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ネット小説とか書いてます。竜†婿は「小説家になろう」でも公開中です。
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第32話 エレメンツィア

 俺はエレメンツィアの柄を握って目を閉じる。
 
 ――極々僅かだが、エレメンツィアに魔力が取り込まれていくのを感じた。
 
「うーむ」
 
 ニナの言葉を疑っている訳ではないが、精霊というのがどういう存在なのか、イマイチ想像がつかない。
 
「どうじゃ? 出てきそうか? エレメンツィア」
 
「いや、出てきそうとかは全然わからん」
 
 がっくりと肩を落とすニナには悪いが、わからんもんはわからんのだ。
 
 あの戦いから幾日か経過して。
 俺たちは今、馬車の中にいた。
 
「ジパングでいうところの、付喪神(つくもがみ)のようなものかもしれんな」
 
「なんですか? つくもがみって」
 
 御者台には、ナツメとラティの2人も座っている。
 
「うむ。付喪神とは正しくは九十九の神と書いて――」
 
 付喪神について説明しているナツメをよそに、俺は4人で旅することになった経緯を思い返す。
 

 
「私の故郷へ行きませんか?」
 
 しこたま叩きつけた額の痛みに苦しみながら、これからどうするか相談していた俺とニナに、そう言ったのはラティである。
 
「ラティの故郷というと、ベラール族の村落であったか」
 
「はい。何もない山奥ですけど、身を隠すには丁度いいと思いますよ」
 
 身を隠す。
 その必要があると言ったのは、俺だ。
 
 何しろ魔人四魔将軍かつ魔王の娘なガルデニシアをぶっとばしてしまったのだから、下手したら刺客に命を狙われてもおかしくはない。
 
 少なくとも今後の情勢が定まるまでは、身を隠そうと思ったのだ。
 
「いいのか? 俺たちは白竜城かヴァルハラに戻ろうかと相談していたんだが」
 
 俺とニナの身の上については、すでに説明した。
 元々どうしても隠したかったわけではなく、説明が面倒なので黙っていただけだ。
 
「はい。そろそろ両親に顔を見せようと思っていましたし。ついでにお友達を紹介させてください」
 
「ほう。俺をご両親に紹介したい、と。いや参ったな」
 
「お・と・も・だ・ち・を、です!」
 
 頬を染めてお友達を強調するラティ。
 
 願ってもない話ではある。
 獣人諸国、西方に逃れれば、そうそう追手がかかるということもないだろう。
 
 しかし行くとなればかなりの距離だ。
 正確なことは地図を見ないとわからないが、1カ月かそこらはかかるんじゃなかろうか。
 
 俺は構わないが、ニナは白竜城に戻った方が良い気もする。
 
「ニナ、お前はどうしたい?」
 
「わらわはリュースケに付いていくだけじゃ」
 
 ニナは迷いなく、笑顔で言いきった。
 
「……そうか。んじゃ決まりだな」
 
 俺はラティに向き直る。
 
「よろしく頼む」
 
「はい!」
 
 ラティは嬉しそうに頷いた。
 

 
 という、やりとりがあり。
俺はネコミミ天国へ着々と近づいている。
 
 そうは言っても、まだ出発したばかりだが。
 
「ネコミミ族の村、遠いなあ」
 
「ベラール族です! 勝手に改名しないでください!」
 
 付喪神の解説は終わったのか、俺の呟きを聞き咎めたラティに怒られる。
 
「そんな事よりリュースケ。エレメンツィアはまだ現れんのか?」
 
「そんな事とは何ですかっ」
 
「まだちょっとしか経ってないだろうが。変わらねぇっての」
 
 ラティはスルーしつつ、再び意識をエレメンツィアに戻す。
 
「んー。さっきよりは魔力吸われてるような気がしないでもないかもしれない可能性がなきにしもあらず、といったところだな」
 
「要するに、変わっていないということですね?」
 
Exactly(そのとおりでございます)
 
「いぐざくとりー? ……むぅ。一体どのくらい魔力が必要なんじゃろうか」
 
 独りごちるようなニナの言葉に、ナツメが答える。
 
「付喪神の実体化、となれば、かなりの力が必要だと思うが……」
 
 ふむ。こうちまちま吸わせていても埒が明かない。
 自分から魔力を送り込むことはできないだろうか。
 
 目を閉じて、体内を循環する魔力の流れに、意識を集中する。
 
 ――ドクン。
 
 ……なんか、とんでもない魔力量になっている。
 ああ、あれか。ヴァルガノスの魔力を丸ごと呑み込んだから。
 
 その流れから少しだけ、ほんの少しだけが、手の平を伝わりエレメンツィアに流れ込んでいる。
 海からストローで海水を吸い上げているようなイメージだ。
 
 せめてパイプラインくらいは通せれば、格段に効率がよくなるハズ。
 
「……」
 
 で、どうやってやるの?
 
 ……。
 ここはキルシマイア式イメージ操作法で。
 
 ストローをこう、ぐっと拡げてぎゅわっと流し込むイメージだ。
 
 むんっ。
 
 ガタガタ。
 
「うおっ!?」
 
 エレメンツィアが突然勝手に動き出す。
 びっくりして、思わず放してしまった。
 
 ガタン。ガタガタガタ。
 
 馬車の床に落ちてもなお、エレメンツィアはまるで痙攣するかのようにガタガタ震えていた。
 
「……シュールな……」
 
 ガタガタ……ガタ……。
 
 皆が息を呑んで見守っていると、その震えが止まった。
 
「「「「おお?」」」」
 
 次の瞬間、突如白い女が馬車内に出現した。
 
「「「「おおっ!?」」」」
 
 エレメンツィアを握った真っ白な女性は、片手で額を押さえて軽く頭を振っている。
 
「無茶な……これ程の魔力を一度に流し込まれるとは、思いませんでした」
 
「あー、悪い。加減がわからなかった。君がエレメンツィアの精霊か」
 
「はい。呪縛から解き放って頂いたこと、ありがとうございます」
 
「ああ。どう致しまして。俺はリュースケだ。よろしくな」
 
「ナツメ・ヒイラギと申す」
 
「あっ。私はラティといいます!」
 
「よろしくお願いします」
 
 頭を下げるエレメンツィアを観察する。
 
 白い。
 髪や肌が白いのはわかるが、目が白いというのはかなり違和感を覚える。
 白目を剥いているわけではない。
 日本人で言えば黒目の部分の外枠は黒く、中も白いが濃淡がある。灰色に近い白。
 
 まさしく、この世のものとは思えない美しさだ。
 
 真摯な態度だとは思うのだが……。
 何か、壁を感じるというか。
 警戒されているような気がする。
 
 俺、何かしただろうか?
 
 精霊とはいえ美人に嫌われるのは辛い。
 よし。
 ここは積極的に、アプローチを掛けていこう。
 
「エレメンツィア」
 
「はい」
 
「俺の側室に――」
 
「精霊まで口説くでないわっ!」
 
 ズビシ!
 
 後頭部にチョップを受けた。
 
「何を言う。種族差なんて些細な問題だろう。俺とニナだって人間と竜人だし」
 
「根本が違うわっ。精霊は人じゃなかろうがっ」
 
「リュースケさん……節操なしにも程があります……」
 
「竜輔殿……」
 
 非難轟轟だった。
 
「ええい、煩いうるさいっ。決めるのはエレメンツィアだっ」
 
「お断りします」
 
「バッサリ!?」
 
「誠に残念ながら、主以外の所有になることはできません」
 
「そうか。残念に思っているのなら、今はよしとしよう」
 
「社交辞令です」
 
「ヒドイッ!? 社交辞令なら最後まで通してっ! 『誠に』残念って言った癖にっ!」
 
 俺は馬車の床を叩いて嘆く。
 
「ふふっ」
 
 そんな俺を見て、エレメンツィアが笑みを零した。
 
「貴方は、前の(・・)貴方とは随分違うのですね」
 
「は?」
 
「いえ。何でもありません」
 
 前の俺? 何の事だ?
 
 ……よくわからんが、壁がなくなったような気がするから、まあいいか。
 
「では私はこれで」
 
「って待たぬかぁー!」
 
 ガシッ。
 
 ニナがエレメンツィアの腰にしがみ付いた。
 別にそれで止められるという訳ではないのだろうが、エレメンツィアは実体化を解くのを止めた。
 
「何か? 我が主」
 
「うむ。この前は助けてくれてありがとうな」
 
 ニカッと、ニナは笑いかける。
 エレメンツィアは一瞬呆気にとられたように目を丸くした。 
そしてクールな表情を崩し、穏やかな笑みを浮かべる。
 
「主を守るのは当然の事です。何かあればいつでもお呼びください。魔力は十分に溜まりました故」
 
「うむ! またな!」
 
 エレメンツィアはニナに自身(かま)を渡し、透けるように消え去った。
 
「付喪神を目にする機会があろうとは……」
 
「びっくりしました……」
 
 未だ驚きから立ち直れていない御者台の2人だが、馬はマイペースにパカパカ進んでいた。
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