忍者ブログ
    ブログではなく、小説を連載しています。
目次
(06/03)
(06/03)
最新CM
プロフィール
HN:
雪見 夜昼
HP:
性別:
男性
自己紹介:
ネット小説とか書いてます。竜†婿は「小説家になろう」でも公開中です。
ブログ内検索
最新TB
[50]  [49]  [48]  [47]  [46]  [45]  [44]  [43]  [42]  [41]  [40
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

第43話 パーティ・バトル


「ぐ……っ」
 
 人間……だと思われる男が吹っ飛ぶ。
 ごろごろと後ろ向きに回転しつつ、すぐに体勢を立て直した。
 4度目の特攻をあしらわれた男はしかし、にやりと楽しげに口元を歪める。
 
「チッ……!」
 
 知らず、舌打ちが零れた。
 
 後ろ足で雪を跳ね上げながら、男は5度目の突撃を試みる。
 
「何度来ようが……!」
 
 突っ込んで来る男にタイミングを合わせ、拳を突き出した。
 男の鼻っ面を潰す感触がオレの手に――。
 伝わらない。
 
「!?」
 
 首を傾けて拳撃を躱した男と、目が合った。
 
 ――ゾクリ。
 
 直後、男の拳が、視界を塞ぐ。
 
「っ!」
 
 こちらも首を傾けて、寸前で躱す。
 こめかみを掠めたそれは、思いの外強い衝撃を伝えてきた。
 
「う、おおおお!!」
 
 ズドッ!!
 
「がっ……!」
 
 反射的に繰り出した蹴りが、男の腹に深くめり込む。
 カウンター気味に入ったそれは、十分な足応えを持って男を弾き飛ばす。
 
 ズシャァ!
 
 落下した男の背が、土交じりの雪を周囲に撒き散らした。
 
「ハァ、ハァ……」
 
 肉体的には疲労などしていないが、何故か息が乱れている。
 
 野郎、何て目を……。
 全てを見透かして、背中まで突き抜けるような視線。
 運命神(フォルトゥナ)のババアを彷彿とさせやがる。
 
 が、もう終わりだ。
 
 大概しつけぇヤツだったが、さすがにもう起き上がれねぇハズ――。
 
 ピク。
 
 男の腕が、痙攣するように動いた。
 
「……んの野郎……」
 
 男は腕を支えに、上半身を起こす。
 
「ぺっ」
 
 血を吐き出してから、すっくと立ち上がった。
 
 クソみてぇなタフさだ。およそまともな人間じゃねぇ。
 ……そうか!
 
 脇の林からこちらを見ている白竜人を睨みつける。
 
 ギロリ。
 
 ササッ!
 
 女は一瞬で木の陰に引っ込んだ。
 
「魂の契約を、結んでいやがるな……!」
 
 よほど濃い白竜の血の持ち主だろう。おそらく、王族かそれに近い血族。
 白竜の特性は防御と再生だ。
 男があの白竜人の魂の伴侶だというのなら、呆れたタフネスにも一応の説明はつく。
 
 もっとも、それだけとは到底思えないが……。
 
 ともかく、あのクソ野郎を潰すには、白竜人が邪魔ってこったな。
 
「ヒャハ」
 
 バキャ!
 
 白竜人が身を潜める大木を、叩き折る。
 
「おうわっ!?」
 
「ヒャハハハ! 死ねよクソアマがぁ!」
 
 転がり出てきた白竜人に、割と本気で蹴りを打ち込んだ。
 
 ドゴッ!
 
「んなっ!?」
 
 このオレですら認識できない速さで。
 男が、オレと白竜人の間に割り込んでいた。
 

 
 魂の契約云々と呟いた後、片翼の男は嗤いながらニナがいる林へ身体を向ける。
 
 バキャ!
 
 まずい、と思ったときにはすでに、ニナが身を潜めていた大樹は、男の手刀でへし折られていた。
 
「おうわっ!?」
 
 その陰から、エレメンツィアを抱えたニナが転がり出てくる。
 
 枝から雪を振るい落としながら倒れ行く樹木を尻目に、男がニナへと狙いを定めた。
 
 ドゴッ!
 
 間に合うとか間に合わないとか考える間もなく。
 気がつけば俺は、腹まで響くアホみたいな衝撃を背中で受け止めていた。
 
「……あ?」
 
 起こったことに対して、理解が後からついてくる。
 腕の中にはニナ。
 どうやら、ニナを庇うべく体が勝手に動いたようだ。
 ナイス俺の体。
 
 ドシャ。
 
 ニナを抱えたまま、意志に反して体が冷たい雪面に横たわった。
 
「リュースケ! おい!」
 
 ニナが俺を呼ぶ。
 
「ごほっ」
 
 返事をしたかったが、代わりに出たのは血液混じりの咳き込みだった。
 ニナの白い頬に、赤い飛沫が数滴付着する。
 
 綺麗な肌が、汚れちまったな。
 あまり言う事をきかない左手の親指で、ニナの頬を拭う。
 
「リュッ……っ!」
 
 ニナが涙目で俺を見ている。
 あー。大丈夫。まだ死なない。多分。
 とはいえ、まずいことはまずい。
 
「……ヒャッハハハ! ちっとばかし驚いたが、結果オーライってか」
 
 甲高い嗤い声が耳に障る。
 
 ガッ!
 
「ヒャハ。小娘、やる気かよ? そんな玩具みてぇな剣で、しかも刃も向けずに?」
 
「くっ……!」
 
 ナツメの振り下ろした刀を、片翼の男が右腕で受けとめている様子が、視界の隅に映る。
 
 体が動かない。さすがに酷使しすぎたか。
 動けないほどボロクソにされるとは。神様の不思議パワーとか使われたわけでもないのにな。
 
「くくっ……ごほっ」
 
 笑い事じゃないが、笑いが漏れる。
 
「リュースケ! 大丈夫なのか!?」
 
「駄目っぽい。少し、休ませてくれ」
 
 神と対峙するナツメに視線だけ向けた。
 
「悪い、ナツメ。時間稼ぎよろしく」
 
 聞いて、ナツメは目を丸くする。
 
 一拍置いて驚きを引っ込めたナツメは、ふぅ、とため息を吐いて、強張っていた身体から力を抜く。
 
「承知。だが……」
 
 そしてナツメは、いつもの不敵な笑みを浮かべた。
 
「ずっと寝ていても構わんぞ」
 
 チャキリ。
 
 コテツを半回転させて、刃を相手に向けてみせる。
 
「コイツは、拙者が斬る」
 
 ナツメから、表情が消え去った。
 

 
 峰といえど、腕であっさりと防がれるとは。
 
 焦りが胸中を渦巻いた。
 この片翼の男を拙者が止めねば、2人は間違いなく殺される。
 
 迂闊であった。
 竜輔殿に直接手助けはできないまでも、ニナ殿を守護することくらいはできたはずだ。
 緊張で、身体と共に硬直した思考が、それを拙者に気づかせなかった。
 
 せめて、不殺の戒めがなければ。
 などと、言い訳を考える自分の不甲斐なさに歯噛みする。
 
 所詮拙者は単なる、いち田舎侍に過ぎないのか。
 (ひいらぎ)の本懐、(あまね)く全てを斬る剣に、拙者などでは到達できないのか。
 
 敵を前に、余計な考えばかりが浮かぶ。
 そのような場合ではない。今は目前の相手に集中しなければ。
 
 しかし集中力はちぢに乱れ、刀を握っている実感すら湧かない。
 
 ギュ……!
 
 震えそうになる精神と肉体を必死に支え、コテツの柄を握りなおす。
 ともかく、やるしか、ない
 
 拙者は決死の覚悟を固めた。
 ……だというのに。
 
「悪い、ナツメ。時間稼ぎよろしく」
 
 至極軽い口調で、夕飯の買い物でも頼むかの如き気安さで、竜輔殿は拙者に言い放った。
 
 呆気にとられる。
 
 努めて、意図的に簡単に言ったわけではないことは、竜輔殿の現状を見れば明らかだ。そんな余裕があるはずもない。
 
 つまりは、本気。本気で簡単に言ってのけている。
 つまりは、信頼。拙者ならできると、微塵の疑いもなく確信している。
 
 ………………やれやれ。
 自分だけ緊張しているのが、馬鹿らしく思えてきた。
 
 ため息を吐く。
 適度に体の力が抜ける。
 
 こんな信頼を向けられれば、やらないわけにはいかないだろう。
 細かいことをあれこれと悩むのは、もう辞めた。
 
『人に刃を向けることを禁ずる』
 
 師範……父上の言葉が脳裏をよぎるが、丸めて隅に放り捨てた。
 そも、相手は人ではない。神ではないか。ならば、禁を破ったことにはならないはずだ。
 脳が生み出したそんな屁理屈でも、今の拙者はあっさり納得できる。
 
「承知。だが……」
 
 斬る、と決めると、徐々に浸食されていく。
 
「ずっと寝ていても構わんぞ」
 
 人斬りを禁止された所以(ゆえん)
 (ヒイラギ)(ナツメ)の抱える呪い。咎。罪科。
 黒いが静かなる思考が、頭の中を塗り替える。
 
 刃を返せば、拙者の中身もカチリと入れ替わった。
 
「コイツは、拙者が斬る」
 
 余計な思考が全て塗り潰されれば、「斬りたい」、という純粋な殺人衝動だけが残った。
 

 
 ナツメの雰囲気が変わる。
 いつもは楽しげに戦うが、今はまったくの無表情。
 かと言って緊張しているのかと思えばそうでもなく、無理なく自然に刀を正眼へと構えている。
 
 ナツメの変化に、片翼の男も気が付いた。
 
「なん――」
 
 男は、最後まで発言することを許されなかった。
 
 ギャリィィ!!
 
 コテツの刃を、再び男の腕が受け止める。
 相変わらず肉体で受けているとは思えない衝突音だが、先ほどとは違う点があるとすれば。
 着衣の袖に浮かぶ、赤。
 
「チィ!」
 
 男は受けとめた右腕を、振るう。
 ナツメはその勢いに逆らわず、むしろ利用するように背後へ跳んだ。
 
 振るわれた手からは、僅かながら赤いモノが散った。
 血、だった。
 
 刃を腕で止めれば切れる。
 当たり前のことだが、神の顔は憎々しげにゆがむ。
 
 着地と同時、男に対して弧を描くように走り出す。
 速い。神の如く人を超えるような速さではないが、行動から行動へのロスがない。
 結果的に、間断無い動きは見るものに速さを感じさせる。
 
 と、戦いを見守っている俺を、ニナが両脇に腕を入れてズルズルと引きずっていた。
 ある程度2人から距離をとったところで、膝枕をしてくれる。
 感謝の念を伝えたいが、今は体を休めることが先決だ。
 宣言通り、ナツメがアイツを斬ってくれれば問題はないのだが。
 
 引きずられる間にも、神と人との戦いは止まらない。
 
 男を中心に、大きくは円を描くような軌道で、小さくは縦横無尽にナツメは駆ける。
 
 ヒット&アウェイ。
 
 以前の、ラトーニュ近郊のトイフェル山で、ガルデニシアが用意したと思われる恐竜めいた怪物との戦闘。
 あのときに見せた、ナツメ本来の戦闘スタイルだ。
 あのときのように気勢を上げて、という感じではないが。
 静かに、しかし苛烈に。
 ナツメは男を攻め立てた。
 
 相手の死角へ死角へと回り込みつつ、時折近づいて刀を振るう。
 
 ヒュン! ダッ。
 
 当たることもあれば外れることもある。
 どちらにしろナツメは表情を変えず、1撃離脱を繰り返す
 
 相手の精神的、肉体的隙をつき、的確にダメージを蓄積していった。
 といっても現状、かすり傷を増やしているに過ぎないが。
 
「っ! がああ! 鬱陶しい!」
 
 男が青筋を立てて、力任せに腕を振るう。
 
 ガキィン!
 
 冷静に刀の腹で受け止めつつ、全力で後ろに跳ぶことで衝撃を受け流す。
 そうしてまた、着地と共に走り出す。
 
 ナツメは一瞬たりとも止まらない。
 侍というより、その姿はまるで忍者だ。
 本人に言ったら怒られそうだけど。
 
 想像以上に善戦していた。
 しかしこれまた、トイフェル山での焼き直し。
 
 時間稼ぎ、という意味では十二分に役割を果たしているものの。
 決定打に欠けるナツメでは、相手を打倒するところまではいけないだろう。
 
 表情はまったく変わらないが、徐々に息も乱れてきている。
 このままでは、まずい。
 
 そう、前の時も思ったものだ。
 
 ニヤ。
 
 俺の口が弧を描く。
 
 目にもの見せてやれよ、ナツメ。
 思い上がった黒い神に、人の底力を見せてやれ。
 
「さて」
 
 ニナが俺の頭を膝から下ろし、エレメンツィアを片手に立ち上がる。
 
「ニナ?」
 
「今が好機、じゃろ? わらわも、戦うぞ。世話の焼ける『ねこみみ』のためにの」
 
 俺の真似をして、意味もわからずラティを『ねこみみ』呼ばわりだ。
 
「……ああ。やっちまえ」
 
「おう」
 
 ニナと、笑みを交わす。
 

 
 一方、神対人は佳境に入っていた。
 
 ドッ!
 
「っ」
 
 神の振るった脚が、ナツメを大きく吹き飛ばした。
 例によって勢いは殺しているが、ダメージは大きい。
 そも、ナツメの防御力は並だ。いくら衝撃を緩和したとて、大木をへし折る神の膂力は完全には殺しきれない。
 
 それでもナツメは表情を変えず、また足を止めることもない。
 
「チッ。ぐるぐるぐるぐる走り回りやがって。マジでウゼ……っ!?」
 
 ぐら。
 
 眩暈を覚えたかのように、神が揺らぐ。
 ナツメに正面を向けるべく独楽のように回転していた神の足が――もつれた。
 
 生まれるべくして、生まれた隙であった。
 先の、竜輔の拳。
 こめかみを掠めた一撃は、神の脳を揺さぶっていた。
 
 その時緊張に固まっていたナツメではあったが、長年の修練のたまものか、その意味を正しく理解していた。
 確実にいずれ、ダメージが顕著に現れるはずだと。
 
 神の一挙手一投足を凝視していたナツメは当然、その隙を逃しはしない。
 黒く染まったはずのナツメに脳裏に、ラティの笑顔が僅かにちらついた。
 
 ――守ってみせる。
 
 頭の中で、(しゅ)を唱え上げる。
 
 ――斬鬼仏滅(ざんきぶつめつ)退魔殺神(たいまさつじん)
 
 鬼を斬り、仏を滅し、魔を退けて、神をも殺す。
 
「はああああああああああ!!!」
 
 これまで無言で走り回っていたナツメが、ため込んだ気勢を一気に吐き出す。
 大きく振りかぶったコテツは、薄赤い光に覆われていた。
 
 ――柊流奥義。
 
天地(あまつち)(ざん)!!!」
 
「おああああ!!」
 
 体勢を崩した男は、頭頂へ振り下ろされるそれを避けるべく、無理やりに体を横へと流す。
 
 ズッ……!
 
 遅くなった時の流れの中で、ナツメのコテツが、男の左肩と肘の間、上腕へと吸い込まれていく。
 
 ピシッ。
 
 腕の中ほどまで進んだところで、コテツの刀身に亀裂が走った。
 
「おおおお!!!」
 
 ザシュ!! バキーン!
 
 気合一閃。
 振りぬかれたコテツは神の左腕を斬り飛ばし、役割を終えたその刀身は無残にも砕け散った。
 
 がくり。
 
 全精力を使い果たしたナツメが、膝をつく。相棒の柄は、右手に握ったままだった。
 
 ブシュゥ!
 
 遅れて、男の腕から血潮が溢れ出す。
 
「く、クソアマがあああああああああ!!!!」
 
 怒りに目を血走らせた男が右腕を振りかぶる。
 が、ハッっと何かに気付いたように右を見る。
 
「やらせるかぁあああ!!」
 
「何だとぉ!?」
 
 エレメンツィアを振り下ろすニナだった。
 
 体を引いて、鎌の軌道から逃れる。
 
「チィッ!」
 
 神の舌打ち。
 先ほどの気を纏った一撃ならともかく、ただの鎌など避ける必要もなかった。
 寸前に斬られたという事実が、神の体を反射的に動かしていた。
 
 ギリギリ届いて、肩口で鎌は弾かれるだろう。
 神のその予想は、2重の意味で外された。
 
 スッ。
 
 ニナの振り下ろしの途中、鎌は忽然と姿を消した。
 
「!?」
 
 混乱する神と、にやりと笑うニナ。
 
 そして背後に唐突に現れた気配に、神は驚愕と共に振り向いた。
 
「ふっ!」
 
 呼気を吐きながら、消えたはずの鎌を振りかぶるのは、白き精霊、エレメンツィア。
 
「せ、精霊武器だと!? こんなものが現存して……!」
 
「死になさい」
 
 ザン!
 
 咄嗟に掲げられた右腕を、エレメンツィアは冷徹に切り落とした。
 
 ブチ。
 
 片翼の神の怒りは、許容の限界を突破した。
 
「食い散らせ、バキュアアア!!!」
 
 ブオン。
 
 両腕を失った片翼の男を中心に、半径4,5メートルはある巨大な魔法陣が展開された。
PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
この記事へのトラックバック
この記事にトラックバックする:
忍者ブログ [PR]