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第34話 夜、キノコ、約束
空が赤らみ始める頃、俺たちはルナール族の村へと辿り着いた。
そしてそこは、なんというか……ファンシーだった。
「……キノコだな」
「うむ……キノコだ」
「キノコじゃのう……」
チコメコ・アトル出身のラティ以外の3人は、目の前の光景に驚きを隠せない。
ルナール族の住居は、キノコだったのだ。
全高5メートル以上はあろうかという巨大キノコ。
形状はしいたけのような細長いものではなく、マ〇オに出てくるような胴が太いもの。傘の模様は赤とピンクのまだらで、毒々しい。
その柄の中身をくり抜いて、家として使っているようだ。
何でもこのキノコ、死ぬと腐るでも乾くでもなく、だんだん硬くなる性質を持つらしい。
だからある程度の大きさのキノコの中身をくり抜いて、硬くなったら家にするのだとか。
群生する巨大キノコに人が出入りする光景は、とてつもなく現実味に欠ける。
……まあ、キノコはともかく。
「酷い有様だな」
キノコ――家のいくつかは横倒しになっていたり、砕けてバラバラになっていた。
これがおそらく「村が荒らされた」結果なんだろう。
その光景に、他の3人も顔を顰めている。
「生憎、今はろくなもてなしもできませんが、儂らの家に泊まってください」
「お気遣いなく。屋根があるだけでも有難い」
族長フェネックにナツメが応対している。
ルナは「えー! うちかよ!」と物凄く嫌そうな顔をした。
しかし、このキノコの家の内部はどうなっているのか。
入口には動物のものか魔物のものか、何かの毛皮がカーテンのように掛けられているので、中を覗き見ることはできない。
村人の方々から好奇の視線を受けつつ、族長の家の前までやってきた。
でかっ!
10メートルくらいはあるぞこれ。
いよいよ中を見るのが楽しみになってきたが、俺たちが入る前に毛皮を押し退けて、1人の獣人男性が姿を現した。
引き締まった肉体に無駄な筋肉はなく、鋭いつり目はルナと通ずるものがある。
「親父!」
案の定、ルナはそう言って男に抱きついた。
男はルナを抱き止めつつ、俺たちに視線を巡らせる。
「……族長。彼らは?」
「客人じゃ。こちらからリュースケ殿、ニナ殿、ナツメ殿、ラティ殿。あの銀色を倒すのを、手伝ってもらうやもしれぬ。皆さま、こやつはオグロス。儂の孫で、ルナール族一の戦士でございます」
孫? この男が?
……まあ確かに、息子というには少々若すぎるか。
ってことは、ルナはフェネック氏のひ孫だったのかよ。
フェネック氏は一体何歳なんだ。
「銀色を……? それはありがたいが、何故です?」
銀色とやらは、この村を襲ったヤツのことだろう。
何故と聞かれても、いやホントに、何故?
「ここで会ったのも何かの縁。困ったことがあれば、お互い助け合うのが人として当然のことです」
よくそんなこと素で言えるな、ナツメは……。
「オマエらの助けなんかなくたって、親父がいれば――」
「ルナ」
憎まれ口を叩こうとするルナを、オグロスさんが窘める。
ルナは口を尖らせた。
「そうでしたか。しかし、銀色は危険な相手。見ず知らずの方にご迷惑をおかけするわけには……」
「ご心配なく。こう見えても腕には自信があります。それに泊めて頂く恩義もある。是非、手伝わせていただきたい」
実はその銀色とやらと戦いだけじゃないだろうな、ナツメ。
オグロスさんは困ったような表情でフェネック氏を見る。
「客人もこうおっしゃっておられる。それに少なくとも、彼の腕前は本物じゃ。手伝ってもらおうではないか」
そう言って俺を視線で示すフェネック氏。
「……族長がそうおっしゃるのならば。よろしくお願いします」
礼儀正しい親父さんだな。
「ふんっ。親父の足を引っ張るなよ」
それなのにどうしてルナは、こんな風に育ってしまったんだ。
可愛いから許すけど。
キノコの家の中は、いくつかの部屋にわかれていた。
窓もちゃんとあるし、やはり屋根があるだけでも外よりは快適だ。
ただ、壁も床も天井もキノコの一部なので、白一色。ちょっと違和感。
今は全員同じ部屋で夕食を摂っている。
久しぶりの食いしん坊タイム。
肉とキノコがメインの料理を、俺は次々に平らげる。
調味料不足でそのままだと少々味気なかったので、自前の塩を振りかけた。
「むぐ、ごくん。で、その『銀色』とやらはどういうヤツなんだ?」
少し食事の手を休めながら、俺は訊ねる。
「その名の通り、全身が銀色なのです。身の丈や形は我々と似たようなものですが、非常に硬い石の体を持ちます。我々の武器では傷をつけるのがせいぜいで、とてもではありませんが、貫くことはできません」
オグロスさんが説明してくれた。
銀色の体ねぇ。甲冑か何かだろうか。
ルナール族の武器は、石矢に石槍だった。
それなりに完成度の高い甲冑なら、そうそう貫けはしないだろう。
「突然現れては、意味の分からないことを口走りながら、村を破壊して去って行くのです。こちらから攻撃しても見向きもしませぬ。力づくで止めようとしても、余りの重さと力に、動きを止めることすらできぬ始末」
……うーん。
オグロスさんに続くフェネック氏の話からすると、単なる頑丈な甲冑を着たキ〇ガイ、とも考えづらい。
「その銀色の体というのは、これと同じようなものですか?」
ナツメはそう言って、コテツを抜き放ち刀身を見せた。
「! 確かに、よく似ています。これほど澄んだ色ではありませんでしたが」
オグロスさんが興味深げにコテツを見つめる。
つまり、金属であることはほぼ間違いない。
ここの人たちは金属にはさほど馴染みがないようだ。石とか言ってるし。
まあ「銀」という色の概念がある以上、まったく知らない訳じゃないんだろうけど。
ちなみに、忘れられているだろうが。
エレメンツィアには折りたたみ機能がついているので、折りたたんだ状態で布に包んである。
エレメンツィアは黒っぽい金属だけどな。
「どう思う?」
ナツメが、外部組である俺たちに問いかける。
「鎧の一種じゃないかと思うが、自信はないな」
「そうじゃのう。聞いた限りでは、甲冑のようなものを想像したぞ」
「私もそう思います」
「ふむ。やはりそうか。拙者も同意見だ」
一応の、意見の一致をみた。
ただ、止めようにも止められない重さと力、というのがどうも引っかかる。
それに……。
「仮に犯人が『甲冑を着た人』だったとして、何のためにこの村を襲う? 隠された秘宝でもあるのか?」
「いえ、そのようなものは……。儂らにも、アレが何をしたいのか、皆目見当がつかぬのです」
んー……。
ま、いいか。
実際見てみればわかるだろ。
「その『銀色』は、どのくらいの頻度で来るんだ?」
「まちまちですが、だいたい、3日に1度くらいです」
ならば、来るまではここに滞在するしかないな。
ナツメとラティがやる気だし。
それまでのんびりタダ飯食えると思えば、いいや。
「ていうか、オマエっ! ちょっとはエンリョしろよな!」
今まで不機嫌面で黙りこくっていたルナが、顔を赤くして怒り始めた。
「遠慮? 何ソレ? おいしいの?」
「てめー!」
殴りかかってくるルナの頭を片手で押さえると、届かないまま手をぐるぐると振り回す。
「このー! 放せよー!」
「うははは!」
リアルにこの光景が拝めるとは。
面白いぞルナ。
和むなあ。
「むう……」
隣のニナが、ちょっと頬を膨らませてこちらを見ている。
え? これ焼きもちの対象になるの?
バタバタと暴れるルナを、フェネック氏とオグロスさんは温かく見守っていた。
なんか意味深な感じに。
深夜。
ニナと一緒にあてがわれた部屋で寝転がっていたが、野宿のしすぎで逆に室内が落ち着かず、イマイチ寝つけないでいた。
「すやー」
ニナはすっかりお休みの様子だが。
ちょっと、外の空気を吸って来るか。
俺は起き上がり、窓から射し込む僅かな月明かりを頼りに、部屋を出る。
……ん?
家から出る途中、とある部屋の前で、起きている人間の気配を感じた。
そして向こうもこちらに気づき、声を掛けてくる。
「リュースケ殿ですか。……よければ少し、話をしませんか」
顔も見えないのに、オグロスさんは俺が俺であると言い当てた。
初見からわかっていたが、一の戦士というだけあってこの人、強いな。
キツネミミはすごく似合わないけど。
俺はのれんのように垂れ下がる何かの毛皮を脇にのけながら、呼ばれるままに入室した。
テーブル(これもキノコの一部だ)に向かうオグロスさんの、向かいの椅子(これもキノコ)に腰掛ける。
オグロスさんは、俺の天敵であるアルコール臭のする飲料を呑んでいた。
「眠れないのですか?」
「ええ、まあ」
定番の質問を軽く受け流す。
何か話したいことが別にあるんだろうから、掘り下げる必要もない。
「……あんなに元気なルナを見たのは、久しぶりです」
「え? そうなんですか?」
なんか物凄くお約束な流れだが、あのルナが普段は元気じゃないというのは素直に驚きだ。
「あれの母が亡くなってからは、空元気すらわかないようでしたから。竜輔殿には悪いですが、怒りであっても感情を露わにしてくれるのは嬉しい」
うーん。実にお約束だなあ。
なんてことは、さすがに失礼だから口には出さんけど。
「いや、可愛らしいから俺は別にいいですけどね。失礼ですが、ルナの母親は『銀色』に?」
「いえ。それよりも大分前に、病で」
少しだけ辛そうな顔で、オグロスさんは語る。
「元気は無かったものの、ルナはようやく立ち直り始めてはいました。その矢先に今度は『銀色』……。今のところ、怪我人は多く出ていますが、『銀色』に殺された者はいません」
オグロスさんは一口、酒で口を湿らせた。
「もし、アレが本格的に牙を剥いて、俺まで殺されてしまったら、残されたルナは……。そう思うと、恐怖が込み上げます。一の戦士として、これ程恥ずかしいことはない」
「……」
なんか、語られちゃってるけど、俺にどうしろと?
俺の複雑な表情に気付いたのか、オグロスさんはバツの悪そうな顔をする。
「すみません。少し、酔っているようです。会ったばかりの貴方に、このようなことを話しても仕方がないですね」
「いえ。でもまあ、大丈夫でしょう」
「え?」
「オグロスさんが『銀色』に殺されることは、ないと思いますよ。『銀色』は(ナツメが)倒しますから」
少し驚いてから……オグロスさんは微笑んだ。
「よろしくお願いします」
「ええ。(ナツメに)任せてください」
その後勧められた酒を丁重に、とても丁重にお断りして、俺は部屋に戻った。
そして次の日、ソイツは現れる。
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