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ネット小説とか書いてます。竜†婿は「小説家になろう」でも公開中です。
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第38話 交易山林都市ベラール

 チコメコ・アトル大森林の夜は、セオリー通りに火を絶やさずにいなければならない。
 魔物を含めて、野生動物が火を怖がるのは、この世界(ミッドガルド)でも同じのようだ。
 
 まあ全部が全部そうというわけではなく、稀に襲いかかって来るヤツもいるにはいるが。
 こちらの保有戦力的に、問題となる程の魔物は、今のところ出現したことはない。
 
 とにかく、交代で火の番と魔物への警戒を行うわけだ。
 
 寝る必要がないエレメンツィアにやらせときゃいいんじゃね? という俺の意見は却下された。非人道的だからという理由で。
 
 で、今は俺の番。
 ぼーっと火を眺めながら、一応の警戒を周囲に振りまく。
 
 キツネミミ族の村を発ってから、5日程経過したか。
 事前情報によれば、そろそろネコミミ族の勢力圏に入るだろう。
 
 あ、正確にはルナール族とベラール族な。どうでもいいけど。
 
「リュースケさん」
 
「ん?」
 
 声を掛けてきたのはラティ。
 まだ交代の時間ではないはずだ。
というか次はナツメのはずだが。
 
「……あの」
 
「ああ。何だ」
 
 いつになく真剣な顔をしたラティに、俺もガラにもなく真剣に応える。
 
「……」
 
「……」
 
「……愛の告白か?」
 
「ちっ、違いますっ!」
 
 やっぱり真剣な対応はできませんでした。
 反応的に、脈がないわけじゃなさそうだが……。
 
 やや頬を染めたラティは、妙な緊張は解けたもよう。
 
「……」
 
 が、やはり次の言葉は出て来なかった。
 
「ラティ?」
 
「あ、えーっと。何でもないです。じゃ、おやすみなさい」
 
「おい?」
 
 結局ラティは何も言わずに、ニナ達の隣に横になってしまった。
 
 ……ふう。またまた厄介事の気配がしてきましたよ。
 
 俺は火勢の衰えた炎に、乾いた焚き木を継ぎ足した。
 

 
 ラティ属するベラール族は、チコメコ・アトル大森林の獣人の中でも屈指の大部族である。
 
 チコメコ・アトル南東に連なるテオトル山脈、およびその周辺の森林の大部分がベラール族の勢力圏だ。
 
 標高2000~5000メートル級(目測)の連峰を見上げると、頂上付近には雪化粧が見られる。
 ミッドガルドで雪が降るのは、基本的にはこのテオトル山脈か、白竜城近辺だけらしい。
 
 ベラール族の村は幾つかに分割されて存在している。
ラティの生まれた村は、テオトル山脈の中でも一際高い、名前もそのままテオトル山にあるとのこと。
 
 といっても、何も高山帯に住んでいるわけではない。
 
「あっ。あそこですよ!」
 
 登山を始めてからまだ余り時間も経っていないが、早々に到着したようだ。
標高300メートルくらいだろうか。ラティは前方を人差し指で指し示す。
 
 緩やかな傾斜に立ち並ぶ木々の隙間から、人の生活を匂わせる、白い煙が上がっていた。
 
「ようやくか……。わらわはもう疲れたぞ。リュースケ、おんぶ」
 
「はいはい」
 
 俺はニナの両脇に手をさし入れて持ち上げると、ナツメの背中に押し付けた。
 
「ってなにゆえ拙者が!」
 
「すやすや」
 
「すでに寝ていますね……」
 
「信頼されてるな、ナツメ」
 
「うん? ……そうか?」
 
 これも修行か、とか言いながら、満更でもない表情で歩きだすナツメ。
 扱いやすいヤツ。
 
 森を抜けると、木々を切り拓いて作ったのか、最初から空き地だったのかはわからないが、かなり大きな村――町と言ってもいいかもな――が目の前に広がっていた。
 
傾斜に対して斜めに、すなわち地面に対して垂直に建てられた木造家屋が建ち並ぶ。
 
 ここがラティの故郷か。
 ちらほらと遠目に見える人々には、ラティと同じネコミミと尻尾が生えている。
 
 狩猟民族といっても、農業がないわけではないらしい。
 村の片隅で段々畑を耕していた壮年の女性が、こちらに気がついて振り向いた。
 そして驚きに目を見開いて、持っていた(くわ)のような農具を取り落とす。
 
「ら、ラティちゃん?」
 
「ただいま帰りました、タミラさん」
 
 おばさんの問い、というより確認に、ラティは満面の笑顔で応えた。
 
「まあまあまあ。随分とまあ、久しぶりだね。おかえり。後ろの方々は?」
 
「友達です」
 
 ラティ以外の一同、会釈。
 
「あらあら。ラティちゃんが友達を連れてくるなんて、初めてねぇ」
 
 おばさんは嬉しそうに顔を綻ばせる。
 
「ナラシンハ様にはまだ?」
 
「はい。今着いたところなので」
 
「そうかい……。早く、顔を見せておやり」
 
 ラティが頷いて村の中心部の方へと歩き出したので、俺たちも後に続く。
 
「……?」
 
 最後におばさんとすれ違った俺は、視界の端に映った彼女の表情に疑問を覚えて、立ち止まる。
 振り返れば、おばさんはすでにこちらへ背を向けて、農作業へと戻っていた。
 
「竜輔殿?」
 
「ああ。今行く」
 
 少し距離が開いた俺にナツメが呼び掛けたので、早歩きで後を追う。
 
 おばさんが何故か浮かべた悲しげな表情が、俺の頭の片隅にこびりついていた。
 

 
「で、ナラシンハって誰だ?」
 
「私のお父さんです」
 
 ふむ。
 様づけで呼ばれていたが、ラティの親父は一体どういう立場の獣人なんだろうか。
 
 時折声をかけてくるネコミミ獣人たちに応対しつつ、俺たちはラティの後に続いて歩く。
 
 ベラールの村の道は、意外にも綺麗に舗装されていた。
両脇に田畑や一部立派な風車のようなものも見受けられ、割と近代的な印象すら受ける。
 近代的といっても、あくまでミッドガルドの文明基準での話だが。
 
 俺の目から見れば「のどかな田舎」には違いないが、チコメコ・アトルの獣人の暮らしとしては、相当進んでいるのではなかろうか。
 
交易山林都市「ベラール」。
 最近はここを、そんな風に呼ぶ者たちもいるらしい。
 
 さすがに他種族の住民を受け入れてはいないが、外との交易も活発に行っているとか。
 
「田舎と言ってたが、なかなかどうしてちゃんとした村ではないか」
 
 ナツメもニナを背負い直しながら周囲を見回し、俺と同じ印象を抱いたようだ。
 
「あはは。ありがとうございます。お父さんが新しいもの好きなので」
 
 ほー、ナラシンハ氏が。
……ん?
 ってーことは、まさか。
 
「ラティ、まさかお前の親父、ここの村長だとか言わないよな?」
 
「え? 違いますよ?」
 
 なんだ、違うのか。
 
「お父さんはベラールの族長ですから、村長さんは、また別にいます」
 
「なにぃ!?」
 
 族長!?
 
「……あれ? 言ってませんでしたか?」
 
「聞いておらんわ!」
 
 衝撃の事実を前に、ナツメの背で狸寝入りをこいていたニナが突っ込みを入れた。
 狸寝入りがバレたので、ニナはナツメの背から飛び降りる。
 
「ニナ殿。拙者は馬ではないぞ……」
 
 乗り物扱いされていたナツメが不平を零す。
 驚いた様子は見られない。多分、ナツメは事前に聞いてたんだろうな。
 
 ナツメの小言は右から左へ受け流し、ニナはラティを問い詰める。
 
「族長の娘、ということは、ラティはベラールの姫ということであろう」
 
「ひ、姫だなんて! そんな大げさなものじゃないですよ」
 
「いや族長の娘なら、姫と言っても過言じゃないだろ」
 
 村民たちはかなり気さくに声を掛けてくるから、確かに身分的な格差とかはないのかもしれんが。
 
 ラティは姫扱いされて、真っ赤な顔であたふたしている。
 
「はあ。まあいいけどな」
 
 俺たちは止まっていた足を再び動かし始める。
 
 やれやれ。
ニナといいキルシマイアといいラティといい、ついでにガルデニシアといい。
 
 俺はつくづく『姫』に縁があるらしい。
 
「まさか、ナツメもどっかの姫とか言わないだろうな」
 
「うえっ!?」
 
 奇声を上げて、ナツメは視線を泳がせる。
 軽い気持ちで呟いただけなのに、ナツメは過剰な反応を見せた。
 
「……おい?」
 
「い、いや、拙者は別にその」
 
 ふらふらと視線を彷徨わせるナツメを追及しようとした、その時。
 
「ラティちゅわああん!!」
 
 前方に、大声でラティを呼びながら駆けてくるベラール族の少年の影が。
 
「あ、お父さん」
 
「「「お父さん!?」」」
 
 抱きッ。
 
 と、少年(?)をラティが抱き止める。
 
 小柄な体躯にベラール特有のサラッとした茶色い毛並み。くりっと大きな瞳に高めの声。
どう見ても10代前半のガキにしか見えない。
 その道の人間が見れば鼻息を荒くしそうな美少年ではあるが……。
 
「こいつがナラシンハ? 名前負けもいいとこじゃね?」
 
 思わず、口走る俺。
 ナラシンハといえば、前の世界ではヒンドゥー教における神の化身だぞ……ライオンの獣人の。
 
「なんだとう! 僕は族長だぞ偉いんだぞ! というか、お前は誰だ!」
 
 がるる、と牙を剥いて俺を威嚇するラティの親父兼、族長ことナラシンハ。
 
「あ、こちらリュースケさん。そっちがナツメちゃんと、ニナさん。私の友達なの」
 
「……友達?」
 
 ナラシンハは茫然としているのだろうが、その外見からして「きょとん」という擬音語が似合う。
 
 そして、一瞬、ほんの一瞬。
 注視していなければ見逃していただろう一瞬の間だけ、悲しげな表情を浮かべた。
 
「……そうかそうか。ようこそ我が村へ。我々は君たちを歓迎しよう」
 
 子供のように無邪気な笑みで、ナラシンハは歓迎の意を示す。
 その様子には、先程の表情の影も形も見られない。さすがに見た目はこんなでも、この村をつくった族長か。
 
 が、ナラシンハは隠せたとしても。
ここまでの道中、ラティに声をかけた獣人たちは一様に笑顔ではあったが、どこか影を感じさせるそれだった。
 
 何かある。そう思わせるには十分だ。
 
 ま、今あれこれ考えても意味はないし、さほど興味もないからいいけど。
 悪意とかは、感じなかったしな。
 
「お前は帰っていいぞ」
 
「威勢がいいな小僧」
 
「誰が小僧か誰がっ! ナラシンハ様と呼べ!」
 
 ぷんすか怒るナラシンハからは、ある種の悪意を感じないでもない。
 
「まあまあ……リュースケさんはこういう人だから……」
 
 ラティがナラシンハを宥めつつ。
 俺たちはラティの実家へと招待された。
 

 
 ラティの家、というかナラシンハの豪邸では、ささやかな宴が開かれた。
 参加者はラティの家族であるところの、父ナラシンハと母アミーシャ。
 アミーシャさんはおっとりした感じの美人だった。
 正直、なんでナラシンハと結婚したのかわからない。
 
 あとはいつもの、愉快な仲間達だ。
 エレメンツィアは出てきてないけど。
 あ、あとメイド的に立ち回る数人のネコミミ娘たちが目の保養に。
 
 こんな山奥に、大家族でもなくこれ程巨大な自宅を建造するあたり、ナラシンハの虚栄心が見て取れる。
 まあ村の発展具合を見るに、その虚栄心を満たすに値する能力も、持ち合わせているようであるが。
 
 さすがに豪華な調度品の数々、という訳にはいかない。
 絨毯やら夜光石のランプやらが少々あるというだけでも、チコメコ・アトル大森林の集落としてはすごいことだけど。
 
「素晴らしい家ですな。村も想像以上に豊かな様子。失礼ながら、もう少し、その、田舎であるものと思っておりました。狩猟民族とうかがっておりましたので」
 
「ふふん。まあね。実際、僕の父親の代までは、他の獣人達の暮らしとそう変わらなかったし。僕が、この僕が! 1代でここまで発展させたと言っても過言ではないね」
 
「ほほう。なかなかの政治手腕じゃな。わらわも興味があるぞ」
 
「お? 聞きたいかい? ふっふっふ。まず僕がした事は、外の商人を受け入れることで――」
 
 ナツメとニナが、ナラシンハと何やら話しているが、興味がないので俺はスルー。
 
 それより気になるのは、ラティとその母親、アミーシャさんの会話の様子だ。
 
「よく帰ってきましたね。チコメコ・アトルの外は、どうですか?」
 
「うん。恐い事も多いけど、それ以上に面白いものとか、楽しい事がたくさんあるよ」
 
「そう……」
 
 敬語じゃないラティは多少違和感があるな。
 
 それはともかく、会話だけ聞けば、ごく普通の母子のそれだ。
 
 だが。
 
「なんで、悲しそうな顔をするんだ?」
 
「「え?」」
 
 言われた2人は、右手で自分の顔に触れる。
 母子揃って同じ反応。
 
「……そんな顔を、していましたか?」
 
「ああ」
 
 アミーシャさんの問いに、イエスで答える。
 
「あ、あははー。気の所為ですよ気の所為。久々の故郷で、感傷的になっているだけです」
 
 笑って誤魔化すラティ。
 
 ……隠しているなら、無理に聞きだすこともないか。
 めんどいし。
 
 俺は肩を竦めると、2人に背を向けて料理へと手を伸ばした。
 
「うぉっほん! と、ところで」
 
 しばし料理を平らげていると、話を終えたのかナラシンハがわざとらしい咳払いと共に、俺の方へ向き直った。
 見た目が見た目だけに、咳払いとか似合わない。
 
「リュースケとか言ったか? まさか君は、ラティとは、その……」
 
 煮え切らないナラシンハだが、言いたいことはだいたい分かった。
 ここははっきり言っておかねばなるまい。
 
「ナラシンハ」
 
「……な、何だ。呼び捨てにするなよ」
 
「娘さんを俺にください」
 
「「ええぇー!?」」「まあ」
 
 前者はナラシンハとラティの叫び、後者はアミーシャさんだ。
 ニナとナツメは慣れたもの。また始まったか、と見向きもしない。
 よく見ると、ニナは若干不機嫌そうだが。
 
「そそそそ、おま、駄目っ! 駄目に決まってるだろう!」
 
「りゅりゅりゅ、リュースケさん! 何を言い出すんですか!」
 
「半分冗談だ」
 
「リュースケ!? 半分本気なのか!?」
 
 ここでニナも参入。
 いつも通りの騒がしい時間が始まった。
 

 
「ふう……。さて、宴会はそろそろお開きにしようか」
 
 暴れ疲れたのか、ナラシンハが宴の終わりを告げる。
 外は夕暮れ。部屋では夜光石のランプが灯されている。
 
「部屋は余ってるから、皆ここに泊まってくれ。リュースケは帰れ」
 
「喧嘩売ってるのか?(ギロリ)」
 
「ななな、なんだよう。睨むなよう。僕は頭脳労働専門なんだ」
 
 ナラシンハはビビリだった。
 
「ふふ。リュースケさんも、ゆっくりしていってくださいね」
 
「ありがとうございます。アミーシャさん」
 
「コラァ! 何でアミーシャには謙虚なんだよ! 僕を敬えよ!」
 
 からかい甲斐があるあたり、ラティは父親似なんだろうか。
 
「じゃ、メイドたちに部屋まで案内を――」
 
 ナラシンハが手を叩いてメイドを呼ぼうとした、次の瞬間。
 
 ――ォォォォォオオオオオオン!!!
 
 キーン……。
 
「っぐ!」
 
 思わず、耳を押さえる。
 重い金属同士がぶつかったような、震動そのものとも感じられる大音声(だいおんじょう)
 頭の奥まで不快に響く、気味の悪い音がナラシンハ邸を震わせた。
 
 音源はおそらく、テオトル山の上方。
ナラシンハ邸だけでなく、ベラール全体に響き渡っただろう。
 
「な、なんじゃ、今のは」
 
 ニナが不安げな顔で俺にしがみ付く。
 反射的にであろうが、ナツメの右手は刀の柄に添えられていた。
 
「そ、んな……」
 
 震える声で呟いたのは、アミーシャさん。
 
 バン!
 
「馬鹿な……! 早すぎる!」
 
 ナラシンハは表情にありありと焦燥を浮かべ、机を拳で殴りつけた。
 
 何なんだ、一体。
 
 そんなわけのわからない空気の中で。
 ラティは絶望とも、諦めとも、安堵ともつかない表情で、山頂の方角を見つめていた。
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