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(06/03)
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ネット小説とか書いてます。竜†婿は「小説家になろう」でも公開中です。
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第22話 初めてのパーティと波瀾の予感

「さっきのは俺の魔法だ」
 
 武器屋からギルドへの途上、俺はラティとナツメにヤミについて話し始めた。
 あまり人に知られたくない魔法だが、彼女らには話してもいいだろう。
 
「魔法だと? 竜輔殿は魔法使いだったのか?」
 
「ってわけでもないけど。ちょっと前に覚えた」
 
「覚えたって……」
 
 ラティが妙な顔をしたので聞いてみると。
 
 魔法とは本来、魔力と属性を自覚してから使えるようになるまで、だいたい3年くらいはかかるのだとか。
 しかもそれは、あくまで発動できるというレベルに達するまでの話で、使いこなすにはさらに4年は鍛練を積むらしい。
 
「……そうなのか。俺の先生はそんなことまったく言っていなかったが」
 
「というか、使えて当たり前みたいな顔しとったのう」
 
 あんな指導でも優秀な先生だったんだろうか。
 ……それはないか……。
 
「滅茶苦茶な……。お主の先生とやらは、一体どういう人物なのだ」
 
「キルシマイアだけど」
 
「キルシマイアさん、ですか? どこかで聞いたような……?」
 
「拙者も、何度か耳にした記憶がある」
 
 首を傾げる2人。
 有名過ぎて逆に思い出せない、というか選択肢に入らないんだろうな。
 
「知らぬはずなかろう。リュースケの魔法の師匠はヴァルハラの姫巫女、キルシマイアじゃぞ」
 
「「……ああ! ってええええ!?」」
 
息が合っているな。
 
「りゅ、リュースケさんって一体何者なんですか?」
 
「何者と言われてもな……」
 
「ふふふ。ますます手合わせしたくなった」
 
「勘弁してくれ。俺の魔法じゃ、サムライ相手には目くらましくらいにしかならないぞ」
 
「あ、そういえば。どういう効果なんですか? 呪いを解く魔法、にしてはむしろ呪い寄りな印象を受けましたが」
 
 呪い寄りて……。まあ否定できないのが悲しいけど。
 
「まさかここまで来て隠しはすまいな?」
 
「仲間に隠し事なんてちょっとしかしないさ」
 
「ちょっとはするんですね……」
 
「俺の魔法属性は『暴食』。あの黒いモノ、俺はヤミと呼んでいるが、アレに触れた魔力・魔法を全て俺の魔力に変換する。あ、あと呪いも」
 
 恐らく呪いも、魔力から起こる現象のひとつなのだろう。
 
「う、むう。なんとなく予想はしていたが、改めて聞くととんでもない魔法だな。拙者は魔力がないから、羨ましいぞ」
 
「そうじゃろう、そうじゃろう」
 
「何故お前が威張る。お前も魔力ないだろ」
 
「リュースケさん……味方でも怖ろしいけど、絶対に敵にまわしたくない人ですね……」
 
「味方でも怖ろしいんかい」
 
 無理ないけど(アイアンクローとか首筋チョップが脳裏をよぎる)。
 
 だがナツメの純粋な感嘆と、ラティのおどけた様子に、少なからず安堵を覚えている自分がいた。
 気にしていないつもりでも、やはり過ぎた力から化物呼ばわりされたトラウマは消えていない、か。
 
「ん? リュースケ、どうかしたか?」
 
「いや。何でもない」
 
「あ。あれがギルドですよ」
 
 ラティが指し示したまだ遠いギルドの建物に、俺たちは歩みを進めていった。
 

 
 ギルドの入り口をくぐると、俺たちに奇異の視線が突き刺さる。
 
 黒竜人2人に白竜人(+獣人)、という世にも珍しいパーティに見えているのだろう。
 実際は異世界人とジパング人が混ざっているから、それ以上に珍しいんだけどな。
 
 ニナの外見にそぐわない禍々しい大鎌と、ナツメが腰に差す大振りな太刀も注目の一因だ。
 
「では拙者は依頼を受けてくる」
 
「ああ。俺たちはそこのテーブルにいるぞ」
 
 全員がナツメに冒険者証を預け、代表としてナツメが受付の前の列に並ぶ。
 空いていたテーブルに3人で座ると、先程からこちらを観察していたガラの悪い男たちが近寄って来た。
 
「白竜人のお嬢ちゃん。カッコイイ武器持ってるねおごぶぅ!?」
 
 俺はニナの肩に手をかけようとした男に、座ったまま裏拳をぶち込んだ。
 
「てめ、何しやがぼべはぁ!?」
 
 立ち上がり、別の男に蹴りをくれる。
 
「お、おいぎゃべぶ!」
 
 最後の1人を地に沈めると、俺は再び席に座った。
 
「う、うわー……リュースケさん。容赦なしですね……」
 
 ラティが引きつった笑顔で言った。
 ニナは彼女から見て背後での事だったので、わけが分からずきょとんとしている。
 
「どうせこの手の輩とは最終的に喧嘩になるんだ。手順を踏んでやる必要はないだろ」
 
 それとニナに触れようとしたから腹が立った、というのは恥ずかしいから言わないでおく。
 
 様子を窺っていた他の連中への、牽制の意味もあったがな。
 そいつらに目線をやると、全員がサッと目を逸らした。
 が、1人。無表情にこちらを見ている女性と目が合う。
 
 ――ゾク。
 
 あ、やばいわこの人。
 俺の方から目を逸らした。泣きぼくろの美しい絶世の美女だが、絶対に関わらないほうが良い。
 厄介事センサーが全力稼働中。
 
「待たせた……と、何だこいつらは」
 
 依頼を受けて戻ってきたナツメが、床に転がる男たちを見る。
 
「気にするな。行こう」
 
 俺は急かすようにみんなを連れて、ギルドから――あの女性から撤退した。
 

 
 出立の準備とか昼食とかを終えて。
 俺たちは依頼を達成するべく、一路トイフェル山へと向かっていた。
徒歩でもラトーニュを出てから1時間くらいで着くらしく、馬車は利用していない。
 
「……すまん。もう1度言ってもらえるか」
 
 おかしくなったかな、俺の耳。
 
「? だから、盗賊団の首領は全身黒ずくめで、竜の翼を模した面を――」
 
「もういい」
 
 ナツメに手のひらを突き出して、やめてのジェスチャー。そして眉間を揉む。
 まさか、アイツか?
 
「あ、あとですね。倒したと思ったら敵が消えて、後ろから攻撃されたとの情報が」
 
「あいわかった。そいつ怪盗シュピーゲル」
 
 ラティの補足で完全に確信。
 
 何コレ。到着を前にすでに茶番な事が決定したんですけど。
 いやまああいつ蒼竜人だし? それなりに強くはあったからそこらの冒険者じゃ歯が立たなかったんだろうけどさあ。
 
「怪盗シュピーゲル? 確かリュースケが蒼竜城の城下町で捕まえたとかいう泥棒じゃったか?」
 
「うん。それ。きっと脱獄とかして逃げてきたんだろうな」
 
「何と……」
 
 ナツメが驚くと同時に、落胆しているのが目に見えてわかった。
 
「敵が消えるってのは、アイツが持ってる水の魔宝石とかいうアイテムの効果。俺が捕まえた時は、水で自分そっくりの人形を創り出してた。違和感なく動くし、声も発する」
 
「へぇー。それが本当なら、かなり高価なマジックアイテムですね」
 
「すでに竜輔殿が倒した相手であったとは。ならば今回の依頼、さほどの苦労もしそうにないな」
 
 本当に残念そうなナツメの様子に、苦笑が浮かぶ。
 
「いいことだろう。それは。まあ盗賊団ってのが何人いてどういう奴らなのかイマイチわからんから、油断はできないが。あとその首領は、ナツメ。お前に譲る。蒼竜人だからそこそこ強いぞ」
 
「ほう、そうか」
 
 一転、好戦的な笑みを浮かべるナツメ。
 
「私は……接近戦は苦手なので、遠くから援護しますね」
 
 そう言ってラティが掲げるのは、弓。背には矢筒のようなものを背負っている。先程昼食で宿に寄った時に彼女が部屋から持ってきた。
 ラティの種族であるベラール族は、弓矢を使う狩猟民族なのだそうだ。
 離れて観察できるのなら、俺が教えなくても水人形のトリックを見破れたかもしれない。
 
「ふっふっふ。エレメンツィアの初陣じゃな」
 
「誰だよ。エレメンツィアって」
 
「こやつじゃ」
 
 ブラッディサイスを胸の前に掲げるニナ。
 名前付けたのね。
 まあブラッディサイスよりはいいと思う。
 
「そろそろ山道の入り口のはずです」
 
 ラティが地図を見ながら言った。
 
 正面に見えるのは、山といっても大した高さの山ではない。
 せいぜい、〇び太の学校の裏山程度だろう。
 木々が生い茂っているので、視界は悪そうだ。
 
「あそこではないか?」
 
「あ、そうですそうです」
 
 ナツメが指差したところに、草木を切り拓いて作られたそれなりに広い山道の入り口があった。
 
「おお。では行くぞ!」
 
 ダッと駆け出すニナ。
 
「ニナ殿! 1人で先行しては危険だぞ!」
 
 慌ててナツメが後を追って行った。
 
「あはは……。私たちも行きましょう」
 
「ああ」
 
 ラティに促され、俺も走りだそうとしたその時。
 
 …………?
 
 僅かな違和感を覚え、俺は振り返って歩いてきた道を、町の方角を見やる。
 
「……」
 
 踏みならされた、という程度の荒い道とまばらな草木。ちらほらと転がる大小の岩石。
 何かがおかしい。
 だが、何がおかしいのかわからない。一見、異常はないように思われる。
 強いて言うなら、「空気」とか「気配」とか、そういう曖昧な何かが。
 
「どうしました?」
 
「……ラティ。この辺り、何か違和感がないか?」
 
「え?」
 
 問われ、周囲を見まわし、そういえばと考え込むラティ。
 
「あ……」
 
 ハッとしたように顔を上げた。
 
「魔物が1体もいない……? ここは魔国との隣接地帯ですから、このくらいの道程でも何度か遭遇するのが自然です。それに魔物どころか鳥も動物も……途中からまったく見た記憶がありません」
 
「……そうか」
 
 言われて、納得した。
 この周辺、およそ生物の気配がなさすぎる。
 
 それが何を意味するのかはわからないが……。
 
「どういうことでしょう?」
 
「さあな。だがもしかしたら、楽な仕事とはいかないかもしれん」
 
 俺の呟きに、ラティがごくりと生唾を飲み込んだ。
 
「おおーい! 何しとるんじゃ! はやくこんかー!」
 
 山道の入り口で、ナツメに襟首を掴まれたニナがエレメンツィアを振りまわして叫んでいる。
 
「今行く! 絶対に1人になるなよ!」
 
 ニナはきょとんとしてから、嬉しそうに、わかったー! と返事を返した。
 
ラティに頷きかけて、ニナたちの方へ2人で走り出す。
 
 今回の仕事が、茶番で終わりますように。
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