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第5話 挑むは黒竜の王子
白竜城の謁見の間は、騒然としていた。
まあ、当然っちゃ当然だが。
「異界からの客人。そなたがニナを賭けて、ゲオルグと決闘すると申すのか?」
ニナの親父、白竜王バルトロメウス・フォン・ヴァイス・ドラッケンレイは、俺の予想とは大分違っていた。
髭もじゃの、いかにも王様! って感じの人を想像していたんだが。
実際には、背中まで伸びるニナと同じ白金の髪、すらっとした長身、そして涼やかな美貌。下手したら、女と間違えそうだ。
それにしても、せいぜい20歳くらいにしか見えんぞ。
王様の問いに、俺は答える。
「ああ」
ざわざわ!
あ、つい敬語を忘れていた。
なんと不敬な! とか大臣っぽい人々が騒いでいる。
横の方に立っている、ゲオルグと思われる肌の浅黒いイケメンは、顔をしかめてこちらを睨んでいた。
王様はそんな彼らを、手を掲げて制す。
「そなたは、黒竜人か? それとも白竜人か?」
ニナにも似たようなことを聞かれた。
どうやら、俺の見た目は、そのどちらの特徴も合わせ持っているらしい。
「いや、人だ」
――なんだと! 馬鹿な! 死ぬ気か!
外野うるせぇ。
バルトロメウス王は外野と違い、あくまで優しく諭すよう言う。
俺この人嫌いじゃないなあ。
「人の身では、竜人には勝てまいぞ? 命を粗末にするものではない」
「その心配は無用じゃ!」
俺の隣で静かにしていたニナが、突然声を張り上げる。
「リュースケはわらわに勝つほどの実力を持っておる。人だと思って甘く見ると、痛い目を見るのはゲオルグのほうぞ」
ざわ!
あ、コラ。余計なこと言うなよ。
油断させときゃ楽に勝てたかもしれないのに。
いや、そんな「どうじゃ、言ってやったぞ!」みたいな顔でこっち見られても。
周りはそれを聞いて、ますます喧騒が増している。
――まさか、あの姫様を……。人の身でありながら……。化物か……。
言われてる、言われてる。
大臣共は気味悪がっているようだが、なんか兵士たちは俺に尊敬の眼差しを向けていた。
……苦労してるんだろうな。
「う、む。にわかには信じがたい話であるが……」
王様は迷っているようだ。
「いいではありませんか」
王様の隣に座っていた、王妃様が言った。
王妃の名前は、エルザ・フォン・ヴァイス・ドラッケンレイ。
ニナにそっくりだが、背は160センチくらいはある。
長い髪は頭の上で何回か折りたたみ、髪留めで留めていた。
というか、この国の大人はどうなってんだ。
全員若すぎる。この人も20歳くらいにしか見えない。
竜人の特性、なんだろうな。
「しきたりに従うなら、決闘を許可することに何ら問題はありません。ニナが良いと言っているのですから。人が挑んではならない、などという決まりもありませんしね」
話がわかるな、王妃様。美人だし。巨乳だし。
ニナがこっちを睨んでいる。ホント鋭いなあ……。
「しかしエルザ……」
王様はなおも渋る。
まあそりゃあなあ。
黒竜人との関係改善が目的の婚約に、まったく関係ない人間が割り込んできちゃあ、困るだろうよ。
だが俺の明るく楽しい未来のために、頷いてもらうしかない。
「わかりました。お受けしましょう」
これまで黙っていたゲオルグが、とうとう声を上げる。
「ここまで言われて引き下がっては、黒竜第2王子の名が廃るというもの」
「む、しかし、ゲオルグ殿下」
王様が喰い下がる。
「ご心配なく。勝っても負けても、国際問題にするつもりはありません。まあ、人が僕に勝てるとは、到底思えませんが」
フン、と鼻を鳴らして、こちらを見下すように見てくる。
あー。確かにこいつウザいわ。
小物っぽいけど。
「よろしい。では決闘場へ移りましょう」
「あの、エルザ? 王様は余なんだけど」
仕切り始める王妃に、王様が困ったように言う。
「見学も許可します。証人として必要ですからね」
王妃は王様を無視した。
王様はがっくりと肩を落としている。
王妃つえー! 王様よえー!
外から控えのスペースに流れ込む空気は、やや冷たい。
ドラッケンレイはかなり北に位置する国らしいからな。
日射しは、まだ明るい。明らかに昼間だ。
俺がこっちに飛ばされたとき、向こうでは夕方だったんだけど。
時差とかあるのかな。
場所は移って決闘場。
まさしく決闘場、コロシアムだな。
円形の広場と、周りには観客席。
観客席は超満員。
さすがに、第3王女の婚約者決定戦ともなれば、注目されるようだ。
「さて、行きますかね」
「頼んだぞ、リュースケ!」
ニナに頷いて、控えのスペースから中央へ進む。
正面の控えスペースから、ゲオルグも出てきた。
動きづらそうな、気障気障しい王子っぽい服のままだ。舐めとんのか。
あ、俺も学ランのままだけどね?
「降参するか、気を失うか、死んだら負けとします。竜化はしてもいいですが、ブレスは禁止です」
ゲオルグと向き合うと、審判をする精悍な顔つきの白竜人が、ルールを説明してくれた。
あ、やっぱ死ぬ事あるんだ……。
てか竜化って何? ブレス?
「心得た」
「あー……わかった……」
しぶしぶ了解すると、後方でニナが「気合いを入れろー!」とか叫んだ。
「ゲオルグ・フォン・シュヴァルツ・ドラッケンレイだ」
「リュウスケ・ホウリュウイン」
名乗られたので、名乗り返す。
「生きて帰れると、思うなよ」
なんか滅茶苦茶怒気を込めて睨んでくる。
すげえプレッシャーなんですけど……。
でも、楽しみだな。
今度こそ、本気の本気で、戦れそうだ。
「一瞬で、潰す」
おお怖。
「では、初め!」
ドォォォン!!!
開始直後、俺が寸前まで立っていた場所に、ゲオルグの拳が突き刺さった。
地面が陥没して、小さなクレーターができている。
「おおう! すげえな」
俺はその3メートル程横手に移動して、舞い上がる土埃を眺めていた。
「! 貴様……!」
躱されたことが腹立たしいのか、ゲオルグはますますその赤い瞳に憎悪を燃やす。
――……ワアアアア!
遅れて、歓声が響いた。
まさか本当に人間が竜人と戦れるとは、思ってなかったんだろう。
「ガァァァ!!」
ゲオルグは雄叫びを上げて突っ込んでくる。
確かに、ニナよりかなり速いし、強いな。
ゲオルグの右ストレートを横にいなし、追って来る左フックを、身体を後ろに倒して避ける。
「避けてばかりでは、勝てぬぞ!」
そりゃ、そうだな。
楽しいからもうちょい続けたかったんだけど。
軽くバックステップで距離をとった。
ゲオルグがまた馬鹿正直に突っ込んでくる。
「ガアア!」
竜人ってのは力が強い分、技を磨かないのかもな。
真っ直ぐ頭に伸びてくる右手を、身体を捻るように躱しつつ、ゲオルグの懐に入る。
同時に、その右腕を俺の両手で巻き込むように掴み、肩と背中でゲオルグを持ち上げるように浮かせる。
「そぉい!」
ズドォォォォン!!
いわゆる、一本背負い。
面白いように決まったな。
先程ゲオルグが作ったクレーターよりも、いくらか深い穴ができた。
背中で削岩する羽目になったゲオルグは、完全に意識を失っていた。
――シーン。
場内が静まり返る。
あれ? 何この空気?
「あのー。俺何かまずいことした?」
審判に尋ねる。
「あ、いや。…………しょ、勝者、リュースケ・ホウリューイン!!」
――ワアアアアアアアアアアアアア!!!!
「うおっ! びっくしたなーもう!」
審判が俺の勝利を宣言すると、黙っていた観衆が突然大歓声を上げた。
「リュースケー! よくやった!!」
俺は、跳びついてきたニナを、両手でがっしりと受け止めた。
「リュースケ! リュースケ! 信じておったぞー!」
ニナは俺の肩に、頭をぐりぐりと押し付ける。
よしよし、可愛いやつ。
頭を撫でてやると、嬉しそうに身じろぎした。
ヒューヒュー、と冷やかしの口笛が聞こえる。
人も竜人もこういうところは変わらんなあ。
「ぐ、はっ!」
大観衆の冷やかし中ニナの頭を撫でていると、目を覚ましたのかゲオルグが咳き込んだ。
身体をうつ伏せにし、手をついて立ち上がろうとしている。
「お、おい、大丈夫か?」
せっかく気を使って声を掛けてやったのに、ゲオルグは赤い瞳をギラギラさせて、俺を睨みつける。
「ぎ、貴様ぁ……よくも……恥を……!」
あれ!? 勝っても負けても恨みっこなしって話じゃなかったっけ!?
「ゆ、許さんぞぉぉぉァァァァアア!!」
叫びながら、ゲオルグの身体が一瞬にして巨大な黒い竜の姿に変貌した。
見た目は、日本とか中国っぽい細長い「龍」ではなく、西洋風の脚で立つタイプの「竜」、ドラゴンだ。
全長10メートルくらいか?
尻尾を抜いた頭胴長は、6メートルくらい。
「ギャァァァオオオウ!」
黒竜の叫びが俺の鼓膜を震わせる。
何か完全に我を失ってるっぽいなあ。
「あわわ……」
俺の腕の中で、ニナが若干びびっている。
「あれ? こいつの服はどうなってんの? 巨大化したんならそのへんでビリビリに破けてるはずじゃね?」
だが見当たらない。
「気にするところはそこじゃなかろうが!」
ニナの突っ込みももっともではあるが、気になったんだから仕方ないだろう。
「ガァァァァ!!」
黒竜ゲオルグが赤い瞳を爛々とさせ、鋭い牙の隙間から黒い靄みたいなモノを洩らしながら、こちらに突っ込んでくる。
人型でも竜型でも、猪突猛進なヤツだな……。
「お、おい! リュースケ! どうするんじゃ!」
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