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ネット小説とか書いてます。竜†婿は「小説家になろう」でも公開中です。
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第31話 魔国動揺

 魔王城。
 魔国の中枢であり、生ける伝説、魔王ガルガディスが住まう城。
 
 魔国最強の将、魔人四魔将軍、力将ガルデニシア敗北の報は、瞬く間に魔国全土へと伝わった。
 兵たちの動揺は大きく、士気は一部では上がり、一部では下がり、報復だ、いや警戒を強めろと収拾のつかない大騒ぎとなる。
 その直後、ガルデニシアが世界征服急進派の解散を宣言したのだから、なおの事。
 
 ここ魔王城にも当然、いの一番に報告が上がってきた。
 
 早急に何らかの対応が必要という事で、魔王城の大円卓には今、国の重鎮が続々と集まって来ている。
 
4大貴族とその下につく6貴族、およびガルデニシア本人を含めた魔人四魔将軍、そして魔王ガルガディスが一堂に集うなど、特別な行事以外ではそうあることではない。
 
 すでにほぼ全員が集まり、残るはガルガディスとガルデニシアの2人だ。
 室内はピリピリとした空気に包まれており、責任の一端を押しつけられるであろう知将ベリアルなどは、辟易とした表情だ。
 
 ギイィィ。
 
 重苦しい音と共に扉が開き、話題の中心人物が現れた。
 ガルデニシアである。
 
 突き刺さる非難、中傷の視線を意に介さず、いつも通りの無表情で四魔将軍の席へと向かう。
 
「おや。意外と冷静ですね。もっと落ち込んでいるかと思っていましたが」
 
 ベリアルが声を掛ける。
 
「別に」
 
 むしろ、以前よりも落ち着いた雰囲気すら漂わす。
 
「敗北は魔人を成長させる、ってね」
 
 にやにやと笑いながら茶化すのは、速将ゼピュロス。
 若干14歳でありながら、四魔将軍の位に付く少年だ。
 
「ロス、うるさい」
 
「いっでででで!」
 
 ガルデニシアに、頭部を万力のような握力で掴まれ、ゼピュロスは悲鳴を上げた。
 
「あなた達。場をわきまえなさい」
 
 窘めるのは魔将リリス。
曲者揃いの四魔将軍にあって、唯一まともな人格を有している彼女は、かなりの苦労人であった。
 まだ33歳のはずだが、白髪が見え隠れするのが哀れである。
 
 ベリアルも26歳であり、平均年齢23歳という現在の四魔将軍は、異常な若さでありながら、その名に見合った能力を持つ。
 精神的には、多少、いやかなりの問題を抱えているが。
 
 その辺りは、「力が全て」の人事形態に問題があると思われる。
 
 そんな彼らに貴族の何人かは冷たい視線を送り、何人かは温かく見守っている。
 
 バーン!
 
 扉が豪快に開かれて、ようやく最後の1人、魔王ガルガディスがマントをなびかせて姿を現した。
 
 2000歳を超えるとはとても思えない若々しさ。
 せいぜい20代後半くらいにしか見えなかった。
 ガルデニシアと同じ水色の髪。引き締まった肉体。
 ベリアルのようにジジイと呼ぶには、少々違和感を禁じえない。
 
「待たせたな。おう、ガルデニシア。息災か?」
 
 戦いに負けたらしい娘の安否を、まずは確かめるガルガディス。
 
「息災」
 
 こくりと頷いて答えるガルデニシアに頷き返しながら、どっかりと腰を下ろした。
 
「では円卓会議を始める」
 
 ザッ。
 
 ガルガディスの宣言に、彼以外の全員が立ち上がり、右拳を胸に当てる敬礼で応えた。
 

 
「では、もう世界征服を進める気はない、と?」
 
「そう。もう、意味がないから」
 
 急進派に属する貴族の1人からの質問に、ガルデニシアは気負いもなく答える。
 
「……くっ。これだから――」
 
 その貴族は「これだから」の後の言葉は呑み込む。
 が、それだけ言えばこの場の魔人には何を言いたかったのか十分伝わった。
 
 ――これだから雑種は。
 
 ガルデニシアが幼少の頃から叩かれ続けた陰口である。
 自分に勝てない相手に言われても、悔しくも何ともない。
 
 言われたガルデニシアがまったく冷静なのに、他の者が怒るわけにもいかなかった。
 
それに今となっては、人間とのハーフであることを、ガルデニシアはまったく嫌だとは思わない。
 
 人間が魔人に劣る、などという下らない考えは、あの人に完膚無きまでに叩き潰されたのだから。
 尤も彼が人間であったのかどうか、ガルデニシアは疑問に思ってもいたが。
 
 どちらにしても、魔人が最高の種族であるなどというのは、とんだ思い上がりである、と学習した。
 
「ガルデニシア」
 
 父に呼ばれ、ガルデニシアはそちらに目をやる。
 
「お前を倒したのは、人間だったというのは本当か?」
 
「馬鹿な! 人間風情に四魔将軍が倒せる訳がない!」
 
 ギロリ。
 
「……貴様には聞いておらぬ」
 
「も、申し訳ありません」
 
 凄みのある瞳で睨みつけられて、発言した貴族は縮こまった。
 
「多分」
 
「多分、とはどういう事だ」
 
「最初は、竜人かと思った。けど、魔法使ったから」
 
「ふむ」
 
「ジジ――陛下」
 
「……なんだ」
 
 ベリアルがジジイと言いかけた事に、一々怒ったりはしない。
 
「私が見た限りの印象では、その男は人間でした。姫様が竜人だと思ったのは、彼の髪が黒かったからかと」
 
「黒い髪? ジパングの民か?」
 
「おそらく。他にもジパングの人間が一緒にいましたから」
 
「そうか」
 
 頷くガルガディス。
 だが、娘の表情が、無表情ながら納得していないものだと気付き、問う。
 
「ガルデニシア。何か、言いたいことがあるのか?」
 
 ガルデニシアは、自信はないが、といった様子で答える。
 
「……あの人からは、魔力とは違う力も、感じた気がする」
 
「……ほう?」
 
 途端、ガルガディスは面白そうに、口をつりあげる。
 発言の内容もさることながら、ガルデニシアが「あいつ」でも「あの男」でもなく、「あの人」などという相手を敬うような言い方をしたのが、意外だったのだ。
 
「どのような?」
 
「竜人、のような。でも、違うような」
 
 姫様は何を言っているんだ? というような囁き声が、一部の貴族から漏れ聞こえる。
 
「……ククク。成程。そういうことか」
 
 1人納得したような表情のガルガディス。
 
「1人で納得してないで教えて下さいよ、耄碌ジジイ」
 
「誰が耄碌ジジイかっ。教えてやろうかと思ったが、やめだ、やめ!」
 
「――ちっ。さっさとくたばって玉座空けろ(ボソ)」
 
「聞こえておるぞコラァ!」
 
 そんなベリアルと魔王のやり取りは日常茶飯事なので、特に誰も気にしていなかった。
 呆れたような視線を向けるだけである。
 
「……ゴホン。沙汰を言い渡す」
 
 取り繕うような咳払いと共に、ガルガディスが告げる。
 全員が姿勢を正した。
 
「ガルデニシアは力将の任を解く。後任は前力将のアヴゼブ。ヴァルガノスは引き続き人員の強化を続けろ。魔力が貯まるまではな。他はこれまでの方針に添って各々領地の騒ぎを治めよ。以上だ」
 
「なっ」
 
 それだけか? と言いたげな視線を送るのは、急進派の貴族たち。
 だがガルガディスは有無を言わせぬ迫力で繰り返した。
 
「……以上だ」
 
 ザッ。
 
『イエス。魔王(ロード)ガルガディス』
 
 一糸乱れぬ敬礼。
 
「これにて解散」
 
 がやがや。
 
 会議が終わり、すぐに出て行く者、親しい者と雑談を始める者、それぞれが思い思いに動き出した。
 
 クビになっちゃったねー。別に、いい。貴女がいない方がむしろ楽です。姫様ならすぐに返り咲けるでしょう。アヴゼブのおっちゃんムサくてヤだから早くね。
などと気楽に会話する四魔将軍たちとは違い。
 
急進派の貴族の1人、ダマスケノスは歯噛みしていた。
 
(何だこの茶番は。人間などに虚仮にされてこの程度かっ)
 
 彼は魔人至上主義の選民思想を持っており、魔国の軍事の象徴ともいえる四魔将軍が人間に倒されたことを、誰よりも忌々しく思っていた。
 
(かくなる上は、この私が……!)
 
「ダマスケノスさん」
 
「……!? な、何ですかな? ベリアル様」
 
 突然知将に話しかけられ、ダマスケノスは慌てて平静を取り繕った。
 
「……姫様を倒した男を、貴方の放つ刺客程度で殺せると思わぬよう。人材の無駄ですから、やめてください」
 
 氷点下の眼差しでダマスケノスを見下した後、ベリアルは円卓の間を後にした。
 
(……くっ)
 
 見抜かれていた事に、苛立ちを感じつつも、冷や汗を流すダマスケノス。
 
「ダマスケノス」
 
「!?」
 
 今度は、ベルアルからダマスケノスへの忠告を聞きとったガルデニシアが、ダマスケノスを呼びとめた。
 すれ違い様、耳元で囁く。
 
「余計な事したら、潰す」
 
 無表情に囁かれたその言葉に、ダマスケノスは表情を凍らせた。
 
 数分後、誰もいなくなった円卓の間で、ダマスケノスは椅子を蹴りつける。
 
 ガターン!
 
「クソッ! 雑種めがっ!」
 

 
「いいんですか? 本当に」
 
 魔王に問うのはベルアル。
 
「何がだ?」
 
「姫様を倒した男ですよ。ノータリンなダマスケノスではありませんが、放っておくのも危険な存在だとは思いますがね」
 
「構わん。その男が魔国に対するというのなら、それもよかろう。今の脆弱なミッドガルドを落とすより、余程楽しめるというものよ」
 
 ふはーははは!
 
 笑いだすガルガディスを見て、肩を竦めるベリアル。
 
「ま、いいですけど。結局はジジイが出ればそれで終わりですし」
 
「ククク。それはどうかな?」
 
「……いよいよボ――」
 
「ボケとらんわっ」
 
 楽しげなガルガディスを見て、ベリアルは思考を巡らせる。
 
 この魔王(ばけもの)が本気で「それはどうか」などと言っているのだとしたら?
 ミッドガルドの歴史書を紐解いても、魔王ガルガディスと渡り合える存在など数える程しか存在しないというのに。
                                                                                      
「……はあ。この老人は話すつもりがないようですし……」
 
「絶対教えんぞ鼻垂れ小僧」
 
 まさか「殺すことのできない怪物」でもあるまい。
 
 ――あの男は一体……。
 
 なんだかんだでベリアルは、魔国のために何が最善か、真剣に考えていた。
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