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(06/03)
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ネット小説とか書いてます。竜†婿は「小説家になろう」でも公開中です。
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第34話 夜、キノコ、約束

 空が赤らみ始める頃、俺たちはルナール族の村へと辿り着いた。
 
 そしてそこは、なんというか……ファンシーだった。
 
「……キノコだな」
 
「うむ……キノコだ」
 
「キノコじゃのう……」
 
 チコメコ・アトル出身のラティ以外の3人は、目の前の光景に驚きを隠せない。
 ルナール族の住居は、キノコだったのだ。
 
 全高5メートル以上はあろうかという巨大キノコ。
 形状はしいたけのような細長いものではなく、マ〇オに出てくるような胴が太いもの。傘の模様は赤とピンクのまだらで、毒々しい。
 その柄の中身をくり抜いて、家として使っているようだ。
 
 何でもこのキノコ、死ぬと腐るでも乾くでもなく、だんだん硬くなる性質を持つらしい。
 だからある程度の大きさのキノコの中身をくり抜いて、硬くなったら家にするのだとか。
 
 群生する巨大キノコに人が出入りする光景は、とてつもなく現実味に欠ける。
 
 ……まあ、キノコはともかく。
 
「酷い有様だな」
 
 キノコ――家のいくつかは横倒しになっていたり、砕けてバラバラになっていた。
 これがおそらく「村が荒らされた」結果なんだろう。 
 
 その光景に、他の3人も顔を顰めている。
 
「生憎、今はろくなもてなしもできませんが、儂らの家に泊まってください」
 
「お気遣いなく。屋根があるだけでも有難い」
 
 族長フェネックにナツメが応対している。
 ルナは「えー! うちかよ!」と物凄く嫌そうな顔をした。
 
 しかし、このキノコの家の内部はどうなっているのか。
 入口には動物のものか魔物のものか、何かの毛皮がカーテンのように掛けられているので、中を覗き見ることはできない。
 
 村人の方々から好奇の視線を受けつつ、族長の家の前までやってきた。
 
 でかっ!
 10メートルくらいはあるぞこれ。
 
 いよいよ中を見るのが楽しみになってきたが、俺たちが入る前に毛皮を押し退けて、1人の獣人男性が姿を現した。
 引き締まった肉体に無駄な筋肉はなく、鋭いつり目はルナと通ずるものがある。
 
「親父!」
 
 案の定、ルナはそう言って男に抱きついた。
 男はルナを抱き止めつつ、俺たちに視線を巡らせる。
 
「……族長。彼らは?」
 
「客人じゃ。こちらからリュースケ殿、ニナ殿、ナツメ殿、ラティ殿。あの銀色を倒すのを、手伝ってもらうやもしれぬ。皆さま、こやつはオグロス。儂の孫で、ルナール族一の戦士でございます」
 
 孫? この男が?
 ……まあ確かに、息子というには少々若すぎるか。
 ってことは、ルナはフェネック氏のひ孫だったのかよ。
 フェネック氏は一体何歳なんだ。
 
「銀色を……? それはありがたいが、何故です?」
 
 銀色とやらは、この村を襲ったヤツのことだろう。
 何故と聞かれても、いやホントに、何故?
 
「ここで会ったのも何かの縁。困ったことがあれば、お互い助け合うのが人として当然のことです」
 
 よくそんなこと素で言えるな、ナツメは……。
 
「オマエらの助けなんかなくたって、親父がいれば――」
 
「ルナ」
 
 憎まれ口を叩こうとするルナを、オグロスさんが窘める。
 ルナは口を尖らせた。
 
「そうでしたか。しかし、銀色は危険な相手。見ず知らずの方にご迷惑をおかけするわけには……」
 
「ご心配なく。こう見えても腕には自信があります。それに泊めて頂く恩義もある。是非、手伝わせていただきたい」
 
 実はその銀色とやらと戦いだけじゃないだろうな、ナツメ。
 
 オグロスさんは困ったような表情でフェネック氏を見る。
 
「客人もこうおっしゃっておられる。それに少なくとも、彼の腕前は本物じゃ。手伝ってもらおうではないか」
 
 そう言って俺を視線で示すフェネック氏。
 
「……族長がそうおっしゃるのならば。よろしくお願いします」
 
 礼儀正しい親父さんだな。
 
「ふんっ。親父の足を引っ張るなよ」
 
 それなのにどうしてルナは、こんな風に育ってしまったんだ。
 可愛いから許すけど。
 

 
 キノコの家の中は、いくつかの部屋にわかれていた。
 窓もちゃんとあるし、やはり屋根があるだけでも外よりは快適だ。
 ただ、壁も床も天井もキノコの一部なので、白一色。ちょっと違和感。
 
 今は全員同じ部屋で夕食を摂っている。
 
 久しぶりの食いしん坊タイム。
 肉とキノコがメインの料理を、俺は次々に平らげる。
 
 調味料不足でそのままだと少々味気なかったので、自前の塩を振りかけた。
 
「むぐ、ごくん。で、その『銀色』とやらはどういうヤツなんだ?」
 
 少し食事の手を休めながら、俺は訊ねる。
 
「その名の通り、全身が銀色なのです。身の丈や形は我々と似たようなものですが、非常に硬い石の体を持ちます。我々の武器では傷をつけるのがせいぜいで、とてもではありませんが、貫くことはできません」
 
 オグロスさんが説明してくれた。
 
 銀色の体ねぇ。甲冑か何かだろうか。
 ルナール族の武器は、石矢に石槍だった。
 それなりに完成度の高い甲冑なら、そうそう貫けはしないだろう。
 
「突然現れては、意味の分からないことを口走りながら、村を破壊して去って行くのです。こちらから攻撃しても見向きもしませぬ。力づくで止めようとしても、余りの重さと力に、動きを止めることすらできぬ始末」
 
 ……うーん。
 オグロスさんに続くフェネック氏の話からすると、単なる頑丈な甲冑を着たキ〇ガイ、とも考えづらい。
 
「その銀色の体というのは、これと同じようなものですか?」
 
 ナツメはそう言って、コテツを抜き放ち刀身を見せた。
 
「! 確かに、よく似ています。これほど澄んだ色ではありませんでしたが」
 
 オグロスさんが興味深げにコテツを見つめる。
 
 つまり、金属であることはほぼ間違いない。
 ここの人たちは金属にはさほど馴染みがないようだ。石とか言ってるし。
 まあ「銀」という色の概念がある以上、まったく知らない訳じゃないんだろうけど。
 
 ちなみに、忘れられているだろうが。
エレメンツィアには折りたたみ機能がついているので、折りたたんだ状態で布に包んである。
 エレメンツィアは黒っぽい金属だけどな。
 
「どう思う?」
 
 ナツメが、外部組である俺たちに問いかける。
 
「鎧の一種じゃないかと思うが、自信はないな」
 
「そうじゃのう。聞いた限りでは、甲冑のようなものを想像したぞ」
 
「私もそう思います」
 
「ふむ。やはりそうか。拙者も同意見だ」
 
 一応の、意見の一致をみた。
 
 ただ、止めようにも止められない重さと力、というのがどうも引っかかる。
 それに……。
 
「仮に犯人が『甲冑を着た人』だったとして、何のためにこの村を襲う? 隠された秘宝でもあるのか?」
 
「いえ、そのようなものは……。儂らにも、アレが何をしたいのか、皆目見当がつかぬのです」
 
 んー……。
 
 ま、いいか。
 実際見てみればわかるだろ。
 
「その『銀色』は、どのくらいの頻度で来るんだ?」
 
「まちまちですが、だいたい、3日に1度くらいです」
 
 ならば、来るまではここに滞在するしかないな。
 ナツメとラティがやる気だし。
 
 それまでのんびりタダ飯食えると思えば、いいや。
 
「ていうか、オマエっ! ちょっとはエンリョしろよな!」
 
 今まで不機嫌面で黙りこくっていたルナが、顔を赤くして怒り始めた。
 
「遠慮? 何ソレ? おいしいの?」
 
「てめー!」
 
 殴りかかってくるルナの頭を片手で押さえると、届かないまま手をぐるぐると振り回す。
 
「このー! 放せよー!」
 
「うははは!」
 
 リアルにこの光景が拝めるとは。
 面白いぞルナ。
 
 和むなあ。
 
「むう……」
 
 隣のニナが、ちょっと頬を膨らませてこちらを見ている。
 え? これ焼きもちの対象になるの?
 
 バタバタと暴れるルナを、フェネック氏とオグロスさんは温かく見守っていた。
 なんか意味深な感じに。
 

 
 深夜。
 ニナと一緒にあてがわれた部屋で寝転がっていたが、野宿のしすぎで逆に室内が落ち着かず、イマイチ寝つけないでいた。
 
「すやー」
 
 ニナはすっかりお休みの様子だが。
 
 ちょっと、外の空気を吸って来るか。
 
 俺は起き上がり、窓から射し込む僅かな月明かりを頼りに、部屋を出る。
 
……ん?
 
 家から出る途中、とある部屋の前で、起きている人間の気配を感じた。
 そして向こうもこちらに気づき、声を掛けてくる。
 
「リュースケ殿ですか。……よければ少し、話をしませんか」
 
 顔も見えないのに、オグロスさんは俺が俺であると言い当てた。
 初見からわかっていたが、一の戦士というだけあってこの人、強いな。
 キツネミミはすごく似合わないけど。
 
 俺はのれんのように垂れ下がる何かの毛皮を脇にのけながら、呼ばれるままに入室した。
 
 テーブル(これもキノコの一部だ)に向かうオグロスさんの、向かいの椅子(これもキノコ)に腰掛ける。
 オグロスさんは、俺の天敵であるアルコール臭のする飲料を呑んでいた。
 
「眠れないのですか?」
 
「ええ、まあ」
 
 定番の質問を軽く受け流す。
 何か話したいことが別にあるんだろうから、掘り下げる必要もない。
 
「……あんなに元気なルナを見たのは、久しぶりです」
 
「え? そうなんですか?」
 
 なんか物凄くお約束な流れだが、あのルナが普段は元気じゃないというのは素直に驚きだ。
 
「あれの母が亡くなってからは、空元気すらわかないようでしたから。竜輔殿には悪いですが、怒りであっても感情を露わにしてくれるのは嬉しい」
 
 うーん。実にお約束だなあ。
 なんてことは、さすがに失礼だから口には出さんけど。
 
「いや、可愛らしいから俺は別にいいですけどね。失礼ですが、ルナの母親は『銀色』に?」
 
「いえ。それよりも大分前に、病で」
 
 少しだけ辛そうな顔で、オグロスさんは語る。
 
「元気は無かったものの、ルナはようやく立ち直り始めてはいました。その矢先に今度は『銀色』……。今のところ、怪我人は多く出ていますが、『銀色』に殺された者はいません」
 
 オグロスさんは一口、酒で口を湿らせた。
 
「もし、アレが本格的に牙を剥いて、俺まで殺されてしまったら、残されたルナは……。そう思うと、恐怖が込み上げます。一の戦士として、これ程恥ずかしいことはない」
 
「……」
 
 なんか、語られちゃってるけど、俺にどうしろと?
 
 俺の複雑な表情に気付いたのか、オグロスさんはバツの悪そうな顔をする。
 
「すみません。少し、酔っているようです。会ったばかりの貴方に、このようなことを話しても仕方がないですね」
 
「いえ。でもまあ、大丈夫でしょう」
 
「え?」
 
「オグロスさんが『銀色』に殺されることは、ないと思いますよ。『銀色』は(ナツメが)倒しますから」
 
 少し驚いてから……オグロスさんは微笑んだ。
 
「よろしくお願いします」
 
「ええ。(ナツメに)任せてください」
 
 その後勧められた酒を丁重に、とても丁重にお断りして、俺は部屋に戻った。
 
 
 そして次の日、ソイツは現れる。
 
『銀色』は、俺たちの予想の遥か斜め上を行く存在だった。
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