
「こ、殺せ! あの男を! 姫様をやらせるな!」
 
 ガルデニシアが負けるなどと、夢にも思っていなかったため、対応が遅れた。
 周囲の兵士が慌ただしく動き出し、対個人用の魔導兵器起動の準備に入る。
 
 ゾクリ。
 
 副官の男は寒気を感じて、ガルデニシアを掴みあげる男に目を戻す。
 
 男は、こちらを冷めた瞳で見つめていた。
 パクパクと、何か話しているのが見える。
 声は届かないが、副官は読唇術を心得ていた。
 
 ――読めてるんだよ。カス共が。
 
 男が右手をこちらに向ける。
 魔法、なのか。
 その手から、見たこともない黒いモノが、無尽蔵に溢れ出す。
 
 ブワッ!
 
 瞬く間にソレは拡がり、副官の視界は闇に包まれた。
 
「な、何だ!? 何なんだよ! コレはぁ!」
 
「ひっ。見えない! 何も見えない!」
 
 兵士たちは恐慌状態に陥る。
 突然わけのわからない闇に視界を奪われれば、無理もない。
 
 彼らは知るべくもないが、闇は、魔導要塞ヴァルガノスの全てを覆い尽くしていた。
 
 唐突に、視界が戻る。
 
「……? ……ハッ。おい! 大丈夫か!?」
 
 副官は声をかけつつ、周りを見る。
 兵士たちは唖然としているが、怪我などはないようである。
 
「……何だかわからんが、早くあの男を――」
 
 そこで、男は気づく。
 魔導兵器のための魔力貯蔵庫の、魔力残量を示す石がある。
 残量によって色が変わり、先程までは緑色――9割以上貯まっている状態を示してた。
 
「な、んだと……」
 
 今は、透明。
 魔力残量、ゼロ。
 
 副官の様子から他の兵士も気付いたのか、周囲がざわつき始める。
 
「ほ、他の、他の貯蔵庫は!」
 
 慌てて指示を出し、別の兵器の貯蔵庫や、予備の貯蔵庫を調べさせる。
 
 しばらくして、調べた兵士が蒼い顔で報告をした。
 
「ぜ、全貯蔵庫、魔力残量ゼロ。魔導要塞ヴァルガノス、完全に機能を停止しました……」
 
 ドサッ。
 
「馬鹿な……。難攻不落の魔導要塞ヴァルガノスが、丸裸にされただと……」
 
 副官は膝をつき、茫然と呟いた。
 

 
 俺は慌ただしくなったヴァルガノスから、涙を流すガルデニシアへと向き直る。
 
「ごめ、なさい……許して……」
 
「許すか、ボケ。俺は怒っていると言ったはずだ」
 
「……人質、とったこと、謝るから」
 
 何を勘違いしてるんだ?
 俺が何に怒っているのかもわからずに、謝るんじゃねえ。
 
「人質をとったことに怒ってるわけじゃねえよ。俺はそういう偽善的な考えは嫌いでね」
 
 俺だって、ガルデニシアを人質にする、という腹案はあったからな。
 
「なら……」
 
「俺が怒っているのは、お前がニナを(・・・)攫ったからだ。その時点で、お前の死は決まったんだよ。俺の、俺による、俺のための正義の結果、お前は、死ね」
 
 本気の殺意を込めて、ガルデニシアを睨みつける。
 ガルデニシアはいよいよガタガタと震え出し、涙を流して謝り続ける。
 
 泣けば、謝れば許されるのは小学生のガキまでだ。
 成長した環境が悪かった、生まれが悪かった、親が悪かった、過ぎた力が悪かった。
 そんなことは関係ない。
 俺を怒らせたから、殺す。それだけだ。
 怖れるのは、覚悟の足りないコイツが悪い。
 
「ま、待て! リュースケ!」
 
「……ニナ」
 
 ニナの声に、ガルデニシアの首に伸ばしかけた手を止める。
 
「わらわはもう大丈夫じゃ。な、何も、殺さなくてもよいのではないか?」
 
 しばし、沈黙。
 瞳を閉じて、深呼吸をした。
 
「……あのな、俺は元々、魔王の娘を殺すためにここまで来たんだぞ?」
 
 ニナの言葉で俺はもうほとんど冷静に戻っていた。
 が、感情のままふるまえなかったストレスはあるので、意地悪を言ってやる。
 
「そ、それはそうじゃが……。でも……」
 
 ドサ。
 
 襟首を掴んでいた手を放し、ガルデニシアを解放した。
 ガルデニシアは、茫然と俺を見上げている。
 
「ま、国の命令なんかより、ニナのお願いの方が大事だからな」
 
「リュースケ……!」
 
 表情を輝かせるニナ。
 やれやれ。
 
 が、しかし。せっかくの機会なので、やれる事はやっておこう。
 
「許してやってもいいが、3つ条件がある」
 
 そう言うと、ガルデニシアはこくこくと頷いた。
 
「1つ目。世界征服急進派は解散させろ。どんな手を使ってもだ。2つ目、こっちはできればだが、お前の親父に世界征服を諦めさせろ」
 
「わ、わかった。やってみる」
 
「それとな……」
 
 俺は座り込むガルデニシアの頭に、ポンと手を置いた。
 ガルデニシアはビクリと身体を震わせてから、恐る恐るこちらを見上げた。
 
「力を振るうなら、力を振るわれる覚悟を持て。相手を殺すなら、相手に殺される覚悟を持て。泣くくらいなら、最初からするんじゃない。いいな」
 
 思えば、こいつは小学生の頃の俺だ。
 力に溺れ、力に快楽し、力に享楽する。
 俺がこれ程怒ったのは、あるいは同族嫌悪からだったのか。
 
 俺は小学生の時点で痛い目を見た。
 こいつは痛い目を今まで見なかった。そのツケがここに来て払われた。
 死ななかっただけ、めっけものだったな。
 
 頷いて再び泣きだすガルデニシアに背を向けて、俺はニナたちの方に歩み寄った。
 
「うし。帰るか」
 
 ナツメとラティは、ぽかんとした顔でこちらを見ている。
 その表情に、俺はちょっとたじろぐ。
 
「な、何だよ」
 
「い、いや。まさか本当に勝ってしまうとは……。それに、『ヤミ』といったか……あそこまで拡げられるものだったのか?」
 
「当たり前じゃ! リュースケに勝てるヤツなどおるか!」
 
 いや、そんなことはないと思うけどね。
 
「できるとは思ってたけど。やったのは初めてだな。つか普通あそこまで拡げる必要ないし。ま、とにかく早く帰ろうぜ。兵士さんたちの視線が痛いの何の……」
 
――ガルデニシア様が……負けた?

 ――ヴァルガノスに貯えられた魔力が、根こそぎなくなったらしい。

 ――信じられん……このまま帰していいのか?
 
 殺気立っていたり、怖れていたり。
 様々な視線が俺の背にグサグサと突き刺さる。
 ガルデニシアを倒した俺の実力と、暴食の魔法の得体の知れなさから攻撃に踏み切れないようだが、それも時間の問題だろう。
 
「そ、そうですね。何だかいたたまれない空気です……」
 
 俺たちはそそくさと乗って来た馬へと近づく。
 ニナは俺と一緒に乗る。持っているエレメンツィアがちょっと危ない。
 
「そうじゃ! リュースケ。さっきな、エレメンツィアの精霊が現れたんじゃ」
 
「は? エレメンツィアの精霊? 何それ?」
 
 そんな話をしながら、俺たちはラトーニュへの帰途についた。
 殺気から逃げるように、全速力で。
 
 
 
 てか、思えば物凄くテンプレで恥ずかしいセリフを吐きまくったような。
 ……今ここに、新たな黒歴史が刻まれた……。
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