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第44話 終わりと新たに、神、ひとはしら 後編
「っぐ、テ、メェ……!」
足の下から片翼の男が物凄い形相で睨みつけてくる。
「こえぇこえぇ」
言いながら、口の端を吊り上げた。
クッククク。コイツを踏みにじるのは気分がいい。
「竜輔殿……顔が悪役になっているぞ……」
おっと。
ナツメの指摘に、真顔へ戻す。
「がっ!」
男の、再生された右腕が俺の脚に伸びてきたので、頭を蹴りつけつつ距離をとった。
ゆらりと立ち上がった男は、目で殺さんとばかりに俺を睨みつける。
「バキュアァアァァアアッ!!」
気色悪い怪物が、狙いを俺に変えてきた。
軽くステップを踏む。
問題ない。体は動く。
片翼の男の言葉を聞く限り、この回復力はニナの魂の伴侶であるかららしい。
めちゃくちゃ空腹になっていることから、エネルギーはそれなりに消費するようだが。
迫る巨体を前に、そんなどうでもいい事を考える余裕があった。
あの男程でないにしろ、バキュアは軽んじていい速さじゃなかったが……なんか、見えた。
ヒョイ。
ドォン!
軽く躱す。
「こんな感じだったっけ?」
俺は男の初撃を思い浮かべる。
地を蹴ると、地面を食むバキュア――そんな格好良い名前似合わないから黒カバでいいや――に回し蹴りを叩き込んだ。
ぐにゅ、とも、ずむ、ともいえない、何とも不愉快な感触と共に、黒カバは吹っ飛んで転がった。
「気色悪っ」
鳥肌が立った。
「なっ……!」
男の驚愕の声。
「あの動きは……」
ナツメは理解したようである。
「?」
ニナは分かっていないようである。
「……チィ! 猿真似野郎がっ! バキュアに物理攻撃なんぞ……!」
むくり、と、黒カバは堪えた様子もなく短い脚で立ち上がる。
元が魔法なだけに、物理攻撃は効かないようだ
「ま……どれだけ動けるか試してるだけだから、いいけど」
「ほざけっ! 噛み殺せ、バキュアァッ!」
――ォォォォオオオオオン!!
大質量の接近。
轢かれただけで大怪我、ってか普通は死ぬだろうに、さらにあの牙は痛そうだ。
こちらからも駆ける。
瞬く間に彼我の距離はゼロに。俺は黒カバの下顎を全力で蹴り上げた。
ズドォッ!
巨体が、宙に舞う。
5メートルは浮き上がったソイツが落ちてくる前に俺も飛び、空中でのすれ違い様に踵落とし。
ッドォォン!
黒カバが地球にぶつかる轟音。……あ、ここ地球じゃないじゃん。
「っらあ!」
さらに体を捻って回転力を増し、体重と重力を加算して再度踵を打ち下ろす。
ガガァン!
地面が大きく抉られる。
半身以上を大地に埋めた黒カバの体から飛び降りた。
「うえぇ、なんか足裏がぬめぬめする……」
「な……ん……だと……」
男が呆然と呟いた。
「テメェ……さっきと全然動きが違うじゃねーか……!」
「勉強させてもらったからな」
効率の良い体の動かし方、筋肉の使い方、力の掛け方。
そんな事これまでまったく考えていなかったが、意識すると見えてくるものがあった。
特にナツメの動き。あれは良い。
いかに少ない労力で、最大の力を発揮するか。
非常に高いレベルでそれが追求されている……のだろう、多分。
柊流とか言ってたから、そういう剣術の流派なんだろうし。
俺のは単なる見よう見まねだが。今度ちゃんと教えてもらおう。
「……っ! 身体能力がいくら向上したところでっ!」
ぼろぼろとこびりついた雪と土を落としながら、黒カバが起き上がる。
やはり、ダメージは無いようだ。
あー……。黒カバは、もういいか。
「バキュアァ! さっさと、食い尽くせ!」
「なら、食べ比べといこうか」
ニヤリと笑う。
だいたい、気に喰わなかったんだ。
「! そうか! 魔法である以上、リュースケにとっては……!」
ニナが表情に喜色を浮かべる。
「出ろ、ヤミッ!」
ズォォ!
右手から、黒が迸る。
「!? ば、バキュアッ!」
――ォォォォオオオオオン!!
黒カバが大口を開けて、闇に喰らいつく。
ググッ……!
『摂食』と『暴食』の魔力が、僅かな間せめぎあう。
「魔法の効果、ちょっとかぶってんだよォォ!!」
均衡を破り、巨体を黒が包み込む。
そしてそのまま、摂食は暴食に呑まれて消滅した。
ヤミを消せば、その場には魔力の残滓も残らない。
「……は?」
何が起きたか分からない、といった様子で、片翼の男の動きが止まる。
「な……は? 馬鹿な。バキュアは単なる魔法じゃねぇ。神力も込められてんだぞ? それを、マジックキャンセル? いや、違うか? ……どちらにせよ『増幅』の魔法陣もなしにこんなぶっ飛んだ魔法……それこそ十天神クラス……あり得ねぇ。そんなハズは……!」
ぶつぶつ呟く男は、ぶっちゃけ、かなり隙だらけだった。
「ていっ」
「うおっ!」
本日2度目の目潰しを試みたが、寸前で躱されてしまった。
「クソッ! 舐めるなァ!」
ブン!
男の蹴りを、バックステップで避ける。
「このオレが――」
ガツッ。
何かを言おうとした男の即頭部に、飛来した何かがぶつかった。
足元に落ちたそれは、矢。
振り向けば、次の矢を番える、ラティの姿がそこにあった。
「……ベラール族だと……?」
怒りよりも、疑念が大半を占める顔で、男がラティの頭部……耳を見る。
「さすがです。リュースケさん。経緯はわかりませんが、追い詰めたんですね」
ラティが喋ったことで、俺は思考が止まっていたことに気づいた。
「ばっ……何来てんだアホー!」
「ラティが来てしまっては、ダメだろうっ!」
「何で大人しく待っておれんのじゃっ!」
「……ふう」
みんなで怒鳴りつける。エレメンツィアは溜息をついた。
「はわっ! ご、ごめんなさい! で、でもやっぱり私だけ安全なところで待ってるなんて――」
「そういう、事か。コイツらは、ベラールの差し金か」
男が疑念を払拭し、怒りに表情を歪めていく。
「バレたじゃねーか! この、アホっ! 超アホ!」
「うう、ごめんなさい……」
「何、構わないさ」
どこからか、次の阿呆の声が聞こえてきた。
木陰から出てきたのは、ナラシンハ。
そしてその後ろから、弓や短剣で武装したベラール族が続々と姿を現す。
「お、お父さん!?」
「やあ、ラティ。来ちゃった」
ナラシンハは、てへ、と可愛らしく舌を出す。
「来ちゃった、じゃねぇーっ! もうホント、お前ら何してんのっ!?」
頭を抱える。
「泣き寝入りは、もう止めだ。娘を守る、だたそれだけの事が、馬鹿な事だと言われるのなら、それも構わない。僕らも、馬鹿になる事にしたよ」
ナラシンハが右手を上げて背後に合図を送る。
獣人たちが一様に頷きあって武器を構えた。
「み、みんな……!」
ラティの目尻に、涙が溜まる。
……ハァー……まあいいか。
「こうなったらまあ、しょうがないわな」
男は腕からの出血ですでにかなり弱っている。
彼らでも十分にやれるはずだ
通りすがりの旅人に救われるよりも、自分たちの力で悪習を断ち切った方が、後々のためにはいいだろうし。
「く、クソ、クソ、クソが……! テメェら、調子に乗りやがって……!」
男に当初のような余裕は見られない。
元々かなり小物臭がしたが、ここにきてそれが完全に表面化していた。
「ふっふっふ。リュースケの伝説に、神殺しという新たな1ページが書き込まれるなっ!」
いつの間にやらエレメンツィア(鎌に戻っている)を握って、ニナが近くまでやってきていた。
形勢がこちらに傾いたので、強気である。
「今回は俺より、ナツメが頑張ったろ。『神斬り』のナツメと呼んでやろう」
「むむ。『神斬り』か……ふむ、悪くない」
ナツメは満足げに頷いていた。
「よし。行くぞ! ベラールの戦士達! 今こそ――」
ナラシンハの言葉が、不自然に途切れる。
「ん? どうした……ん……」
――唐突に、世界から色が失われた。
いや、それは正確ではない。厳密には、世界がおよそ2色になっていた。
――白と黒。総じて、灰色の世界。
俺以外のほぼ全てが、人も、モノも、その動きを完全に止めていた。
「なんだ、こりゃ……」
ニナはエレメンツィアを構えたまま。
ナツメは満足そうに頷いたまま。
ラティは涙ぐんだまま。
ナラシンハは味方を鼓舞しようと、握りこぶしを振り上げたまま。
獣人たちは武器をその手にとったまま。
ピタリと、灰色の世界で静止していた。
この状況を一言で表すなら、そう。
――時間が、止まっていた。
「どうなってんだ」
俺以外で唯一色を持ち、時間が止まっていないヤツ――片翼の男に問いかける。
「まさか……フォルトゥナ……か……」
「はあ? フォルトゥナ?」
男が愕然とした様子で呟くが、聞き覚えのない単語(名前か?)に首を傾げる。
「はい」
「うおぅ!」
背後から聞こえた美声に、思わず妙な叫び声を上げてしまう。
振り返ればそこに……美女がいた。
思わず、息を呑む。
神々しい、とはこの事か。
銀色に輝く髪は、地面につきそうなくらいに長く、灰色の世界でも艶やかに輝いていた。
目が合うと、心の底まで覗き込まれたような不思議な気分になる。底の見えない、銀の瞳。
西洋風の掘りの深い顔つき。鼻が高いのは羨ましかった。
目線の高さは、俺と同じだ。つまり、女性にしてはかなり背が高い。
体つきは誠に女性らしくてよろしい。出るところが出て、引っ込むところは引っ込んでいる。
なんかインドとかそっちの方を連想させるヒラヒラした薄い服装に、寒くないのかと少々的外れな心配をしてしまう。
まあそんな事より何よりも。
つい後回しにしてしまったが。
彼女の背には、立派な黒い翼が1対、生え揃っている。
つまりは――
「私は十天神の一柱、運命神フォルトゥナと申します。以後、お見知り置きを」
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