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第37話 別れと誓い
――ガラガラ。
「…………ちっ。やっぱり駄目かよ」
俺は苦々しい思いで、立ち上がったロボを睨みつける。
頭部に僅かなヘコみが見られるが、それだけだ。
可動に問題があるようには見受けられない。
俺の視線を追って、全員がそれを見た。
「なん……じゃと……」
「そんな……」
「……馬鹿な。あれ程の攻撃を受けて立つのか……!」
仲間達の驚愕と、ルナール族の嘆きの声。
耳朶を打つそれらに歯噛みする。
「……っ!」
俺は痛みを堪えて、再度エレメンツィアを拾い上げた。
ああ、いてえ。
「! 待てリュースケ! その腕では無理じゃ!」
「お、おい! もういいって! あとは親父たちに任せろよ!」
ニナとルナが、慌てて止める。
「ああ……まあ、でも」
ザッ。
ロボに向けて足を踏み出す。
「美少女の頼みは、断らない主義なんだよ」
「美少女……? …………って、あたしのことかよ! なな何言ってんだバカ! そんな場合か!」
ルナは頬を赤らめて怒鳴る。
良い反応、いただきました。
瓦礫の山に足を踏み入れる。
「リュー……さんってまさか……(ヒソヒソ)」
「ああ……ニナ殿も若……ロリコ……(ヒソヒソ)」
「コラそこっ! 空気読めや! あとそれ誤解だから!」
『ビーーーー!!!』
「うるせぇ! 何だ!」
突然、ロボが警報音のようなものを大音声で発した。
『エラーが発生しました。最重要命令の確認。ガ……ガガガ。人類の殲滅。エラー。旧データの可能性あり。再確認。ピーガガガ。エラー。データ破損。修復開始』
ピコピコ。
目の位置にあるライトを点滅させ始めるロボ。
「……? ……はっ。今のうちに止めを――」
「待て――待って下さい」
飛びかかろうとするオグロスさんたちを止めた。
ナツメたちも、俺の真剣な表情を見て静かになる。
『データ修復率43%。これ以上の……ガガ……復元は不可能と判断。マスターに再……ガー……命令を要求――マスター』
ウィン、ウィン。
ロボは首を左右に巡らせて、何かを――多分、マスターとやらを探している。
ピタリ。
首が止まった。
……正面を、俺に向けて。
ウィンウィン。
俺のすぐ近くまで、ロボは近づいてきた。
慌てて斬りかかろうとするナツメたちを手で制し、俺は様子を見ることにする。
『データ照合。該当データなし。近似データ2件。ピピピ……波動から関係者と断定。暫定マスターとして……ガガガガ……設定しました。アナタに命令権の一部を認めます。ご命令を』
「……暫定マスター? 俺がか?」
『肯定』
ロボの発言から推測するに、俺の何かが、マスターとして認められる条件に一致したということか。
……といっても、どこまでがバグで、どこまでが正常なのか、判断がつきかねる。
疑問点が多すぎた。
「お前の本当のマスターは誰だ」
『ワタシのマスターは……ガガガ……ビーーー!!! 警告。プログラムに異常が発生しました。暴走する恐れがあります。スリープモードに移行した上で、修復を行うことを推奨……ガガ』
ちっ。情報を聞き出す暇はないか。
「スリープモードとやらに移行しろ。俺が許可するまで2度と動くな」
『了解しました。スリープモードで待機します』
シュゥゥン。
ロボの瞳から明かりが消えて、駆動音もまったく聞こえなくなった。
「……」
コンコン。
叩いても、反応はない。
って痛! ヒビ入ってるの忘れてた……。
俺は振り返って、訳も分からず固唾を呑んで見守る人々に言う。
「コイツは今、死にました。もう動くことはないでしょう(多分)」
それぞれが、近くの人と顔を見合わせる。
そして今度こそ、本当の勝利を祝う歓声が上がった。
ドンチャンドンチャン。やんややんや。
ルナール族の村では現在、村を上げての大宴会が行われていた。
俺はヒビの入った両腕を、添え木で固定して吊っている。
経験上、この程度の怪我は食って寝れば治るはずだが、今の状態では自分で飲み食いすることができない。
なので、誰かに食べさせてもらうしかないのだが。
「婚約者のわらわが食べさせるのじゃ!」
「いいや、あたしがやる! か、勘違いするなよ! 村を守ってくれたお礼なんだからな!」
という感じに、ニナとルナが争っている。
つーかルナ。なんというツンデレ。
「どっちでもいいから早く食わせてくれよ」
ギュルル……。
消費したエネルギーの補給を求めて、俺の腹の虫が唸り声を上げた。
「わらわが!」
「あたしが!」
……やれやれ。
俺は深くため息をついた。
「ん? おお、竜輔殿。その手では食べられないだろう。ほら」
通りかかったナツメが串に刺さった肉を差し出してきた。
「おう。悪いな」
ぱく。もぐもぐ。
「「ああー!!!」」
「!? な、何だ!?」
ニナとルナの突然の叫びに、ナツメは身体をビクリと震わせる。
そして2人に詰め寄られ、たじたじになったナツメはラティに助けを求めに行った。
それを2人も追って行く。
おーい。カムバーック。
「……犬食いするか?」
本気でその検討を始めた頃に、俺に声をかける獣人が1人。
残念ながら、男である。
「リュースケ殿。この度は本当にありがとうございました」
「いやまあ。成り行きでね……。気にしないでください」
礼を述べるオグロスさんに、俺は軽い調子で答えた。
「しかし、このままでは我々の気が済みません。何かお礼ができるといいのですが……」
生憎、村には大したものがないのだ、と申し訳なさそうに耳をたたむオグロスさん。
そういう動作は男がやっても嬉しくないからっ!
まあ俺も、何か貰えるなら貰っておくところだが。
金なんてないだろうし、秘宝もないって言ってたし。
「それじゃあルナを貰っていこう」
なんてな。
「! ルナを、ですか? それは……しかし本人が納得すれば……」
あれ? 何か真面目に考え込んでいらっしゃる?
「オグロスさん? 冗談ですよ?」
「ああ、冗談ですか。成程。……少し父と話があるので、失礼します」
真剣な表情でこの場を離れるオグロスさん。
なんか嫌な予感がするなあ……。
「それより誰か飯を……。あ、ちょいとそこ行くお嬢さん」
「はい?」
通りがかったルナール族の可愛らしいお嬢さんに手伝ってもらうことに。
照れくさそうにはにかみながらも、律儀に食べさせてくれるキツネっ娘に乾杯(あるいは完敗)。
当然、戻って来たニナ達に白い目で見られたことは言うまでもない。
翌日。
完治とまではいかないが、動かすのに問題が無い程度には、俺の腕は回復していた。
少々忙しないが、俺たちは今日この村を後にするつもりだ。
「……道、間違え過ぎだろ」
「……本当にすみませんでした」
俺の呟きに、ラティが謝罪を返す。
族長フェネック氏に聞いた現在地、ルナール族のキノコ村は、目的地であるベラール族の村とはてんで方向が違っていた。
のみならず、チコメコ・アトル大森林内でも、滅多に外の人が入り込まないような奥地の1つだ。
「本当に今日、発たれるのですかな?」
「はい。あまり長居するのも何ですので」
フェネック氏にそう答えるのはナツメ。
俺としてはもうちょっと、この村の若い娘と親交を深めたかったのだが……。
見送りに村外れに来てくれているのは、フェネック氏にオグロスさん。
それと俯き加減のルナ。
他にも何人かの村民たちが並んでいる。
「……むう」
ニナは、散々張り合ったルナの落ち込んだ様子を気にして、彼女にチラチラ視線を送っていた。
……ふむ。
何だかんだで仲良くなっていたようだ。
「それじゃあ――」
「……リュースケ!」
行きましょうか、と言おうとしたであろうラティの言葉を遮って、ルナが初めて俺の名前を呼んだ。
俯いていた顔を上げて、俺に駆け寄って来る。
「何だ?」
「あ、その……」
再び顔を伏せるが、手をぎゅっと握ると、赤くなった顔を上げて、言った。
「あたしも連れていけよ!」
「……はい?」
何を言い出すんだこの娘は。
「親父たちに聞いたぞ。村を救ったお礼に、あ、あたしを要求したんだろ?」
それは冗談だと言ったはずなんですがねえ!?
オグロスさんに顔を向ければ、こくりと頷いてみせる。
頷かれても……。
「リュースケ……本当か?」
ニナが複雑そうな顔で見上げてくる。
「いや、あのね」
「リュースケさん……やっぱり……」
「しっ! ラティ、趣味は人それぞれ――」
「そっちの2人はまだ誤解してんのか!」
ヒソヒソ話すラティとナツメにつっこんでから、俺はルナへと向き直る。
ルナはまだ頬を赤く染めながら、真剣な瞳で俺を見つめていた。
「……ルナは、俺と一緒に行きたいのか?」
「あたしは……強い男が好きなんだっ!」
耳まで赤くしながら叫ぶ様子は、可愛らしい。
可愛らしいが――。
「お前を要求したのは本気じゃなかった。悪いが連れては行けない」
「な…………なんでだよ!」
涙目で連れていけと訴えてくるルナに、俺は首を縦には振らない。
「俺たちの旅は……お世辞にも安全とは言えない。それでも付いて来ると、そう決断するには、お前はまだ若すぎる」
「……っ!」
「リュースケ? どうしても連れては行けぬのか? 足でまといと言うのなら、すでにラティがおるではないか」
悔しそうに三度俯くルナを見かねて、ニナが言う。
「ニナさん!? 何気に酷い事言ってますよ!?」
「俺はラティのことは買っている。こう見えて弓の腕は相当なもんだ」
いや、本当に。
「リュースケさん……!」
感動して瞳を潤ませるラティには、後でロリコン扱いしてくれたお礼をたっぷりするとして。
ぽん。
俺はルナの頭に手を置く。
「そうだな……後5年待て。5年経ったら迎えに来てやる。その時まだ俺の事が好きだったら、今度こそ貰ってやるよ」
ニッ、と、俺はルナに笑いかけた。
「…………わかった。絶対だぞ!」
「ああ。それまでせいぜい腕を磨いておけ」
「オマエより――リュースケより強くなってるからな! 覚悟しておけよ!」
「はっ。そりゃ楽しみだ」
ルナはごしごしと涙を拭い、満面の笑みを浮かべた。
「まあ、正妻はわらわじゃがな」
ふふん。と胸を張るニナ。
「5年後はあたしの方が美人になってるから、わかんないけどな!」
「なんじゃと!」
「何だ!」
睨み合う2人。
――ニヤ。
だがすぐに、2人は不敵な笑みを交わす。
「なら、5年後に勝負じゃな」
「望むところだ」
仲良き事は美しき哉。
「それじゃ、今度こそ行きましょうか!」
「ああ……だがお前は先頭を歩くな! 向かうのはそっちじゃない!」
ビシ!
性懲りもなく先導しようとするラティにチョップを入れる。
そうして、俺たちはルナール族の村を後にした。
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