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(06/03)
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ネット小説とか書いてます。竜†婿は「小説家になろう」でも公開中です。
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第33話 森の民

 獣人たちの楽園、チコメコ・アトル大森林。
 
 ミッドガルド大陸のおよそ5分の1を占める広大な森林地帯には、未だ多くの未開の地が残されているという。
 
 大森林の名の通り、チコメコ・アトルの大部分は森林地帯である。
しかし一部には、山岳地帯や草原地帯なども点在することが確認されている。
 この深淵な森を抜けてまで行こうという者はそういないようだが、西の端は当然海にも面しているはずだ。
 
 獣人たちはそこで、部族ごとに小国家群を形成している、とされる。
 
 が、実際のところ、彼らの多くは閉鎖的である。
 
故に、ラティたちベラール族のように、チコメコ・アトルの外部と接触を持った部族から得た情報により、そうなのであろうと推測しているに過ぎない。
 
 むしろ、人や竜人はもちろん、同じ獣人とすら、部族が違えば交流を図ろうとしない種族が大半を占めるそうだ。
 うっかり彼らの縄張りに足を踏み入れようものなら、極端な話、捕まって大鍋で煮込まれてしまう可能性すらあるのだとか。
 
「と、そう言ったのはラティだったよな?」
 
「うっ……。ごめんなさい……」
 
 涙目で謝るラティに、冷たい視線が3つ突き刺さる。
 
 俺たちは今、迷子になっていた。
 
 チコメコ・アトルには道らしい道もないので、馬車で入ることはできない。
 よって徒歩での移動となる。
 
 まともな地図が存在しないため、ここの住人であるラティの先導に任せた訳だが。
 
「まさかラティが道を間違えるとはのう……」
 
「はうっ」
 
「まあまあ。聞けばラティも帰郷するのは4年ぶりだとか。頻繁に外と行き来するわけでもなかろうし、間違えても無理はない」
 
 ナツメがフォローを入れるが、ラティは落とした肩が上がらない。
 
「で、だいたい今どの辺りかもわからないのか?」
 
「多分、方向的にはあっちの方かなぁ、と」
 
「……そっちは東だが……」
 
 戻ってどうする。
 
「はあ。相変わらず使えんのうラティは……」
 
「うわーん!」
 
「よしよし。拙者の胸でたーんとお泣き」
 
 いつぞやの焼き直しのようになった。
 
「まあ迷っちまったもんは仕方ないな」
 
 ここまでの道のりはだいたい覚えているつもりだ。
 戻ろうと思えば戻れるはず。
 ……3日は歩いた道のりを引き返すのはすごく嫌だが。
 
 そう提案しようと思った矢先に。
 
「お」「む!」
 
 俺とナツメが同時に声を上げた。
 
 ヒュン!
 
「せいっ!」
 
 カッ!
 
 木々の隙間から飛来した矢を、ナツメが抜き打ちで叩き斬る。
 真っ二つに割れ落ちた矢を見て、ナツメは満足気に頷いた。
 
「……当たるコースじゃなかったよな」
 
「そうだったか?」
 
 目を逸らすナツメ。
 多分、飛んでくる矢を斬り落とすのをやってみたかったんだろう。
 
「な、何事じゃ?」
 
 すぐさま俺の背後に隠れるニナ。
 
「あ、あわわ……まさか他の部族の縄張りに……!」
 
 おろおろと挙動不審になるラティ。
 
 いつも通りの皆に和む。
 ってんな場合じゃないか。
 
「囲まれてるなあ」
 
「ああ。かなりの数だ」
 
 ナツメと視線を交わす。
 逃げるか、戦うか、それとも。
 
 方針と方策を練っていると、ガサリと草をかき分けて、数人の男を引き連れた少女が姿を見せた。
 
「なっ!?」
 
 なん……だと……!?
 
「ど、どうしたんじゃ?」
 
「竜輔殿?」
 
「リュースケさん?」
 
 驚きに固まる俺に、他の3人が視線を向ける。
 
「あ、あれはまさか……!」
 
 10歳くらいと思しき、薄褐色の肌の少女。
 強気なつり目に、強い意志の光が宿っている。
 
 が、問題はそこではない。もう少し上だ。
 彼女の頭部。ラティと同じ位置にあるその獣耳は。
 
 イヌミミ?
 
 いや違う。アレはそれとは似て非なるもの。
 そう、その名は。
 
「キツネミミ……! 白い肌が定番なところを、あえて褐色の肌で攻めてくるとは。悪くない。決して、悪くはないぞ!」
 
「……竜輔殿は何を言っているんだ?」
 
「よくわからんが、多分また下らないことじゃと思う」
 
「なんか緊張感がなくなりますね……」
 
「おい!」
 
 ビシッ!
 
 つり目の少女が、こちらに人差し指を突き付ける。
 
「オマエら、アイツの仲間だな! まだ村を荒そうってのか! そんなことは絶対に許さないぞ!」
 
 怒髪天を衝くとばかりに、頭やフサフサな尻尾の黄色い毛を逆立てて、少女は俺たちに怒鳴り散らした。
 
 勿論、アイツなる人物に心当たりはない。
 
 まわりの男たちも、今にも跳びかかりそうな少女を抑えつつ、こちらを強く警戒している。
 
「い、いえ! 私たちはちょっと道に迷ってしまっただけで!」
 
 必死に弁解するラティ。
 少女は一瞬考え込む様子を見せたが、すぐにまた睨むような目つきになる。
 
「……ウソだ! 獣人が森で迷うわけない!」
 
 グサッ!
 
 言葉の刃がラティの胸に突き刺さった。
 
「ですよね……アハハ……私、獣人の癖に……」
 
 虚ろな瞳で呟き始めたラティにはもう目もくれず、少女は自分の弓に矢をつがえた。
 
「構えっ」
 
 ギリギリギリ。
 
 弓の弦を引き絞る音が、そこらじゅうから聞こえてくる。
 
「聞く耳持ってくれそうにないな」
 
 俺は、服の裾を掴むニナの手をそっと外した。
 
「……リュースケ?」
 
 不安そうなニナの頭をぽんとたたいてから、俺は地を蹴った。
 
 ダンッ。ガシ。
 
「うあっ!」
 
 俺は少女を首に後ろから手を回す形で捕まえた。
 暴れるが、力将すら超えた俺の腕力から逃げられるはずもない。
 
「はなせぇー!」
 
「動くなっ! この子の命が惜しければ武器を捨てろ。隠れてるヤツは出てこい」
 
「ルナ様!?」
 
「卑怯な!」
 
 男たちは浮足立ち、一瞬ためらってから武器を捨てた。
 隠れていた者たちも続々と顔を見せる。
 おお。キツネミミがいっぱいだ。男はいらんけど。女も何人かはいる。
 
「リュースケさん……」
 
「卑怯な……」
 
 仲間たちは呆れ果て、白い目で俺を見つめていた。
 
 あれ?
 味方の視線のほうが痛いぞ?
 
 ……ふむ。まだ1人出てきてないが、まあいい。
 
「さて。誤解を解いておくが、俺たちは本当に道に迷っただけだ。お前たちの村のことなど知らん」
 
「し、信用できるか!」
 
「どうしたら信用する?」
 
「どうしても信用しない!」
 
 少女は頑なに言って、なんとか逃れようとジタバタもがく。
 
 ふう……。
 話にならん。
 
「だったら、仕方ないよな」
 
「……何がだ」
 
「お前たちはどうあっても俺たちを殺す気なんだろ。だったら、お前たちも殺されても、文句は言うまいな?」
 
 最近似たような事があったな、と思いつつ、加減した殺気を少女と周りのキツネ獣人たちに叩き付ける。
 
「……っ」
 
 かなり抑えたつもりだったが、少女の顔はみるみる蒼ざめていった。
 獣人たちは慌てふためき、武器を拾うか否か逡巡している。
 
「待たれよ」
 
 低くしわがれた声が、1本の木の裏側から聞こえてきた。
 そこからかなり歳をとったキツネ獣人が、しかししっかりとした足取りで歩み出てくる。
 
「じーちゃん! 出てくるなよ!」
 
 少女がじーちゃんと呼んだ獣人は、落ち着いた様子で語りかけてきた。
 
「大丈夫じゃ、ルナ。儂はルナール族の族長、フェネックと申します。旅の方、どうか無礼をお許しください」
 
「オーケー。許そう」
 
 俺は少女――ルナを解放し、老いたキツネと向き合った。
 
「じーちゃん!」
 
 ルナはフェネックに駆け寄って、俺の方をキッと睨みつける。
 
「ルナール族……確か、私たちベラール族と同じ狩猟民族です。穏やかな気性の獣人だと聞いた事がありますが……」
 
 ラティの言葉に俺たち首を傾げざるを得ない。
 
「穏やかな気性、ねえ……」
 
「何だよっ! 何であたしを見るんだよ!」
 
 ルナが憤慨して頬を膨らませる。
 可愛らしいが、穏やかな気性とはとても言えない。
 まあ、子供だからかもしれないが。
 
「普段はこのような事はないのですが……。つい先日から、儂らの村が妙なモノに立て続けに襲われていましてな。儂も含めて、皆よそ者に対して疑心暗鬼になってしまっておるのです」
 
「ふーん」
 
 まあ誤解が解けたんなら何でもいいけど。
 妙なモノとやらに多少の興味はあるが、厄介事レーダーが反応している。
 道だけ聞いてオサラバするのがいいだろう。
 
「ご老人。妙なモノとは一体? 拙者らでよければ、力になるが」
 
 おいっ!
 
「このお節介ザムライ……」
 
「はっはっは。いいではないか。急ぐ旅でもない」
 
「私も、同じ狩猟民族として、放っておくなんてできません」
 
 俺はニナを見る。
 ニナはやれやれと肩を竦めるだけで、賛成も反対もしなかった。
 
 はぁー。
 まあラティがやる気なら仕方ないか。
 ラティには、これから世話になる予定だしな……。
 
「おお。それはありがたい」
 
「じーちゃん!? こんな奴らに頼るなんて!」
 
「この方の力は、ルナが一番わかっておるじゃろう。あの動き、只者ではない。あるいは、オグロスよりも……」
 
「親父より強いヤツなんているもんか!」
 
「なにを言うのじゃ! リュースケより強いヤツなどおらんわ!」
 
「なんだとぉ!」
 
「なんじゃ!」
 
「そこで張りあうのかよ」
 
 噛みつきそうな勢いで睨み合うニナとルナ。
 
「落ち着けニナ。世の中上には上がいるんだ。俺より強いヤツもどっかにはいるって」
 
 多分。
 
 俺はニナの頭に手を置いて宥める。
 
「お前の親父は、俺より強いかもな」
 
「当然だ!」
 
 ルナは不機嫌な顔を装っていたが、どこか誇らしげな表情をしていた。
 ニナは納得できないのか、本当に不機嫌そうな顔だったが。
 
「ともかく、もうすぐ日も暮れる。儂らの村で休まれるといい」
 
 フェネックのお言葉に甘えることにして、俺たちはすぐ近くにあるというルナール族の村へと向かうことにした。
 
 俺は不本意だけどな。
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