忍者ブログ
    ブログではなく、小説を連載しています。
目次
(06/03)
(06/03)
最新CM
プロフィール
HN:
雪見 夜昼
HP:
性別:
男性
自己紹介:
ネット小説とか書いてます。竜†婿は「小説家になろう」でも公開中です。
ブログ内検索
最新TB
[62]  [61]  [60]  [59]  [58]  [57]  [56]  [55
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

※この物語はフィクションであり、実在の人物、団体、その他もろもろとは一切合財関係ありません。
 
第57話 鬼の一族

「――ってところかな」
 
「ふむ」
 
「へぇ……」
 
 オーレリアさんとマリアのSランク竜人コンビが思案顔で頷いた。
 赤と白のコントラストが目に眩しい。
 2人はテーブルを挟んで、探るような視線を向けてくる。
 
 クラーケンの群れを撃退して、一段落ついた後。
 マリア号の船長室で、俺は魔導要塞ヴァルガノスで起きたことを説明していた。
 
 聴き手は今言った2人だけ。
 ベルナさんやオーフェスには遠慮してもらった。
 魔法の効果の事もあるし、あまり大勢に話す気にはなれない。
 
 ま、オーレリアさんに話した時点で、白竜城には知られることになるんだろうけど。
 
「『暴食』か。恐ろしい属性を引き当てたものだな」
 
「ねね、ちょっとやってみせてよ」
 
「ほい」
 
 マリアに促され、俺は手のひらの上に一握りの『ヤミ』を生み出した。
 
「ほー、へー」
 
 マリアが興味深そうにヤミをつつく。
 
「どうだ」
 
「うーん…………えい」
 
 ボッ!
 
「あっちっ!?」
 
「どうやらワタシたち竜人の力までは、吸収されないみたいね」
 
「そうか」
 
「いやそうかじゃねーよ! 何してくれてんだよ!(スパン!)」
 
「あん」
 
 マリアの頭をパーで叩く。
 くそう。叩かれても嬉しそうだから報復にならねぇ。
 
「聞くべきことは聞いた。我は白竜城に戻る」
 
「あら、もういいの?」
 
「約束だからな。連れ帰りはしない。ただし、リュースケ。ジパングから戻った折には、白竜城に顔を出せ」
 
「ああ」
 
「うむ。ではな」
 
 鷹揚に頷くと、オーレリアさんは船室を後にした。
 
 その後甲板で、飛び去る飛空船をマリア号の全員で見送った。
 そうして、マリア号はようやく通常航海に復帰を果たすことになる。
 

 
 ゴウン、ゴウン。
 
 竜翼機関の低い唸りが、薄曇りの空に吸い込まれていく。
 機関部では、飛行担当の竜人が、交代で力を注ぎ込んでいることだろう。
 
 高速飛空船スレイプニールは航路を反転し、ミッドガルド方面へと帆先を向けていた。
 推進力を風に頼るわけではないので、飛行中は全ての帆がたたまれている。
 
 むしろ帆は、空気抵抗を利用した減速・停止の用途で用いられることが多い。
 一応、通常の帆船と同じように海上を航行することもできるのだが。
 
 すでにかなりの高度をとっているため、甲板上に人影はほぼない。
 皆無ではないのは、そこに2人の人物が立っているからだ。
 
 『白光の』オーレリアと『勇者』オーフェスは、強い潮風に煽られながら、広大な海の眺望を楽しんでいた。
 オーレリアの長い髪は、ほとんど甲板と水平にたなびいている。
 
「オーフェス。どう見た」
 
「どう、とは?」
 
「リュースケの事だ。善悪、強弱、美醜、好悪、何でもいい。お前の直感は、あの男をどう感じた」
 
「えーっと、そうですね」
 
 オーフェスは腕を組んでうんうんと唸る。
 
「危うい……いや、不安かな」
 
「ほう」
 
 オーレリアはオーフェスの答えに、意外そうな表情を返す。
 
「上手く言葉にできないんですけど……」
 
「うむ」
 
「彼はすごく強いし、これからもっと強くなる」
 
「そうだな」
 
「あとはえっと、好きな人のために身体を張れる、尊敬すべき人だと思います」
 
「そうか」
 
「はい」
 
「……」
 
「……」
 
「……で?」
 
「え。終わりですけど」
 
「……危ういのと不安はどこにいった」
 
「あれ?」
 
「あれ、ではない。ちゃんと説明しろ」
 
「はは。僕にもよくわからないみたいです」
 
「まったく……」
 
 笑って誤魔化すオーフェスに、オーレリアが呆れたように溜息をついた。
 
「そういうオーレリアさんはどう思うんですか?」
 
「うむ。まあ悪人ではないだろう」
 
「はい」
 
「強さは……戦って負けるとは思わんが、進んで戦いたい相手ではないな。身体能力では我らが大きく劣る」
 
 クラーケンを蹴り飛ばすような真似は、さすがにオーレリアといえどもできなかった。
 さらに言えば、魔法使いがリュースケに勝つことは難しいとも思ったが、これは口に出さない。
 
「戦い慣れていない様子でしたからね。経験を積んだら、すぐにSランカーになれるでしょう」
 
「うむ。面食いのニナが選ぶだけあって、顔もなかなか悪くない。総じて、我の印象は『良い』といっていいだろう」
 
「なるほど。残念でしたね」
 
「何がだ」
 
「彼もオーレリアさんのこと美人だって言っていましたし。ニナさんがライバルでさえなければ、チャンスだったのに。ニナさん、可愛かったなあ」
 
「そうそう、相手がニナでは勝ち目がないよな。まったく我ときたら訓練訓練で男勝り。筋肉ばかりついて女らしさが足りないからドやかましいッ!! 誰が行かず後家かッ!!」
 
「痛いっ!?」
 
 甲板が騒がしいので様子を見に来た兵士たちが必死で止めなければ、オーフェスは遥か眼下の海原へ蹴り落とされていたであろう。
 

 
 Sランカーたちの襲撃から、1週間ほどは経っただろうか。
 マリア号の航海は平穏無事に進んでいた。
 
「『わたしは、なまえが、ニナです』」
 
「間違ってはいないが、少しおかしいぞ、ニナ殿」
 
「むう」
 
「『わたしの、なまえは、ラティです』じゃないですか?」
 
「うむ」
 
「何が違うのかさっぱりわからぬ」
 
 甲板に出ると、ニナとラティが日本語……じゃない、ジパング語の勉強をしていた。先生はナツメだ。
 
「おー。そういやジパングだとミドリガルは通じないのか」
 
「いや、通じないことはない。城で働いている者はだいたい話せるぞ。城下にまではまだ、広まっていないが」
 
 声を掛けると、ナツメが振り向きながら俺に答えた。
 
「城じゃと?」
 
「あ。いや、その。うむ。まあ、なんだ」
 
 ナツメがどもる。
 そして若干頬を赤らめながら、明後日の方向に視線を飛ばして言った。
 
「……拙者こう見えても、城暮らしだったのだ」
 
 え。
 
「城暮らし……使用人ってわけじゃないんだよな」
 
「う、うむ」
 
「なにっ。ということはラティだけではなくナツメも姫じゃったのか!?」
 
「ええっ!? わ、私はそんな大したものじゃないですよ! というか、じゃあナツメちゃんはジパングのお姫様ってことですか!?」
 
「い、いや、そうではない。ジパングはいくつもの国が分割統治しているのだ。(みかど)から国を預かる、という形でな」
 
「帝、ですか」
 
「ミッドガルドでいえば、帝は王にあたるだろう。王に任された領地を貴族が統治するように、帝に国を任された武家がこれを治める」
 
「つまり、ナツメは貴族の娘ということか?」
 
「……武家の娘ではある」
 
「結局、姫なんですよね?」
 
「まあ、そういうことになるか」
 
 姫と呼ばれるのは恥ずかしいのか、ナツメは頬を掻きながら曖昧に肯定した。
 
「ってことは、お前ら3人とも姫だったんだな」
 
 姫率(造語)75%パーティ。
 
「ひ、柊家が治める国は長門国(ながとこく)という。本州最西端にある国だ」
 
 照れを隠すように、ナツメが自国の説明を始めた。
 
 銅がよくとれるだとか、長閑(のどか)でいいところだとか、壇ノ浦の有名な戦いがどうだとか。
 
「そうか、姫」
 
「いいところじゃな、姫」
 
「楽しみですね、姫」
 
「ひひ、姫というのはやめろ!」
 
 ナツメをからかって遊んだ。
 

 
 ナツメは知らない。
 今の長門国が、当時ほどに長閑ではいられないということを。
 
 那牙兎国より南西には、九州という大きな島がある。
 そのさらに南西部に位置する薩摩(さつま)国の島津家では、天下統一を掲げて他領への侵攻を開始していたのだ。
 
 それに呼応するかのように。
 
 無敵の騎馬軍団を率いる甲斐(かい)国の武田家。
 自ら『第六天魔王』を名乗る織田信亜(のあ)率いる尾張国(おわりのくに)の織田家。
 北方の雄、出羽国(でわのくに)の伊達家。
 
 各地で強力な武将が名乗りを上げ、戦火を拡げ始める。
 
 ジパングは今、群雄割拠の戦国時代に突入しようとしていた。
 

 
肥後(ひご)国も落ちたか。歯応えのない」
 
 青空にこだまする自軍の勝鬨(かちどき)を聞くともなしに聞きながら、島津家当主、島津春久(はるひさ)は本陣で退屈そうに呟いた。
 強い赤味を帯びた特徴的な肌色を重厚な具足に包み、兜の隙間から不満げな表情を覗かせる。
 
「つまらん」
 
 言いながら、兜をとって小脇に抱えた。
 勝って兜の緒を締めよ、などということわざとは縁のない、不遜な男である。
 兜の下から姿を見せた額には、二本の角が生えていた。
 
 島津家とその一党は、『鬼人族』である。
 
 鬼人は、大別すれば獣人の一種といえるだろう。
 ジパングの九州のみに存在する、額に角持つ一族だ。
 
 角が多いほど強い鬼だとされるが、基本的には一本角(いっぽんづの)だ。
 多くても二本角で、三本角などという存在は、おとぎ話にしか存在しない。
 
「あわわわ……(おろおろ)」
 
 春久の背後。泣きそうな顔で右往左往している10代中盤の小柄な少女は、島津冬久(ふゆひさ)
 額の二本角はまだ丸みを帯びており、彼女の幼さを匂わせる。
 春久には2人の弟と1人の妹がおり、その島津4兄弟の一番下が冬久だ。
 
 彼女は内心では戦に反対しており、止めたくてついて来たはいいが、どうしていいかわからずにおろおろしていた。
 
「冬! 何ふらふらしてんだ? 心配しなくても俺たちゃ負けねぇ。がっはっは!」
 
 ばしばし。
 
「な、夏兄さん、痛い……」
 
 心配してついて来たのだと誤解して冬の背中を叩くのは、島津家次男、島津夏久(なつひさ)
 身の丈7尺(約2メートル)を超える大男である。
 鬼人用の兜の合間から伸びる角は、一本角。体格に見合った立派な角だ。
 鎧の重量も一際大きく、彼が歩くと地面が揺れるような気さえした。さすがに、それは錯覚だが。
 
「おいバカ。バカが馬鹿力でバカバカ叩いたら冬がバカになるからやめろ馬鹿」
 
 暑いのか、軍配で自分を扇ぎながらばかばか言うのは、三男、島津秋久(あきひさ)
 冬久と同じくらい小柄で、鎧兜は身に着けていない。
 角は一本角。これもやはり冬久と同じく丸みがある。
 
「秋! 兄に向かって馬鹿とは何だ!」
 
 夏久が伸ばした手をヒョイと避けて、秋久は春久に進言する。
 
「春ニィ。もう帰ろうぜ。あとは雑兵だけでどうとでもなるしさ。こう暑くちゃやってらんねーよ」
 
「そうだな」
 
 普通、占領直後に部下に丸投げというのはあり得ない。
 しかし島津家の武将たちは島津4兄弟に心酔しており、また優秀な人材も多いので問題はない。
 
 春久が腰を上げた直後、周りの家来をすり抜けるように、一人の男が現れた。
 
「島津春久! お命頂戴する!」
 
 刀を振りかぶって襲い来る男を、春久は冷笑をもって迎えた。
 
「覚悟!」
 
 ザン! 
 
 ……ドサ。
 
 首が落ちた。無論、襲撃者の首が。
 
 春久は血振るいした刀を鞘に戻すと、何事もなかったように歩きだし、3人も続く。
 冬久ですら、死体に見向きもしなかった。
 身内以外には、何の感傷も抱かないのが鬼人族である。
 
 暗殺者の類は、春久の命令で無条件に通される。
 彼の退屈を紛らわせるために。
 春久の家来は、彼の心配をしたりはしない。
 春久こそが、いずれジパングを統一する、最強の鬼だと信じているから。
 
「退屈だ。早く、逢いたい。そして手に入れたい」
 
 春久の熱の篭ったつぶやきに、夏久と秋久は、お手上げとばかりに首を振る。
 冬久は、若干の嫉妬に頬を膨らませる。
 
棗姫(なつめひめ)
 
 口にして、春久は禍々しい笑みに口元を歪めた。
 
 鬼人族は身内以外に感傷を抱かない。
 
 ただし、執着を抱くことはある。
 

 
「!?」
 
 俺も加わって再びジパング語教室を開いていると、唐突にナツメが身体を震わせた。
 
「どうした、ナツメ」
 
「いや。何やら急に寒気が……」
 
「そういえば、少し冷えて来ましたね」
 
「うむ。風も強いしの。続きは中でやらぬか」
 
「だな。そうしようぜナツメ」
 
「あ、ああ」
 
 首を傾げるナツメを連れて、俺たちは船内に引っ込んだ。
 マリアやベルナさんも加えて、ドタバタと騒ぎながら勉強する。
 
 東方の国ジパングは、刻一刻と近づいていた。
PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
忍者ブログ [PR]