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ネット小説とか書いてます。竜†婿は「小説家になろう」でも公開中です。
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第51話 『薔薇色の』ロサ・マリア


「他の方々もはじめまして。どうぞ気軽に、マリア、と」
 
 そう言って、彼女は軽く膝を折って礼儀を示した。
 
 『薔薇色の』ロサ・マリア。
 
 赤色、特に血の赤を好み、返り血に塗れたその姿から、いつしか『薔薇色の』ロサ・マリアと呼ばれるようになったという。
 
 噂に反して、見た目にはそういった雰囲気はない。
 彼女のタレ目はむしろ、優しげな印象を見る者に与えている。
 
「(な、なんか思ったほど怖い人じゃなさそうですね)」
 
「(うむ。だが、強い)」
 
 ラティとナツメが小声で話している。
 
 ……俺の厄介事センサーは、安易な判断を下すべきではないと告げていた。
 
 「ワタシが仕組んだ」と彼女は言った。
 つまり情報屋、ルイス=ミゲルに根回しをして、この状況を作り出したのは、この薔薇色さん本人ということだろう。
 
 だがしかーし!
 それと、彼女が美人であることは、まったく別の問題である!
 
 俺は椅子から立ち上がり、キリリと顔を引き締める。
 
「はじめまして、マリア。俺はリュースケだ。よければ、この後一緒にお茶でも」
 
「て、てめぇ、タダで帰れると――おぶふっ!」
 
「「「「親父ィー!」」」」
 
 足元のやかましい肉達磨を、蹴り飛ばして黙らせる。
 
「ふふ。よろこんで。でもその前に……」
 
 カツ、カツ。
 
 マリアは大げさな身振りで悲しみを表現しながら、悶絶する熊男に近づいた。
 
「ああ! 可哀想なアレハンドロ。でも、アナタが負けた場合の約束は、果たせなくなってしまったわね。何しろ、ワタシはここにいるのだから」
 
 アレハンドロは、自分が負けた場合、彼女の居所を教える、と約束していた。
 
 まあ、そもそも負けるつもりがなかっただろうし、知っていたかは疑問だけどな。
 
「それはいけないわ。約束は守らなければ。守れないのなら……」
 
 シャリン。
 
 豪華な装飾が施された、細身の片手剣を抜き放つ。
 『突く』剣であるレイピアほどには細くなく、重さで叩き斬るタイプの剣ほどには太くない。
 やや突き寄りの用途で、切れ味も重要視された剣、といったところだろうか。
 
「守れないのなら……罰を、与えないといけないわ」
 
 悲しみの表情から、一転。
 マリアは鈍い輝きを放つ白刃に頬を寄せ、どこか恍惚とした表情を浮かべた。
 
「「「「え"……」」」」
 
 俺たちは一斉にドン引きした。1メートルほど。
 
 アレハンドロの髭面が、みるみるうちに蒼ざめる。
 
「待っ――」
 
 ヒュ!
 
 刃が一筋、煌いた。
 
 ……ブシュウ!
 
 一拍遅れて、アレハンドロの手首から血液が噴出する。
 
「……ハァ、いい色」
 
「う、うおおお! 血が、血がッ!」
 
「「「「ギャー! 死ぬな親父ー!」」」」
 
「うふふ。騒がなくても大丈夫。重要な血管は傷つけてないわ。……まだ」
 
 まだ?
 
「死ぬっ。死ぬーっ!」
 
「まだ元気ね。アナタのそういう『血の気』が多いところは、好きよ。さあさ。次はどこが良いかしら。足首? 太もも? わきの下? こめかみというのも素敵だわ」
 
 比較的、動脈が斬り易い部位である。
 
「ふ、ふざけっ――!」
 
「えっ……? まさか……首筋? 首筋がいいのね? そう。そこまで言うのなら止めはしないわ」
 
「い、いや、違っ」
 
「いいわ。一緒に咲かせましょう。真っ赤な真っ赤な、大輪の薔薇を……! ハァハァ」
 
 マリアは、二つ名のごとく頬を薔薇色に染めた。
 口元を三日月型に歪めて、荒く息を吐き出している。
 
 ……目が完全に、アッチの世界へイってしまっていた。
 
「「「「(怖っ!)」」」」
 
 スススス。
 
 俺たちはより一層距離をとる。
 
「(おいニナ。こういう人ならこういう人と……)」
 
「(わらわも城で数回会っただけじゃから、こんな人物とは……)」
 
「(あわわわわ……)」
 
「(止めるべきか否か。しかし凄まじい剣の冴え……!)」
 
 約1名、思考のベクトルが違う気がする。
 
 ……お。
 背後から、人の気配。
 振り返れば、20代前半と思われる1人の女性が、つかつかとこちらに歩いてきていた。
 目が合うが、特にリアクションはなく、彼女はすぐに視線をマリアの方へと動かした。
 
「そこまでにしてください」
 
 凛とした声が、場を治める。
 またも新たな乱入者だ。
 
 人間種族には珍しくない、茶色がかった金髪は、肩口で綺麗に切り揃えられている。
 
 手に持つ指揮棒にも似た杖は、もしや魔法の杖だろうか。
 ローブ風の衣装からして、魔法使いの可能性は高い。
 
 毅然とした様子はいわゆる「女性らしさ」を薄め、中性的な印象を与える。
 が、ローブを内側から押し上げるソレの存在感は、彼女が間違いなく女性であることを示す。
 
 俺は特に大きいのが好き、という訳ではないのだけれど。
 どうしても一瞬目がそこにいってしまうのは、男の本能である。
 
 彼女は気性を表すかのような切れ長のツリ目で、マリアを冷静に睨みつけた。
 
 マリアは不満げな顔で乱入者を見る。
 
「……ベル。もうちょっとだけ、いいでしょう?」
 
「ダメです」
 
「あん、いけず」
 
 キン。
 
 彼女はそう言いながらも、大人しく剣を鞘に納めた。
 
「「「「い、今だ!」」」」
 
 アレハンドロ一家が親分に群がり、全員で巨体を持ち上げた。
 そして一目散に走り去る。
 
「「「「覚えてろっ!」」」」
 
 非常にありきたりな捨てゼリフと共に。
 
 ズダダダダダ…………。
 
 騒々しい連中が去って、酒場の前には荒れたテーブルと俺たちと、マリアとベルと呼ばれた女性だけが残された。
 
「(……ど、どど、どうするんですか)」
 
「(どうするったって……なぁ)」
 
「(拙者らに選べる手段は多くはない)」
 
「(背に腹は、というやつじゃな……)」
 
「(で、でででも)」
 
「さて、皆さん?」
 
「ひゃい!」
 
 呼びかけるマリアに、ラティだけが声を裏返して返答する。
 
「約束通り、お茶でもいかが?」
 
 そう言って酒場を目線で指し示した。
 
「え。いや酒場は……」
 
 お茶はともかく、酒場に入るのはすごく嫌だ。
 
「まさか、約束を破ったりは…………しないわよね?」
 
「「「「ご一緒します」」」」
 
 だから嬉しそうな顔で剣に手を掛けるのはやめて欲しい。
 

 
「ベルナと申します。職業は魔法使い。一応、不本意ながら、ロサ・マリア・デ・ロス・アンヘレス海賊団の船員でもあります。本当に残念なことに」
 
 昼間からそれなりに人が多く、ざわざわと騒がしい酒場の席にて。
 
 最後の乱入者――ベルナさんから自己紹介があった。
 とても嫌そうに眉根を寄せて、所属を述べている。
 
「船員だなんて謙遜しないで、副船長って名乗っていいのよ?」
 
「絶対に断る」
 
 マリアの言葉を強く否定するベルナさん。
 なんとなく、2人の関係がわかる一幕である。
 
「俺はリュースケ・ホウリューインだ。で、こっちが」
 
「紹介はいりません。ニナ様のことはマリアから聞いていますし、ジパング出身のAランカー、ナツメ・ヒイラギはそこそこ名が知れていますから」
 
「へぇ。そうなのか」
 
 ニナを見るとミルクをちびちび飲むのに夢中で、話を聞いていない。
 ナツメは平静を装っているが、名が知れていると言われて口元が緩みかけている。
 
「あのー。私のことは……?」
 
「……ああ。そういえば知りませんね。興味もありませんが」
 
「そ、そうですよね……。すみません……」
 
「いや、謝らんでも」
 
 哀れラティ。
 
「あら。ワタシは興味あるわよ? 獣人とはあまり縁がないし、なかなか可愛らしい顔をしてるもの」
 
「え"……」
 
 うふふふ。と、危険な視線をラティに送るマリア。
 口元を引き攣らせて少し椅子ごと下がるラティ。
 
「アナタのお名前は?」
 
「ら、ラティですけど……」
 
「そう。ラティちゃん。いい名前ね」
 
「あ、ありがとうございます」
 
 彼女の瞳に宿る光が、徐々に危険度を上げている気がする。
 ラティはもう涙目だ。
 
「そのくらいで、よしてください」
 
「あら、妬いてるの? ベル。勿論、アナタの事も好きよ。特にそのたわわな……たわわなっ」
 
 マリアは鼻息荒く、手をにぎにぎさせてベルナさん(の胸)ににじり寄る。
 
「寄るな変態(ズビシ!)」
 
「あん」
 
 ベルナさんは手に持った細い杖でマリアの頬を打つ。
 しかしマリアは嬉しそうだ。
 
「ももも、もしや、その、ロサ・マリアさんは、そそ、そういう趣味の方なんでしょうか……?」
 
 ラティが激しくどもりながら訊ねる。
 
「違うわ。ワタシはレズではないの」
 
「ほっ……。そ、そうですか」
 
「ええ。ワタシはバイよ」
 
「え"っ」
 
 にこやかに言い切ったっ!
 
「……加えて言うなら、SでMで血液に性的興奮を覚えるド変態ですね」
 
「ええっ!?」
 
「やだベル。そんなに褒めないで」
 
「褒めてない」
 
「リュースケ。バイとはなんじゃ」
 
「ニナは知らなくていいことだよ。ほら。俺の分も飲んでいいから」
 
「おお。うむ。もらう」
 
「……ニナ様がリュースケ君のミルクを……ハァハァ」
 
「自重っ!(ズビシ!)」
 
「あん」
 
「?」
 
 コップを両手で持ちながら、首を傾げるニナ。
 
 こんな教育に悪い人見たことない……。
 
「ごほん。とにかく、本題に入ろうか」
 
「なんかもう他を当たった方がいいような気がしてきたけどな」
 
 ナツメが咳払いで空気を払拭し、本題を切り出した。
 
「拙者たちは、ジパングに渡る船を捜している。マリア殿の船が、最も安全に渡航が可能だと聞いたのだが」
 
「へぇ。ジパングにね」
 
 わざとらしく呟くマリア。
 あの情報屋と関わっているのなら、無論このことは知っていたはずだ。
 
「いいわよ。乗せても」
 
 そしてあっさりと頷いた。
 
「む? よいのか?」
 
「ええ。勿論ですニナ様。ただし条件がひとつ」
 
 ……まあ、タダでとはいかないか。
 
「条件、ですか?」
 
「そう、その条件とは……。ラティちゃんがワタシの相手を一晩勤めること」
 
「ええーーっ!?」
 
「違う(ブスリ)」
 
「あ痛。ベル、さすがに刺すのは痛いわよ。痛いのも嫌いじゃないけれど」
 
 この人堪えねぇ。
 
「条件は、渡航中の護衛です」
 
 変態を華麗にスルーして、ベルナさんが条件を告げた。
 
「護衛……というと? 他の海賊から護ればよいのだろうか」
 
「海賊なんて怖くもなんともありません。マリアはこんなのですがSランカーですから。相手は、魔物です」
 
 ほう。
 
「海の上にも魔物が出るのか?」
 
「数は少ないですが、ね」
 
「ジパング間航路で、ちょーっと、厄介な魔物の目撃証言があるの」
 
 さり気なく会話に復帰したマリア。
 
「や、厄介な魔物、ですか?」
 
 ショックから立ち直ったラティが、ビビりながら復唱する。
 
「そ。ワタシよりランクが高い魔物ちゃん」
 
「オーバーSランクの魔物……ってそれ、災害級じゃないですかっ!?」
 
「まぁねぇー」
 
 軽い調子で肯定するマリア。
 
 オーバーSランクの魔物と言えば、記憶に新しいのはガルムの森の魔狼ガルムだ。
 
 ガルムは『魔法防壁』っていう絶対防御ゆえに災害級だったが……。
 
「ほう……! 災害級か」
 
 案の定、ナツメは嬉しそうである。
 
「どのような魔物なのじゃ?」
 
「クラーケンと呼ばれる種族です。外見は頭足類に酷似していますが、船を海に引きずり込むほど大きい、とされています」
 
 実際に見たことはありませんが、とベルナさん。
 
「とーそくるい?」
 
「タコとかイカのことですよ」
 
「も、勿論知っておった。ラティを試しただけじゃとも」
 
 ラティがニナに頭足類について教えている。
 
「ワタシたちもジパングに運ぶ荷があるのだけれど、少々戦力に不安があるのよ」
 
「相互扶助、ということでどうでしょう」
 
 その条件なら、願ったり叶ったりである。
 クラーケンとやらが出る確率は、多分他の船でも変わらない。
 それならSランカーであるマリアと同乗できるのはこちらとしても非常にありがたい。
 
 ……彼女自身が危険だということを、考慮に入れなければ。
 
「そういうことなら……」
 
「た・だ・し」
 
 マリアが俺の返答を遮る。
 
「条件の前提条件。わかるわよね?」
 
 にこやかに微笑む、マリア。
 
「ふむ。つまり、拙者らが護衛足り得なければ、条件は満たされない、と」
 
「そ」
 
「ん? どういうことじゃ?」
 
「俺たちが弱ければ、いらないってことだ」
 
「なるほど」
 
 それを確かめる一環として、俺たちをアレハンドロ一家にぶつけたのだろう。
 
「さっきのアレだけじゃ、不満なのか?」
 
「……ふふ。そうね。ちょっとだけ欲求不満かしら」
 
 ぺろり、と、マリアは自分の唇を舐め上げた。
 
「よし、いけナツメ! と言いたいところだが……」
 
「む? 何だ? 拙者なら構わんぞ。むしろ是非手合わせを――」
 
「ナツメ今、得物ないしな」
 
「………………………………無念……(がくり)」
 
 忘れていたらしい。
 
 うーん。俺はあまり気が進まない。
 いっそ本当にラティを一晩あてがって……。
 
「リュースケさん? 今何か、不穏な事を考えませんでしたか……?」
 
「いや、何も」
 
「わ、わらわは無理じゃぞ。いろんな意味で」
 
「ふふ。さすがにワタシも、ニナ様に剣を向けられません。これでも騎士ですから」
 
 そういえばそうだった。
 12竜騎士(ツヴェルフ・ドラッケンリッター)……称号が泣いている気がする。
 
「ワタシはあの、白い方に興味があるわ」
 
 しろいかた? …………あ。
 
「もしかして、エレメンツィアか?」
 
「……おお。エレメンツィアか!」
 
「なるほど、彼女なら……」
 
「うむ。実力的には、申し分あるまい……拙者がやりたかったけど……」
 
 こちら側は同意。
 本人の意思はまだ聞いていないが、ニナが乗り気ならやるだろう。
 
「エレメンツィアさん、と言うの。綺麗な方だったわ。すぐ紹介して。今すぐに!」
 
「「「「興味ってそっち!?」」」」
 
「……(ズビシ!)」
 
「あん。冗談よ。じょーだん」
 
 絶対に8割方本気だった。
 
「よし……。エレメンツィア」
 
 ――シーン。
 
 あれ。
 ニナが鎌を袋から取り出して呼ぶが、出てこない。
 
「? どうしたエレメンツィア。出てきてくれんのか……?」
 
 ………………。
 
 かなり間を置いて。
 
「……はい。主」
 
 卓上に置いたはずの大鎌を手に、エレメンツィアが脇に出現した。
 
 ぎょっと目を見開いた客たちから注目を浴びる。
 
 が、エレメンツィアはそれには気をとめず、ツツツ、とさり気なく俺の後ろに移動した。
 
 ……? 珍しい反応だな。
 
「……どこから出てきたのかしら? 本当に興味深いわ。一度よく、調べさせて欲しいわね」
 
 「体の隅々まで。ハァハァ」と息を荒げるマリアを見て、エレメンツィアは酷く嫌そうな顔をした。
 
 ……どうやらニナに呼ばれても出てくるのを躊躇うほど、マリアのことが苦手らしい。
 
「マジックアイテム……ですか? でも意思を持ったヒトガタを生み出すアイテムなんて……それもこんなに精巧に……」
 
「ね? どこまで精巧にできているのか、確かめてみたいわよね」
 
「一緒にするな(ズビシ)」
 
 この2人の掛け合いも、見慣れてくると楽しくはある。
 
「エレメンツィア。マリアのヤツに、おぬしの力を見せるのじゃ!」
 
「…………わかりました」
 
「……そんなに嫌なら、無理はしなくていいのじゃぞ?」
 
「いえ……主の期待には、応えてみせます」
 
「ふふ。よろしく」
 
 物凄く嫌そうなエレメンツィアと、とても楽しそうなマリアの対戦が、こうして決められたのだった。
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