ブログではなく、小説を連載しています。
最新CM
ブログ内検索
最新TB
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
第2話 白竜の姫君
「姫様ー!」
「ニナ姫様ー!」
兵士共がわらわを呼ぶ声が、白竜城の廊下に響き渡る。
ふんっ。見つかってなるものか。
自室のある4階からどんどん階段を下りて、地下にまで至る。
「……ニ……様……」
もはや兵士の呼び声も遠い。
わらわがこうして逃げておるのには、当然理由がある。
父上が、あろうことか黒竜城の第2王子に、わらわを妃としてあてがうなどと言い出したのだ。
確かに最近、白竜人と黒竜人の関係悪化が目に余る。
白竜城の第3王女であるわらわと、黒竜城の第2王子が結婚すれば、政治的にも有効だということはわかる
わらわとて王女。
劇的なロマンスに憧れはしても、いつかは政略結婚も已む無しとの覚悟はあった……ようななかったような。
だが。
だが、だ!
あやつ、黒竜城の第2王子である、ゲオルグ。
あやつとだけは嫌じゃ! 絶対に嫌じゃ!
あの胸糞悪い気障ったらしい笑い。
思い出すだけで虫唾が走るわ。
顔は悪くないんじゃが、なんか、生理的に受け付けん!
わらわの名前を何度も間違えおるし。
昨日突然、結婚しろと告げられて。
嫌じゃと言ったのに、今日は会いに来ておるから面会しろじゃと?
絶対にお断りじゃ!
憤懣やるかたなく肩を怒らせて、延々と階段を下る。
延々と、延々と……。
……ふむ。城の地下は、こんなに深かったのか。
普段はこんなところ、近づけさせてももらえぬからな。
どこまで続いておるのか、興味がわいてきた。
わらわは姫じゃが、竜人である。
階段を下りるくらいで疲れはしない。
わらわは白竜人の中でも、力の強い方だしの。
終わりの見えぬ暗い階段を、ドレスのスカートを持ち上げながら、一気に駆け下りる。
この通路の狭さでは、飛んで下りるわけにもいかぬからな。
ようやく、階段が終わる。
わらわの目の前には、ひとつの扉。
ガチャガチャ。
躊躇いなくノブを回すも、鍵がかかっておる。
ドガン!
勿論躊躇いなく蹴破る。
中は真っ暗で、竜人の目でもはっきりとは見えない。
だだっ広い部屋には、何も置かれていなかった。
「なんじゃ、つまらん……ん?」
よく見ると、床に魔方陣が描かれている。
「ほほう」
竜人は基本的に、魔法を使えぬ。
だから魔法陣には詳しくないのじゃが。
この前読んだ物語では、魔法使いが自身の血を媒体にして、魔法陣から魔物を召喚しておったのう。
「魔物を召喚して、ゲオルグの奴を暗殺するというのは……」
うむ。悪くない手じゃ。
床の魔法陣に手を触れる。
ボウ。
「おお?」
わらわが触れると、魔法陣は淡く光を発した。
これ、いけるんじゃなかろうか?
「ふっふっふ。よかろう。わらわの高貴なる血液を味わうが良い」
立ち上がり、爪で指を傷つけて、血を1滴魔法陣に垂らす。
直後、魔法陣が眩しいくらいに激しく光り出す。
「おお! きたきた! フハハハ! これ楽しいかもしれん!」
気分は魔法使いといった感じで、わらわは両手を魔法陣に向けて掲げる。
「さあ! 出でよ我が忠実なる魔物! 我が意に従い、ゲオルグの阿呆をこの世から消し去るのだ!」
すっかりノリノリで、聞かれたら国際問題になりかねんことを、大声で口走るわらわ。
ビカー!
魔法陣はますます輝く。
ビカー!
「……あれ?」
ビカー!
光れども光れども、魔物が召喚される気配はない。
「……まあ、そりゃあそうじゃろうなあ」
わらわに魔法が使えるわけもないし。
「がっかりじゃ。お前にはまったく、がっかりじゃ」
わらわは魔法陣が刻まれた石の床を、げしげしと蹴りつける。
「はあ。虚しい」
力が抜けて、肩をがくりと落とす。
なんか一向に光がおさまらないけど、まあいいか。
魔法陣に背を向けて、扉を蹴破った入口へ向かう。
ビカーーー!!
「ぬお!」
途端、背後からの光が一際強くなり、暗い部屋を隅々まで照らし出した。
「なんじゃ! やっぱり召喚されるのか!?」
期待に胸を膨らませて、振り返って魔法陣を見つめる。
シュウウン……。
「……」
光がおさまった。
「なんでじゃああああ!」
ドーン!!
「おわああ!? 今度はなんじゃ!?」
急に大きな音が鳴り、わらわは身を竦ませる。
「……」
「……」
魔法陣の中心に、男が座っておった。
思わず、無言で見つめあってしまう。
男は黒髪に金色の瞳、そして見慣れないが、上質な黒い生地の服を身にまとっておる。
……竜人、いや、人か?
男が竜人なら、黒い髪は黒竜人であることを示す。
だが、黒竜人の瞳は「赤」だ。
この男の瞳は、わらわ達白竜人と同じ、「金色」。
黒竜人は肌が浅黒いが、この者はどちらかといえば白い。
そうはいうものの、白竜人ほど真っ白ではない。
ハーフだとしても、黒竜人と白竜人、どちらかの特徴しか受け継がれないのが常識である。
で、あるならば、この男は竜人ではなく人である、と考えるの自然なのだが。
……この感じは、人にしては妙な……?
あるいはまったく未知の、召喚獣かもしれん。
「〇×△※☆□?」
びくっ。
男が突然、異国の言葉で話し出した。
わらわとしたことが、思わずちょっとびびってしまったわ。
竜人か人か知らぬが、わらわが召喚したのだから、きっとわらわのしもべのはずじゃ。きっとそうじゃ。
「お主を召喚したのはわらわじゃ。わらわを主と認め、傅くがよい!」
と言ってみたものの、やはり言葉がわからんのか、男は困惑した表情を浮かべた。
男がのっそりと立ち上がる。
む、しもべの癖にわらわを見下ろすとは。
違うぞ。わらわが小さいわけじゃないぞ。
こやつが生意気にもわらわより大きいのが悪いのじゃ!
「◇☆〇△※△×?」
むう。さっぱりわからん。
とりあえず、異文化交流の初めとして、名前だな。
うん。名前を聞こう。
「お主、名は何という。わらわは」
わらわは自分を指差して、名前を告げる。
「ニナ・ベラ・アドルフィーネ・エルメントラウト・リア・ミュリエル・ヴィオラ・ナターシャ・フィオーナ・フィロメーラ・ルイースヒェン・ヴェロニカ・フォン・ヴァイス・ドラッケンレイ」
「……」
男は、少し驚いたような顔をした。
……まあ、わらわも、わらわの名前は無駄に長いと思う。
これまで、一回でわらわの名前を覚えた者はおらんからのう……。
母上曰く、父上が歴史上の偉大な白竜(女)の名前を全てつけたらしい。
父上は阿呆なのか。
男が左手で自分を指差して、言った。
「ホウリュウインリュウスケ」
「ホウ・リューインリュ・ウスケ?」
変わった名前じゃのう。
と、思ったら、男は首を振ってもう1度言った。
「リュウスケ・ホウリュウイン」
ふむ。リュースケ、が名前で、ホウリューインが家名ということか。
家名が先ということは、東方の出身じゃろうか。
「ここでは何じゃな。わらわの部屋に行かぬか」
わらわはリュースケを引っ張って行こうと、彼の右手に手を伸ばす。
……む? 何か持っておる?
変わった形状だが、刃物……剣か?
「って刃物!?」
何ぃ!? まさか、リュースケは召喚獣と見せかけて、わらわを殺しに来た暗殺者か!?
ゲオルグの差し金か!? 違うか……。
ともかく、殺されるわけにはいかぬ。
本当に暗殺者かどうかは知らぬが、一旦気絶させてから運んでもよかろう!
先手必勝とばかりに、わらわはリュースケに右拳を振るう。
「!」
驚いた様子ながらも、リュースケはあっさりそれを躱した。
むむむ! やりおる! やはり、暗殺者だったのか!?
わらわは右拳を突き出した勢いのまま、体を捻って左後ろ回し蹴りを放つ。
わらわの足裏が、リュースケの腹筋に激突する。
ドムッ!
――堅い! 人とは思えんな、やはり竜人か召喚獣か。それに……。
リュースケはわらわの足が当たる寸前、自ら後ろへ跳んで威力を減退させていた。
ザザー。
リュースケの両足が石の床を滑る。
ふふふ。わらわの蹴りを受けて膝をつきもせんわ。
面白い。
わらわがニヤリと笑みを浮かべると、リュースケもこちらを見て、ニヤリと笑った。
ふははは!
もはや、リュースケが暗殺者かどうかなどどうでもよいわ!
人型といえど、わらわと対等にやりあえる相手など久しぶりじゃ!
……あんまり強すぎる相手とはやりたくないから、姉上とかから逃げてたせいかもしれぬが。
「てぇぇええ!」
わらわは気合いの声を発しながら、再びリュースケに殴りかかる。
とりゃ! てい! この!
右、左、右ローキック。
速さには自信があるのじゃが、全て紙一重で躱される。
く……強い!
「がぁおお!」
両手の爪を立てて、振るう。
ぶん! ぶん!
リュースケは避けてばかりで、右手の変わった形のソードを使う気配はない。
むう、舐められておるのか!
「こ、のお!」
気絶させる、という目的も忘れ、わらわは思いきり右手の爪で斬りかかる。
スカ。
「!? 消え……!?」
リュースケが視界から消えた、と思った次の瞬間。
ドサ!
「あうっ!」
わらわは後ろから床に押し倒されて、左右の腕を後ろ手に捕らえられた。
「……わらわの、負けじゃ」
こうなったからには仕方ない。
殺されるのは嫌じゃが、ゲオルグの嫁になるよりは、このリュースケに殺されたほうが100倍ましじゃ。
覚悟を決めて、目を閉じる。
「×〇△☆※◇」
「ぬ?」
しかしリュースケは、何事か呟いて、わらわを解放した。
短い剣も、いつの間にか床に放ってある。
あれ?
……もしかして、暗殺者じゃなかったのかのう。
わらわは多少気まずい思いで立ち上がり、リュースケに向き直る。
リュースケは先程と同じようにニヤリと笑い、言った。
「〇※△☆×◇□、ニナ・ベラ・アドルフィーネ・エルメントラウト・リア・ミュリエル・ヴィオラ・ナターシャ・フィオーナ・フィロメーラ・ルイースヒェン・ヴェロニカ・フォン・ヴァイス・ドラッケンレイ」
なん……じゃと……。
わらわは、驚愕に目を見開く。
この状況で、言葉もわからぬのに、わらわの名前を1度で覚えたというのか?
こやつ…………面白い!
「ふふふ。フハハハハ! 決めた! 決めたぞ!」
わらわは、こやつ、リュースケを。
PR
この記事にコメントする