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ネット小説とか書いてます。竜†婿は「小説家になろう」でも公開中です。
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第39話 テオトル山に巣食うモノ

 ナラシンハは大きな深呼吸の後、表情を消して俺たちに告げた。
 
「すまないが、君たち。今すぐにベラールを出ていってくれ」
 
「何?」
 
 聞こえていたが、聞き返す。
 
 冗談混じりに俺を追い出そうとしていた先程までとは違い、ナラシンハの言葉に本気を感じる。
 
「……どういう事か、説明していただきたい」
 
「何か気付かぬうちに失礼なことをしたのじゃろうか? ここの流儀には疎いゆえ、はっきりと言って欲しいのじゃ」
 
 ナツメが当然の質問を投げかけて、ニナは自分の非を問うた。
 
「そうじゃない。……いや、リュースケはここの流儀に関わらず失礼な奴だとは思うけど。出ていってもらうのはこちらの事情だ。すまんな」
 
 そう言って、もう話は無いとばかりに、俺たちに背を向けるナラシンハ。
 
「……ラティ?」
 
 数年来の友に、ナツメは視線を向けて問い掛ける。
 
「……ごめんなさい。リュースケさん達を匿う約束、守れそうにありません」
 
 だが返ってきたのは、悲しげな微笑みと拒絶の意志だった。
 
「なっ……ラティ! どうしたと言うんだ! 拙者たちはラティの友人ではないのか! 何かあるのなら……!」
 
 何故話してくれないのか。
 問い詰めようとラティに迫るナツメの前に、メイドの1人が立ち塞がる。
 
「申し訳ありませんが、お引き取りください」
 
「邪魔を……!?」
 
 ヒュン!
 
 メイドが振るった短剣の一撃を、ナツメは後ろに飛び退って躱す。
 さすがに狩猟民族。その攻撃は、単なるメイドとは思えない鋭さだ。
 
「お引き取りを」
 
 まさか刃物まで持ち出すとは。
 さすがにラティが止めるかとも思ったが、無言でこちらを見つめるばかりだ。
 アミーシャさんも、部屋の隅で悲しげに眉尻を落とすのみ。
 
 こりゃ、マジだな。
 
 パチン。
 
 ナラシンハが指を鳴らすと扉が開き、ネコミミ獣人たちが部屋になだれ込んでくる。
 男も女も、どいつもこいつも雑魚じゃない。
 戦うとすれば、かなり厄介な相手だろう。
 
「抵抗は無駄だ。すぐにここを出て、ラティの事は忘れてくれ。娘の友人になってくれて、感謝する。……連れ出せ」
 
 ナラシンハの命令に従って、ベラールの戦士たちが包囲網を狭める。
 
「ぬぅ……」
 
「リュースケ……」
 
 ナツメが悔しげに呻き、ニナが俺を見上げた。
 何人かの獣人が俺たちを囲み、出口へ誘導しようとする。
 
 ナツメやニナなら振り払えない相手じゃないが、さすがにラティと同じベラールの民に手は出せないんだろう。
 
「くくっ」
 
 不意に、笑いが込み上げた。
 それを見た獣人たちは、気圧されたように足を止める。
 
「……何を笑っている?」
 
 ナラシンハが訝しげに聞いてくるが、それを無視して俺はラティを睨みつけた。
 
「っ!」
 
 俺の視線にひるんで、目を逸らすラティ。
 
「ラティ。おいラティ。まさか、こいつらが俺をどうにかできるとでも?」
 
「そ、それは……」
 
 こいつら、などと言われて、獣人たちはむっと不満気な表情を浮かべる。
 
「ナツメもニナも、ラティの家族や仲間たちに手を出したりはしないだろうが、俺は違うぞ」
 
 俺の右手を掴んだ獣人男性の腕を、逆に掴んで放り投げた。
 
「う、おっ!?」
 
 何が起きたかわからない、といった様子で男は宙を舞い、着地点の仲間たちが慌てて彼を受け止めた。
 別に何か技術を使って投げたわけではない。力任せに放っただけだ。
 
「貴様! ……おわっ!」
 
 激昂して襲いかかってくる別の獣人の突撃をひらりと躱し、足を掛けて転ばせる。
 
「……おい、ラティ。この男は何者だ。ベラールの精鋭が手も足も出てないぞ。黒竜人では、ないのだろう?」
 
 ナラシンハが苦々しげな顔で問う。
 その問いにラティが答えるのを待つこともなく、俺はラティに別の言葉を投げかける。
 
「ラティが……ベラールが何を抱えているかは知らん。が、理不尽な仕打ちに黙って身を委ねる俺じゃないぜ」
 
 にやり、と俺は笑みを浮かべた。
 
「選べよ。観念して話すか、痛い目見てから話すかをな」
 
 逡巡は一瞬。
 ラティは苦笑して、強張った体の力を抜いた。
 

 
 部屋を変えて、応接室っぽいところ。
 机を挟んで、俺、ニナ、ナツメの3人は、ラティ一家と向かい合っている。
 
「本当に話すのか?」
 
「……うん。秘密なのはわかってるけど、話さないとアレの前にリュースケさんが村を滅ぼしかねないから」
 
 それは言い過ぎ。
 何気なくセリフに混ざった『アレ』とやらが今回の核心か。
 
「おいおい。そんな馬鹿な」
 
「聞いたでしょ? ヴァルガノスでの話。それに……やっぱりみんなには知っていて欲しいから」
 
「……うむむ」
 
 納得していないらしいナラシンハはさて置いて。
 
「じゃ、聞かせてもらおうか」
 
「はい。包み隠さず全てを話します。ただし……聞いた後、どうにかしよう何て考えないでください。いくらリュースケさんでも、今度ばかりは不可能ですから」
 
「……ふーん。不可能ね」
 
 俺の辞書に不可能の文字は存在しない、何て言うつもりはないが、そう言われると意地でもどうにかしたくなってくる。
 
「わかった。話すことは良しとしよう。だが、これから話す事は絶対に他言無用で頼む。もし話せば……ベラール族は絶滅すると思ってくれ」
 
 ナラシンハの言葉に、ニナとナツメが息を呑む。
 俺は無言で、一種族の命運を左右する秘密の、告白を待つ。
 
 アミーシャさんは口出しするつもりはないらしく、先程から悲しげに目を伏せている。
 
「まず先程の音ですが、あれはテオトル山にいる、とある存在の叫びです」
 
「叫び、じゃと? あれが?」
 
 ニナが聞き返してしまったのも無理はない。
 アレが『叫び』……すなわち生物の声帯から発せられたものだとは、到底思えないからな。
 
「あの『叫び』は、だいたい20年ごとに聞こえてきます。前回は、15年程前でしたが。そして叫びの意味するところは――空腹、です」
 
 ニナとナツメが首を傾げる。
 
 俺は……なんとなく、話が読めてきた。
 ファンタジーにおいては実にありきたりな話で、当たり前に胸糞が悪い。
 
「当然、叫ぶだけでは終わらないんだろう」
 
「……? どういうことだ? 貢物でもするのか?」
 
 俺の吐き捨てるような言葉に対し、ナツメが推測を述べる。
 
「貢物……そうですね。その通りです」
 
「あれがこの地に降り立った数百年前から、変わらず続く悪習だ。悪習だと分かっていても、どうにもならないこともある」
 
 ラティもナラシンハも、なかなかハッキリとしたことは口にしない。
 ならば、ズバリこちらから聞くしかあるまい。
 
何を(・・)何に(・・)貢ぐんだ」
 
「……貢ぐ物は、人。それも歳若い女性に限られます」
 
「なっ……なんだと!?」
 
 ガタン!
 
 ナツメが驚愕と共に立ち上がり、その勢いに椅子が倒れる。
 
「ば、馬鹿な。人を貢ぐ、じゃと……? 『叫び』が空腹を意味するならば、つまりそれは――」
 
 ニナはその先は言葉に出せずに、飲み込んだ。
 
 つまりそれは、人を喰らう、ということ。
 
「そんなふざけた事が許されるものか! その『とある存在』とやらがどんな悪鬼羅刹か知らないが、皆で力を合わせて討伐を……!」
 
 熱くなったナツメが、握り拳をつくりながら力説する。
 
「……う、うむ。どれほどの化物だとしても、今は村ひとつで問題を抱え込む時代でもあるまい」
 
 ニナも、怯みながらも言葉を紡ぐ。
 
「外部に助けを求めてもいいはずじゃ。ここは交易都市と呼ばれておるのじゃろ? 何なら、白竜城から兵を出そう。たとえオーバーSランクの魔物であろうとも、白竜人の精兵と、このリュースケが打ち倒して見せようぞ」
 
 いちいち俺を数に入れんでもよろしい。
 
 頼もしく思える彼女らの提案に、しかしベラール族長とその家族の顔色は晴れない。
 
「それが出来るならとっくにやっているさ」
 
「む」「うぬ」
 
 そりゃ、そうだ。
 ナラシンハにばっさりと切り捨てられて、ナツメとニナが短く呻く。
 
「オーバーSランクの魔物? ハッ。それくらいならベラールだって狩れるさ。……多分」
 
 そこは多分なのか。
 
「あいつは、人の身でどうこうできる相手じゃないんだ。求めに応じること以外、ヤツから村を守る方法はない」
 
「だから、そいつは何なんだ。ハッキリ言わなきゃわからんぞ」
 
 俺は返答を促す。
 
 努めて表情を殺しながら、ラティがその質問に答えを示した。
 
「――堕ちた神。それが、テオトル山に巣食うモノの正体です」
 
 ナツメの表情が強張り、ニナの顔が絶望に彩られるのを、俺は見た。
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