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(06/03)
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ネット小説とか書いてます。竜†婿は「小説家になろう」でも公開中です。
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第41話 黒き神

「そうと決まれば、早速――」
 
「待てい」
 
 椅子から立ち上がろうとするナツメを止める。
 
「む。竜輔殿、何故止める」
 
「バカたれ。何の策もなく飛び出すヤツがあるか」
 
「善は急げと言うではないか」
 
「急がば回れ、だ、ナツメ」
 
 不満気なナツメを押しとどめて、俺はナラシンハと顔を見合わせる。
 ナラシンハは悔しげに……あるいは申し訳なさげに、顔を歪めた。
 
「……わかっていると思うが、ベラールから戦力は出せんぞ」
 
「ああ」
 
「? どういうことじゃ? 倒すなら、できるだけ大勢のほうがよかろう」
 
 首を傾げるニナ。
 
「リスク管理だよ、リスク管理」
 
 神を殺す、などと言ってはみせたものの。
 勝算は、はっきり言って現時点では無きに等しい。
 相手の情報がほとんど何もないのだから、勝てるとか負けるとか、判断できる段階にすらない。
 
 むざむざ負けるつもりもないが、テンションに任せて楽観視はできまい。
 負けた時――死んだ時の事も、考えないとな。
 
「俺たちは、ベラール族とは一切関係ないただの旅人。おーけー?」
 
「……そういう事か」
 
 理解して頷くナツメ。
 
 「ベラール族が刃向かった」のでなければ、ベラールに被害が及ばない可能性もある。
 実際にはバレるかもしれないが、向こうにとってベラールは恰好の獲物。
 表向き逆らわなければ、恐らく全滅の憂目にあうことはない……かもしれない。
 
 神ってのがどういう存在かわからんから、イマイチ読み切れないけど。
 
 ただ、神がナラシンハたちの言うような絶対の存在だとすれば。
 
 20年に1度の生贄。
 
なんて、面倒な手順を踏むか?
 
 そこには、きっと何かしらの意味がある。
 少なくとも、村を滅ぼすことが本意ではないはずだ。
 
「だが、拙者らに敗北は許されん」
 
「気持ちとしてはそうだけどな。現実ってもんを見ないと」
 
「むむむ……」
 
 ナツメは理解はできても、納得はできないようだ。
 ナツメはそれでいい。それでこそナツメ。
 
「というわけだから、ラティは留守番な」
 
「えっ……。そ、そんな! 私のために戦ってくれるのに、私だけ留守番なんて!」
 
「駄目だ。俺たちが行くだけでも、ベラールにとって相当ヤバイ橋渡るんだからな。まさか生贄そのものが行くわけにゃいかんだろ」
 
「うう……」
 
 悔しげに俯くラティ。
 
「……」
 
 ナラシンハは無言でラティを見つめる。
 その拳は強く握り過ぎて真っ白だ。
 
 ナラシンハとて、本当は全てを投げ出してもラティを助けたいのだろう。
 が、こいつはこいつで、「族長」としての役割を果たそうとしている。
 誰に非難できることでもない。
 
「で、その『堕ちた神』とやらの情報は?」
 
「……神とは、知っての通り天空大陸アスガルドにおわす方々だ。堕ちた神とは、そこから何らかの理由で追放された者の事を指す」
 
 すらすらと、ナラシンハの口から説明が零れ落ちる。
 ナラシンハなりに、調べた結果だろう。
 
「何らかの理由、とは何じゃ?」
 
 ニナの純粋な質問。
 
「詳しくは僕も知らない。だが、想像はできる。何しろ、ヤツは人を喰う」
 
 まあ、そりゃ、人を喰うような神は問題だわな。崇拝の対象としては。
 悪魔信仰でもあるまいに。
 
「はるか昔の文献に、僅かに書かれた情報を、大金をかけて翻訳して、分かったことはこれだけだ。追放されても、神は神。それ以外の情報は何もない」
 
「……そうか」
 
 結局、何も分からないのと同じだった。
 まあ、しゃーないな。
 
 ……どうでもいいが、俺はこちらの神が本格的に嫌いになった。
 厄介者を地上に丸投げするような無責任な種族、好きになれるわけもない。
 
「神そのものについては兎も角、ベラールと無関係、という主張は、おそらく通るだろう」
 
「ほー。何でだ?」
 
「人の口に、戸は立てられん。ヤツは自分の存在を外に洩らせば殺す、と言っているが、それでも僅かなり情報は漏れる。『テオトル山に怪物がいる』という程度にはな」
 
 故に、ごく稀にだが怪物退治に訪れる腕自慢もいるのだ、とナラシンハ。
 ……当然誰一人、帰還は果たせなかったらしいが。
 
「その程度はヤツも黙認している。だから――」
 
 だから、負けた時のことは気にするな。
 とも言えず、言葉を止めるナラシンハ。
 
「それを聞いて安心したぜ」
 
 それから、ソイツがいるという場所やそこへの道筋、要求されてから1日以内に生贄を捧げねばならないという時間制限の事を聞いた。
 
 ならばすぐにでも行かねばなるまい。
 
「じゃ、行くか」
 
 椅子から立ち上がり、部屋の出口に向かう。
 それにニナとナツメが続く。
 ……いつもより1人分少ない足音に違和感を覚えるあたり、俺は相当こいつらを気に入ってるってことかね。
 
「あの!」
 
 扉に手を掛けたところで、ラティが俺たちを呼びとめた。
 
「……私、酷い女ですよね。神から救って欲しい、なんて、みんなに死ねって言ってるようなもの。それはわかってるのに……」
 
「俯くな、ラティ」
 
 下を向くラティに、ナツメが力強い声を掛ける。
 
「心配せずとも、拙者は、いや、拙者たちは負けない。友情に掛けて勝利を誓う。……だいたい、拙者やニナ殿はともかく」
 
 チラリ。
 
 ん?
 
 ナツメが俺を、横目に見た。
 
「竜輔殿が負けるところなど、想像できるか?」
 
 涙に赤くなった目を丸くして、ラティはぱちぱちと数回まばたき。
 
「……できませんね」
 
「だろう?」
 
「当然じゃ。リュースケに勝てるヤツなど、神を含めて、おるはずがない」
 
 ふふふ。と笑みを交わす3人の乙女たち。
 おいおい。
 だがまあ……。
 
「買い被りすぎ、とは、今回ばかりは言うわけにいかないか。ま、やるだけやるさ」
 
 俺は肩をすくめて言った。
 
 深々と頭を下げるアミーシャさんと、複雑そうな表情を浮かべるナラシンハ、そして我らの友人に見送られて。
 俺たちは、テオトル山へと挑んでいった。
 

 
 森、と言ってもいいくらい、木々が密集した山道。
 だが色の印象は「緑」ではない。
 「白」だ。
 
「……寒いぞ、リュースケ……」
 
「白竜人だろお前は。我慢しろ」
 
「……心頭滅却、心頭滅却」
 
 弱音を吐くニナと、明らかにやせ我慢しているナツメ。
 
 堕ちた神とやらの元に辿り着く前に、雪山登山という壁が俺たちの前に立ち塞がった。
 
 いや、雪山と言っても大したことないんだけどね。晴れてるし。
雪はせいぜい10cm程度しか積ってない。
気温もまあ……0度前後じゃなかろうか?
 
 それでも、基本的に温暖なミッドガルド大陸を渡り歩いて来たナツメにとっては……割と辛いようだ。
まともな防寒着も着ていないしな。
 
 ニナは寒い地域で育ったといっても、箱入りのお姫様だからなあ。
 
 俺は、暑いのも寒いのも平気だ。
 さすがにこの気温で薄着だと、ちょっと寒いなーとは思うけど。
 
 バサリ。
 
 木々に積もった雪が、時折音を立てて地面に落ちる。
 こういった景観や音も、精神的に寒さを助長させていた。
 
「しかし……これはやはり……」
 
 ナツメが見ているのは、俺たちの前に続く、雪に残った1人分の足跡。
 
「神、であろうか?」
 
 警戒を強めるナツメだが、俺は否定を返す。
 
「いや。だとすれば、山道を下る足跡がついてないとおかしいな」
 
 眼前には、登ってゆく足跡が続くのみ。
 
「つまり、先客がいる、ということかの?」
 
「の、ようだ。目的はわからんが」
 
 単なる登山客……なわけないか。
 
 謎の足跡を追うように、俺たちも白い足跡を刻んでいく。
 
「! 見えた」
 
 ナツメが見つけるのとほぼ同時、俺もそれを視界に捉えていた。
 
 山奥に建つには、一種異様な建築物。
 木造だが、頑丈に作られているのは一目でわかる。
 
 神殿。
 
 堕ちた神のために、ベラール族が建てた住処。
 ナラシンハの屋敷以上に、でかい。
 経年劣化はしているものの、まだまだ雪に潰される気配はない。
 立派な建物であるのに、嫌な気配を感じるのは、心の持ちようの問題か。
 
「ここからは、できるだけ気配を殺そう。まずは、様子見だ」
 
 2人の頷きを確認する。
俺たちはできるだけ木の影に隠れるようにしながら、人喰い神の神殿へと、慎重に距離を詰めていった。
 

 
 彼の機嫌は、悪くはなかった。
 
 15年前の食事(・・)は、極上の生命力を孕んでいた。
 だからこそ、いつもなら20年はかかる休眠期間が、15年で済んだのだ。
 
 いや、それだけではなく、自分は力を取り戻しつつあるのかもしれない、と思い、彼は口の端を吊り上げる。
 
 が、自分の右肩に左手をのせると、すぐに無表情へ、そして憤激へとその顔は変貌する。
 
 彼の背に見えるもの……黒き翼。
 日本生まれの竜輔ならば、それを鴉の羽のようだと称するだろう。
 
 本来左右一対であるはずのそれはしかし――右の翼が欠けていた。
 アスガルド追放の折、彼は神としての力を半分奪われたのだ。
 
「ちっ」
 
 知らず、舌打ちが漏れる。
 
 忌々しい事に、地上の大気には神力(しんりょく)がない。
 人を喰らって、その生命力を少しずつ神力へと変換する。
 効率性を高めるために、20年もの歳月をかけて。
 
「だがまだ、7割ってところか」
 
 天空大陸のクソッタレ共に思い知らせるには、まだ足りない。
 わけても、十天神(じゅってんしん)には遥か遠く及ぶまい。
 そう理解できるが故に、良かった機嫌も下降気味だ。
 
 彼はもどかしさに、歯軋りする。
 
 もっと派手に食い散らせば、1匹あたりの効率は落ちれども、少しは早く回復するだろう。
 特に、魔力に優れた猿共を喰らえば。
 だが、あまり目立つ行動はとりたくはなかった。
 
「猿共はどうとでもなるが……」
 
 地上にも、厄介な相手はいる。
 
 ――魔王ガルガディス。
 
 所詮猿山の大将といえど、ヤツと、ヤツが生み出した魔導兵器はあなどれない。
 何かの拍子に、ヤツを刺激する愚だけは避けるべきだ。
 
 結局は、このまま密やかに力を取り戻すのが良策か。
 
 そこまで考えて、彼は空腹を思い出す。
 
次の食事はまだなのか。
 
 猿共に呼び掛けてからはや数時間。
 そろそろ届いてもいい頃だ。
 
『たのもう!』
 
 猿共に造らせた仮住まいの外から、耳障りな鳴き声が聞こえてきた。
 

 
「たのもう!」
 
 木陰から窺う俺たちの視線の先で、1人の男が神殿の戸を叩いていた。
 種族は人間だ。
 
「あの男……強い」
 
 ナツメ。お前はそればっかりだな。
 でもまあ、強そうな男ではある。
 引き締まった肉体は、高い身長と相まって一見細身な印象を与えるが、ひ弱さはまったく感じない。
 吊り上がった眉と鋭い眼光が、見る者に威圧的な効果を与える。
 武器を持っていないことから、おそらく肉弾戦を得意としている事が推測できた。
 
「それで、あやつは何をしておるのじゃ?」
 
「さあ。いずれにせよ、神の姿を拝むチャンスではあるな」
 
 俺が傍観と観察を主張するのとほぼ同時。
 
 ギイィィ……。
 
 ゆっくりと、木製の扉が内側に開き始めた。
 
 ――総毛立つ。
 
 心臓が縮みあがるかのような圧迫感と共に、鳥肌が立った。
 
 なんだ――アレは。
 
 基本的な体の構造は、人と大して変わらない。
 銀色に輝く髪。
 性別は男だが、髪が短くなければ、その容貌は女と見紛うほど美しい。
 整い過ぎたそれは、刺々しい酷薄さを感じさせる。
 長めの前髪から覗く瞳は、鈍い鉄色に濁っていた。
 
 そして何より特筆すべきは――その背に見える、片側だけの黒き翼。
 
 という異様な容姿ではあるが、問題なのは見た目じゃない。
 
「……」
 
 開いた扉から、男が無言で歩み出る。
 
 サク。
 
「!」
 
 男が雪を踏んだ音で、俺たちは我に返った。
 
「あ――むぐ」
 
 何か言い掛けたニナの口を塞ぐ。
 
 ナツメを見れば、先程まで寒さを堪えていたにも関わらず、その額には汗の玉が浮かんでいた。
 
 あれが、神だと?
 
 という感想は、おそらく3人共通だろう。
 
 神々しさなど、どこにあるのか。
 あるのはただ、禍々しく狂おしい何か。
 
 片翼の男は、格闘家風の男に、自分以外の全てを見下すような目を向ける。
 
「……」
 
 片翼の男は何も語らない。
 格闘家風の男は完全にヤツの雰囲気に呑まれていたが、我に返ると気丈にも相手を睨みつけながら言葉を発した。
 
「貴様がテオトル山に住む悪魔か――などと、聞く必要もないな」
 
 黒い翼にちらりと目をやり、格闘家風の男は言う。
 
 ……何の話だろうか。
 そういう噂が流れているのだとすれば、ある意味滑稽な話ではある。
 神が、悪魔呼ばわりとはね。
 
 片翼の男から返答はないが、格闘家風の男は勝手に言葉を続けた。
 
「吾輩はブラキアーノ国最強の格闘家、アンドレアスである!」
 
 自分で最強とか言っちゃった。
 
「腕試しの旅の途中、貴様の噂を聞いた。災いを振り撒く悪魔。吾輩が貴様を地獄へと送り返して――」
 
「……くっ……」
 
「……?」
 
「くくく……ヒャハハハハハ!!」
 
 見た目にそぐわぬ、下品な嗤い。
 堪え切れないといった様子で、片翼の男が大口を開けて嗤い出した。
 
「っくくく。なんだよオイ。食事かと思えば、とんだ身の程知らずの猿が来たな」
 
「な、さ、猿だと?」
 
「このオレを悪魔呼ばわりたぁ恐れ入る。ヒャハ。しかも倒すつもりらしい。ヒャハハ! ありえねぇ!」
 
 馬鹿にしたように……いや、明らかに相手を馬鹿にして、片翼の男は腹を抱えて嗤う。
 
「き、貴様……!」
 
 アンドレアスとかいう男は、あまりの侮辱に顔を真っ赤にして激昂する。
すぐに半身に構えて、戦闘態勢に入った。
 
「ヒャハ。やる気満々だなオイ。よろしい。やる気に免じて」
 
 片翼の男が、ピッ、っと人差し指を立てた。
 
「一撃。ヒャハ。一撃だけオレに入れることを許してやるよ」
 
 にやにやと笑いながら、片翼の男はあくまで上から目線だ。
 
「お、おのれ……どこまでも馬鹿にしおって……!」
 
「ヒャッハハハハ!! 死ぬ気で来いよ?」
 
 ――ギリ。
 
アンドレアスが歯軋りをする。
 額に青筋を立てて、アンドレアスは怒りを力として溜めこんでいく。
 
 自称ブラキアーノ国最強の怒りは、大気を震わせるようにこちらへも伝わってきた。
 
「(あの姿勢……蹴りか)」
 
 ナツメが小声で囁いた通り、アンドレアスはあからさまに右回し蹴りを放つ体勢だ。
 一撃を許されたのだから、フェイントを混ぜる必要はない。
 間違いなく、右回し蹴りを打ち込むだろう。
 
「(ごくり)」
 
 ニナはエレメンツィアを握り締めて、緊張の面持ちで男達を見つめている。
 
 さて――神の力、見せてもらおうか。
 
「ぜあぁぁあ!!」
 
 アンドレアスの右脚が、片翼の男の肩口に、吸い込まれるように叩きこまれた。
 
 バキャァ!
 
 激しい激突音。
 肉と肉がぶつかったにしては、甲高い音が俺たちの鼓膜を震わせた。
 
「………………ヒャハ」
 
「ぐっ、ああああ!」
 
 アンドレアスが、脚を押さえて雪の上に転がった。
 
「(……折れている)」
 
「(……なんじゃと? 蹴った方の脚がか?)」
 
「(堅ぇな)」
 
「ヒャハハハハ!! ダセェ! 弱ぇ! 暇つぶしにもなりゃしねぇぜ!」
 
 片翼の男は、倒れたアンドレアスの腹を蹴りつける。
 
 ドゴッ!
 
「がはっぁ!」
 
 口から赤い液体を撒き散らしながら、アンドレアスは雪上を転がった。
 
「! まずい!」
 
「あ、こら」
 
 いつものように、飛び出すナツメ。
 はぁ。やれやれ……。
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