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第3話 こんにちは、異世界
ドーン!!
うっ。
全身に痺れるような衝撃を受け、尻餅をつく。
そして光に覆われていた視界が回復した。
「……」
「……」
目の前に外国人の少女がいた。
その子は、「雪」を連想させる、極上の白い美少女だった。
小柄な体躯が可愛らしい。
腰まで伸びる白金の髪は、流れるようにサラサラとしている。
肌は真っ白で、着ているドレスも白を基調としたものだ。
そしてその瞳は……俺と同じ、金色の瞳だった。
大きな金の瞳を見開いて、俺をきょとんと見つめている。
うーん。かわええな。
豪華なドレスに、頭にはティアラ。
どこのお姫様ですか?
身体は小さいのに、胸は結構大きいってのもポイント高しだ!
ってんなこと言ってる場合か。
よく見れば、ここはうちの土蔵の地下室ではない。
いったい何がどうなってるんだ!
……俺もライトノベルくらいは読むので、薄々と勘づいてはいるけどね?
「ちょっと聞きたいんだが、ここはどこだ?」
声を掛けると、少女はびくっと身体を震わせた。
驚かせてしまったか。
というか言葉、通じるのか?
「◇※☆△〇※□×▽。〇×□△、※◇☆!」
彼女は腰に左手を当てて、右手の人差し指で俺をビシッと指差した。
響きはドイツ語っぽいけど、何か違う。
ズキリ。
微かに頭痛。
この言葉、いつかどこかで聞いたような……。
……思い出せない。
俺はずっと座っていたことに気付き、立ち上がる。
立ってから見ると、やっぱ小さいなこの子。
俺が180センチくらいだから、145センチくらいか。
「〇×△◇※☆」
俺が困惑していると、彼女も困ったように眉根を寄せて何かを呟いた後、今度は自分を指差して言った。
「ニナ・ベラ・アドルフィーネ・エルメントラウト・リア・ミュリエル・ヴィオラ・ナターシャ・フィオーナ・フィロメーラ・ルイースヒェン・ヴェロニカ・フォン・ヴァイス・ドラッケンレイ」
うん。ボディーランゲージの意味はわかるよ?
自分を指差してから、名前を告げる。
基本だね。
でも名前長すぎだろ……。
わかっている。彼女に非はない。名前はつけた親が悪い。
ともかく、名前を教えてもらったからには、こっちも答えるのが礼儀か。
「法龍院竜輔」
言ってから、こっちでは名前と苗字は逆かもしれないと思った。
「ホウ・リューインリュ・ウスケ?」
案の定、妙なところで区切っておられる。
首を傾げて呟く姿は、可愛らしいけど。
俺は首を振って、もう1度名前を告げる。
「リュウスケ・ホウリュウイン」
今度は納得したように頷いている。
通じたようだ。
彼女はひとしきり頷いたあと、俺の右手の方に手を伸ばすが、すぐに引っ込めた。
その動作で気づいた。
俺、小刀持ったままだった。
蓋はとれたのか、もう刺さっていない。
「□☆×〇!?」
小刀を見て、彼女は慌てたように身構えた。
あれ? 何か激しく誤解されてない?
直後、彼女の姿がブレる。
「!」
ブォン!
咄嗟に左にステップした俺の脇を、彼女の右拳が通過する。
おいおい! 洒落にならん速さと威力だぞ!
普通の人間だったら、人生終わっててもおかしくないんじゃ……。
彼女の異常な身体能力に驚愕している隙を突かれる。
少女は、右手を振るった勢いをそのままに、身体を捻じって左後ろ回し蹴りを放ってきた。
俺は腹筋に力を入れる。
ドムッ!
っ! いってぇ!
後ろに跳んで威力を軽減させたのに、腹筋を貫いて内臓が衝撃に揺さぶられる。
ザザー。
吹っ飛ばされた俺は、固い石の床を靴裏で擦る。
……はは。つええな。この子。
人間の規格外、法龍院の中の化物であるこの俺が。
生まれて初めて他の人間を、脅威だと感じている。
同時に、この子は俺と同じなのかも、と思う。
俺と同じ、化物。
彼女がこちらを見て、ニヤリと笑った。
俺も知らずと、口の端がつり上がる。
楽しい。
喧嘩を楽しいと思ったのは、4歳の時近所のポチと戦った時以来だ。
手を抜かなくてもいい相手。
本気でぶつかっても、壊れない好敵手。
俺が無意識に求めていたものが、ここにあった。
彼女が気合いの声を上げて、再び殴りかかって来る。
先程よりもさらに速い。
だが、こちらも今度は心構えができている。
右、左、右のロー。
人体が生み出しているとは思えない風切り音を聞きながら、高速で撃ちだされる彼女の攻撃を、かつてない集中力で見切り、躱す。
一瞬、右手の小刀を使うか迷う。
別に、少女だから傷つけたくないとかいうフェミニズムを発揮するつもりはないが、相手が丸腰なのに、こちらだけ得物を使うのも気が引ける。
「がぁおお!」
可愛らしい雄叫びを上げて、彼女は掌底――いや、爪、か?――をぶんぶんと振るう。
攻撃に使える程鋭い爪を持っているのかなあ。
まあとりあえず避ける。
身体が軽い。
本気で動いたのは久しぶりだが、まだまだ加速できる気がする。
彼女は焦れたのか、右手を大きく振りかぶって突っ込んでくる。
大振りすぎだよ、お嬢さん。
俺は脚に力を込めて、思いきり床を蹴った。
グン!
かつてない加速感。
俺は一瞬で、彼女の背後に回る。
突然視界から俺が消えた彼女は、たたらを踏んで立ち止まった。
チェックメイト。
俺は邪魔な小刀を床に放った。
ドサッ!
後ろから少女を組み伏せ、彼女の両手を後ろ手に拘束する。
思った程苦戦しなかった。
身体能力は高いようだが、体術は未熟だな、この子は。
少女が呻き声を上げる。ちょっと罪悪感。
「……〇×※△☆□」
彼女は何か囁いて、まぶたを閉じた。
……ひと思いに殺せ、と?
殺すかアホ! もったいない。
せっかく美少女で、しかも俺と喧嘩できる相手なのに。
俺は彼女を解放して立ち上がる。
少し間を置いて彼女も立ち上がり、こちらに振り向いた。
何か申し訳なさそうな目で見ている。
よくわからんが、誤解が解けたのかもしれん。
俺はニヤリと笑みが浮かぶのを感じながら言った。
「楽しかったぜ。ニナ・ベラ・アドルフィーネ・エルメントラウト・リア・ミュリエル・ヴィオラ・ナターシャ・フィオーナ・フィロメーラ・ルイースヒェン・ヴェロニカ・フォン・ヴァイス・ドラッケンレイ」
俺が彼女の名前を呼ぶと、少女はくりくりした目を丸くした。
で、何かめちゃくちゃ笑いはじめた。
「ふふふ。フハハハハ! ◇☆△! 〇×□!」
大丈夫か? 押さえつけた時、頭でも打ったかな……。
俺が少女の心配をしていると、彼女は小走りに近づいてきた。
もう敵意は感じなかったので、特に避けたりはしない。
少女は俺の背中に手を回して、がしっとしがみ付いた。
女の子特有の柔らかさを感じる。
俺を見上げて、キラキラと瞳を輝かせていた。
あれ? 何か、フラグ立った?
嬉しくて、可愛い……。
じゃなくて、困ったな。
懐かれると、喧嘩しづらくなる。
せっかくの好敵手が。
彼女は、俺の学ランを掴んでぐいぐいと下に引っ張る。
ん? 何だ? かがめってことか?
俺は少女にせがまれるままに、膝を折って姿勢を低くした。
ブチュ。
キスされた。
「!? んむ、むーー!?」
ぬおおお! 俺のふぁーすときっすが!
いや、まあいいか? 美少女が相手だし……。
女の子の唇って柔らかいんだな……。
ってよくねえよ! こういうのは好きな相手とだな!(意外と純)
少女の肩に手を置いて、引き剥がそうとする。
ぐいぐい。
ぐ、うぬ! 小柄の割に馬鹿力だな!
ドクン。
ジタバタともがいていると、俺の心臓が1度、大きく鼓動した。
……何だ?
ドクン。
唇を通じて、少女から何か得体の知れないチカラが流れ込んでくる。
ドクン。
異物感。
だが、気持ち悪いってことはない。
むしろ、気持ちいいけど……。
ドクン。
得体の知れないモノは怖い。
規格外の化物だってそれは同じだ。
そしてチカラが流れ込むのと同時に、俺の体の奥からもそれとは別の何かが溢れ出す。
心地よさが失われ、頭が割れるように痛み出した。
「……ッ!?」
――…………
――……ク……
――……ーク……
とおくで、ちかくで? だれかの、こえが――
俺は彼女を全力で引き剥がした。
「ぷはっ! はあはあ」
止めていた呼吸を再開する。
酸素が体を巡ると、頭痛と幻聴は幻のように消え去った。
「コラァ! いきなり何しやがる!」
「おお。言葉がわかるようになったのう」
少女がニコニコと笑いながら言った。
「……あれ? 何で?」
自分の口から、知らないはずの言語が紡がれる。
「うむ。何故かは、知らん!」
「知らんのかいっ!」
「知らんが、リュースケがわらわの魂の伴侶になったからじゃろうな」
なんかこの子、古風な話し方するな。
ってそれはどうでもよくて、魂の伴侶?
「何それ?」
「要するに、わらわとリュースケは運命の恋人じゃったということじゃ! わらわの事は、ニナと呼んでくれ!」
もうこの子何言ってんの?
興奮して跳びはねる少女、ニナをなだめすかして、詳しい話を聞く。
「つまり、お前、ニナと俺が、何かよくわかんないけど魂で繋がっているから、言葉がわかるようになったと?」
「そんな感じじゃ。多分」
多分て何だよ。
「わらわとて魂の伴侶を得たのは初めてじゃからのう。言葉の通じぬ相手と魂の契約を結ぶという前例も、聞いたことがないし」
本当にわからないようで、ニナもこてんと首を傾げている。
ふう。とんだ超常現象だ。
魂なんてもんがあるとは思わなかったが、さっき俺の中に流れ込んできた何かが、それ関係のものだったのか?
今も、腹の奥の方で熱いものが、ぐるぐるしてる感じがある。
しかしニナから入ってきたコレよりも。
体の底から湧き出した何か、異物感のようなもの。
あれも魂の契約とやらの副作用なのか……?
「まあ細かいことはいいや。言葉が通じるならいろいろ聞けるし。まず、ここはどこだ」
「白竜城の地下じゃ」
どこだよ。
「白竜城って? どこの城?」
ニナがびっくりした様子で、説明する。
「知らんのか? 竜の都ドラッケンレイにある、6つの城のうちの1つ。白竜王が治める白竜の城じゃ」
竜の都? ドラッケンレイ? 白竜?
これは、やはり……。
「なあ、日本って知ってる?」
「ニホン? いや、知らぬ。なんじゃそれは」
「俺の住んでた国なんだけど……。はあ。やっぱりか」
認めざるを得ない。
平穏な日常は終わりを告げた。
聞いたこともない言語体系。
魂の伴侶。竜の都。白竜。
本当に竜なのかは知らんけど、白竜王とかいうのもいるらしい。
このファンタジーっぽさは、おそらく、間違いない。
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