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(06/03)
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雪見 夜昼
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ネット小説とか書いてます。竜†婿は「小説家になろう」でも公開中です。
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第17話 暴食の魔法

 グオオオオオ!
 
 身の毛がよだつ低音の(たけ)りが、ビリビリと大気を震わせる。
 ガルムは力強く大地を蹴った。
その双眸が捉える獲物は、キルシマイア。
 魔法の杖を取り出していたキルシマイアだが、全身筋肉の塊が生み出す驚異の速度に、まったく反応できていない。
 
「ちっ!」
 
 俺はガルムとほぼ同時に動く。
 全身全霊、全力全開。砕けろ俺の拳とばかりに、あらん限りの力でキルシマイアに迫る魔狼の側頭部をぶん殴る。
 
「だあああああ!!」
 
 ゴガァァァァン!! バキバキバキ!
 
 生物を打ったとは思えない硬質な衝突音が響く。
 僅かに突進の軌道を逸らされたガルムは、キルシマイアを掠めて背後の巨木を薙ぎ倒した。
 
「い、いってぇぇぇ!!」
 
 あまりの痛みに涙目で跳ねまわる。
 折れてはいないが血が滲み、殴った衝撃で麻痺した右手はしばらく使えないだろう。
 
 ガルムは思いっきり突っ込んで痛かったのか、頭をブルブルと振っている。
 
「キルシマイアー!」
 
 今のうちにさっさと転移してくれ!
 こいつ無理! マジ硬い! 肉弾戦で倒せる相手じゃねぇよ!
 
 スッ。
 
 おいキルシマイア。何故目を逸らす。
 
「すみません……転移は連続使用できないので、あと5分程……」
 
 ヲーイ! ざけんな! 
 
「じゃあこいつの弱点は!?」
 
「巨大な体躯と鋭い爪牙による攻撃力、いえ破壊力。産まれ持った魔力が無意識に創り出す魔法防壁。死角はありません……」
 
 ちょ、イヌ科の分際で魔法防壁とか!
 アホみたいに硬かったのはそれかよ……。
 
 復帰したガルムは、その瞳に憤怒を宿して俺を睨みつける。
 
 ですよねー。そりゃ怒りますよねー。
 
 ガシッ。ぽいっ。
 
「むぎゅ!」
 
 ガタガタ震えて役に立たないニナを、離れたところに放り捨てる。
 
「3分だ! それ以上は持たん!」
 
「! は、はい!」
 
 キルシマイアはニナに駆け寄る。
 杖を胸の前に掲げて、瞳を閉じた。
 よくわからないが、集中しているのだろう。
 
 グルアアア!!
 
 ガルムは怒り狂って俺に躍り掛かる。
 咄嗟に右へ転がるように躱した。
 
 ガチン!
 
 直前まで俺がいた空間が、ガルムの牙に噛みつぶされる。
 俺は体勢を立て直すが、ガルムの追撃が速かった。
 振るわれた右前脚を、両腕を交差して受け止める。
 
 ドガッ!
 
 凄まじい衝撃に視界がブレたかと思うと、次の瞬間背後からの衝撃に肺の中身を噴出した。
 
「がっはっ!」
 
 気づけばガルムから数メートル離れている。
 どうやら吹き飛ばされて木の幹に叩き付けられたらしい。
 単純な力で劣っているわけではないが、質量の差は如何ともしがたい。
 
 とか考えてる間に、ガルムは目前まで迫っていた。
 
「っ! 舐めんなああ!」
 
 ズガン!
 
 激突の勢いで、背が幹にめり込んだ気がした。
 ガルムの前足をそれぞれ両腕で。ガルムの顎を右足で蹴りあげるように。
 奇跡のようなバランスで力が拮抗する。
 
 これは……。
 
 触れているようで、触れていない。
 ガルムの体の表面に、硬質な「壁」が確かにあった。不可視の鉄で覆われているかのようだ。
 せいぜい1ミリ程度の厚さだが、底なしに分厚く感じる。
 
 ギシ、ギシ。
 
 ガルムを喰いとめる俺の全身と背後の樹木、特に右手が悲鳴を上げ始めた。
 
「ぐっ……!」
 
 俺はかかる力を背後に受け流し、側面へと無様に転がり出る。
 
 バキバキ!
 
 また、1本の木が犠牲になった。
 悪いが、自然環境を考慮する余裕はない。
 
「ぜぇ、ぜぇ」
 
 まだか、キルシマイア!
 一瞬ガルムから目を離し視線を向ければ、キルシマイアは先程と同じ姿勢で、顎から汗を滴らせている。
 
 速く……!
 
正直、もう次は受けきれる自信がない。
 
 グルルル……。
 
 ガルムがゆっくりとこちらに向き直る。
 
 やっべー。クソが。足がガクガクしやがる。
 びびってるわけじゃない。単に疲労でいうことを聞かないだけだ。
 
 手詰まり。お手上げ。打つ手なし。
 
 ……ただ1つを除いては。
 不確かなモノに縋るのは好きじゃないんだが、殺される前に試す価値はあるだろう。
 
「これでも、喰らえっ……!」
 
 ガルムに向けた俺の右手から、闇が迸る。
 闇がガルムを覆い尽くす寸前、奴は一瞬この黒いモノを嫌がるようなそぶりを見せた。
 
 いけるのか……?
 
 ガルムをすっぽり闇が覆ったところで、右手から切り離す。
 
 …………………………。
 
 出てくる気配は――。
 
 パキ。
 
 ありました。
 
 地面に散らばる枝や木片を踏みしめながら、ガルムがその面を闇の中から現出させた。
 
 ガルァアアア!
 
 三度、涎を撒き散らしながらガルムが俺に飛びかかる。
 
 オワタ。
 
 って諦めるかああ!
 俺は上半身を背後に倒して襲いかかる牙を躱しながら、全身のバネを使って直上のガルムの首に回し蹴りを叩き込んだ。
 
 ドゴォ!
 
 俺の脚はガルムの首の肉に深々と沈み込む(・・・・・・・)
 足を振りきると、その巨躯が吹き飛んで地面をごろごろと転がった。
 
「……あれ?」
 
 ガルムはよろよろと立ち上がる。
弱々しく俺を見て、耳をパタリと倒し、尻尾をだらんと下げる。
 
 何だ……? 怯えている……?
 
 そして魔狼ガルムは俺に近寄ると、ごろんと仰向けになって腹を見せた。
 

 
 魔狼ガルムは、自分の縄張りに人種(ひとしゅ)の臭いを嗅ぎ取った。
 
 侵入者を八つ裂きにしてその肉にありつこうと、臭いを辿って3匹のヒトを発見する。
 ヒトを狩るのは難しくはない。
 その脆弱な肉体は容易に噛みちぎることができるし、奴らの非力な攻撃など、自分の肉体に傷ひとつ負わせることはない。
 
 いや、ヒトに限らず、これまで彼の肉体を傷つけられた者など、まったく存在しなかった。
 
 そしてヒトの雄との戦いになる。
 今回の獲物は、ヒトにしては生きが良いようだが、それでも自分の敵ではない、とガルムは思う。
 追い詰めて、彼の直感では、次の一撃で決まるはずであった。
 
 そこでヒトの雄は、奇妙な黒いモノを吐き出してきた。
 突然の奇行に、ガルムはソレを躱すことができない。
 ソレが体に触れても、痛くも痒くもなかったが、触れた部分が妙にひんやりとする気がして、不快であった。
 
 それは、ガルムが産まれてからこれまで、常にその肉体を覆っていた魔法防壁の消滅を意味していた。
しかし無意識にそれを展開していたガルムは、そんなことには気が付かない。
 
 黒いモノを振り払うようにソレから脱出したガルムは、予定通り最後の一撃をヒトの雄に見舞うべく飛びかかった。
 
 そして、衝撃が彼を襲う。
 気づけば地面を転がされており、ガルムは自分の首にはしる未知なる感覚に恐れ慄く。
 それは「痛み」。
 生まれてこの方魔法防壁に守られ続けてきたガルムにとって、それは初めて感じる本格的な「痛み」であった。
 
 彼はその感覚をもたらしたこのヒトの雄に、恐れ、否、畏れを抱く。
 
 初めて遭遇した、自分に「死」を与える可能性のある存在に、森の王者は敗北を認めた。
 

 
 俺はひとしきりガルムを撫で回して親睦を深めた。
 そしてガルムが森の奥に帰るのを見送ってから、キルシマイアと、腰を抜かしているニナに歩み寄る。
 
「おい」
 
「す、すみません! あと20秒程で……!」
 
「いや、もういいから」
 
「……はい?」
 
 キルシマイアは閉じていた両目を開いた。
 
「え? あれ? ガルムは?」
 
 不思議そうにきょろきょろと周囲を見回すキルシマイア。
 
「や、やりおった……」
 
 一部始終を見ていたニナが、ごくりと生唾を飲み込んで、恐るおそるといった様子で口を開いた。
 
「ガルムを……災害級の魔物を、屈服させおったわ!」
 
 ニナは満面の笑みを浮かべて、俺に抱きついてきた。
 
「ぐはっ」
 
 すでに足腰が限界にきていた俺は、成すすべもなく地面に押し倒された。
 
「いてーよ! ちょっと労わってくれよ!」
 
「凄いぞリュースケ!」
 
 ニナは聞く耳持たず、俺の胸にグリグリと頭を擦り付けていた。
 
 やれやれ。
 
 俺はニナの頭を、なんとか動く左手で撫でた。
 
「ああ……お前の、魂の伴侶だからな」
 
 にっ、と歯を見せてやれば、ニナも同じように笑顔を見せた。
 
 茫然としていたキルシマイアが状況を把握して、今度は愕然とし始めた。
 
「そんな……単身でオーバーSランクの魔物を……? 信じられません……」
 
「いやそんな信じられない魔物がいる場所に転移する、お前の方が信じられねぇよ」
 
 俺のつっこみに、キルシマイアは頬を染めた。
 
「申し訳ありませんでした……。しかし一体、どうやって?」
 
「魔法を使った」
 
 俺はニナを抱えながら、なんとか上半身を起こす。
 
「と、おっしゃいますと、『暴食』の魔法ですか?」
 
「ああ」
 
「それなんじゃが、わらわは見ていてもよくわからんかった。特に効いているようには見えんかったぞ。効果があったのか?」
 
 ニナが首を傾げて尋ねてくる。
 
「多分な。知識不足で、確信を持つには至っていないが」
 
「災害級の魔物を退ける『暴食』の魔法……。どのような力を持っているのです?」
 
「それについてはキルシマイアの意見も聞きたいんだが……とりあえず、戻らないか? 腹が減って力が出ない……」
 
 ハッとしたようにキルシマイアは頷いて、魔法の杖を振るった。
 魔法陣が展開し、周囲が光に包まれる。
 
 あー……しんどかった……。
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