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第11話 飛躍
外壁に囲まれた城下町から外に出て、近くの草原地帯に今俺たちは立っていた。
ニナの分の荷物を俺が預かる。
3メートル程の距離を置いて、俺はニナと正面から対峙した。
「では、ゆくぞ?」
「ああ」
俺はゼロコンマ1秒たりとも目を離さない決意で、ニナの一挙手一投足に全神経を集中させる。
「……そんなにじっと見られるとやりづらいんじゃが」
「いいから、ほら」
「……うむ」
次の瞬間ニナは、やや小柄だが美しい白竜の姿に転じていた。
「……」
『……』
「どういうことだっ!」
『えっ!? 何がじゃ!?』
頭の中に直接響くような、竜型独特の声を聞きながら、俺は大いに悩む。
何故だ。
俺は動体視力には自信がある。
小学生の時に箸で蝿を捕まえるヤツをリアルにやって引かれた程だ。
その俺の目をもってしても、ニナの変身の瞬間を捉えることはできなかった。
指と爪が徐々に伸長し、腕が太くなるにつれ衣服が内側から圧迫される。
ビリビリと布が破れる音と共に、白い鱗が姿を現す。
背中からは翼爪が顔を出し、天翔ける翼が大きく拡がった。
と、こんな感じなるはずじゃないのか!
『リュースケ?』
だが実際はどうだ。
何の予備動作もなく、衣服が破れることもない。
一瞬というのも生ぬるい、衝撃的な速度でニナは変化を終えていた。
ニナという少女と、どこか別の場所いた白竜が瞬時に入れ替わったのだと言われたほうがまだ納得できる。
……む。入れ替わった、か。
あるいは、そうなのかもしれない。
普段姿を現していない方の肉体はどこか別の空間に隔離されており、持ち主の意思に従って任意に位相を入れ替え――。
『おい、リュースケ?』
「ん?」
『黙っておられると怖いんじゃが……。竜型のわらわは、どうじゃ?』
「ああ、いいんじゃね?」
『軽っ! 軽いわ! 悩んどったわらわが馬鹿みたいじゃわ!』
怒ったニナが俺の頭をカジカジとかじる。
甘噛み程度で、痛くはない。
「わかったわかった。綺麗だぞ、ニナ」
『そ、そうか? そうはっきり言われるのも照れるのう……』
ニナは尻尾をパタパタと振って喜びを表した……んだろう。多分。
「それじゃあ出発するか」
『本当にわらわの背に乗るのか?』
「ああ。嫌なら馬車でもいいけど」
『嫌という訳ではないが……。そのような事、見たことも聞いたこともないからのう』
「ほう? 普通は竜人が誰かを乗せて飛ぶことはないのか?」
『うむ』
なるほど。
竜人は異人種に敬われているらしいから、乗るとか乗せるとかって考えそのものが浮かばなかったのかもな。
「まあ物は試しだ」
俺はニナの頭を撫でてから、その背にひょいっと跨った。
「重くはないか?」
『平気じゃ』
ニナは俺を乗せたまま、トコトコと歩いて見せる。
重量的には問題無いらしいが、取っ掛かりも無いし掴むところも無いので、少々バランスが悪い。
一旦降りて、ニナと向き合った。
「なあ、首のとこに縄付けたら駄目か?」
『そんな馬みたいなの嫌じゃ』
ニナはぷいっとそっぽを向いた。
まあ俺もそれは何となく可哀そうだと思うので、俺の技術でカバーするか。
首に手を回してみたり、逆向きに乗ってみたり、足にぶら下がってみたりと乗り方の試行錯誤を繰り返す。
「お?」
『む?』
翼の付け根あたり。
若干細くなっているそこを、左右から両脚で挟むように掴むと、かなりがっちりと固定できた。
「行けそうだな。飛んでみてくれ」
『わかった』
ニナが両翼を大きく羽ばたかせる。
生まれた風圧が、草原の草花をざわざわとなびかせた。
ふわり、と、穏やかな浮遊感と共に地面が遠ざかる。
これは……想像以上に――。
『どうじゃ?』
「快適だ」
ニナはそのまま垂直に高度を高めていく。
この揺れの少なさは異常だ。
単に揚力とか、翼の筋力で生み出す風圧だけで飛んでいるとは到底思えない。
「どうやって飛んでるんだ?」
『? 見ての通り翼を動かして飛んでおるのじゃが』
どうも、自覚的に何らかの力を使っているわけではないらしい。
竜人に魔力は無いと言っていたから、魔法というわけでもないのだろう。
「……まあ快適な分にはいいか」
この世界に物理法則が通用するのかという疑問もあるし。
俺は荷物を落とさないよう抱え直した。
「よし。行こう」
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