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第15話 視えない未来と異世界人
「姫巫女じゃと? 『未来視』の現人神、キルシマイアか?」
ニナが目を丸くして女の子――キルシマイアを見つめた。
「はい。でも現人神なんて言われていますけれど、わたくしは普通の人間ですよ」
「何だ? 未来視って。まさか、未来がわかるとでも?」
本当に未来が視えるなら、それは確かに「現人神」の名に相応しいが……。
「そのまさかじゃ。あらゆる未来を見通すその力は、歴代最高の姫巫女じゃと謳われておる」
「いやいや。おかしいだろう。あらゆる未来を見通すんなら、何で今さっきこいつらに攫われそうになってたんだよ」
俺は倒れている2人のゴロツキを指差した。
本当に未来がわかってたんなら、こいつらに絡まれる事態は回避できたはずじゃないか?
……まあ、俺が助けることまで予知していたというのなら、話は別だが。
そんな感じでもなかったしな。
ニナは、「あ」と声を上げて、そういえば、何で? といった感じでキルシマイアを見て首を傾げる。
「それは……」
キルシマイアは悲しげに眉尻を下げた。
あ、やべ。
「い、いや。別に疑ってるわけじゃないんだけどね? ただ、何でかなーと思って」
慌ててフォローを入れる。
「ふふ。リュースケ様はお優しいんですね。……その件に関しましては、このようなところで軽々しく口にすることはできません」
キルシマイアは力無い笑みを浮かべる。
「その事も含めまして、落ち着いてお話ししたく存じます。よろしければ、神殿に一緒に来てはいただけませんか?」
俺はニナと顔を見合わせる。
キルシマイアのお誘いを受けるのはやぶさかではないんだが……。
「何で、俺たちに話すんだ? よくわからないが、そうそう口外できないようなことなんだろ?」
未来視があれば避けられる事態を、避けられなかった。
つまり、未来視が機能していないということ。
そんな重大そうな事について、部外者である俺たちが聞いていいのか?
「事は、リュースケ様にも関係があることなのです」
「俺に?」
「はい」
キルシマイアは真剣な瞳を向けてくる。
……厄介事レーダー、反応。
だが美少女の頼みは断れない。
「わかった、行こう。いいよな? ニナ」
「リュースケがそう決めたのなら、それでよい」
「ありがとうございます。では、転移しますね」
「は? 転移?」
キルシマイアが右腕を振ると、ローブの袖から棒状の何かが飛びだした。
――魔法の杖?
木製の柄の先に赤色の大きな宝石が付いたそれは、いわゆる魔法の杖にしか見えなかった。
「えいっ」
キルシマイアは可愛らしい掛け声と共に、杖を振る。
「!」
その瞬間、キルシマイアの体から、何か大きな力の流れのようなものを感じた。
直後、俺たちの足元に、光の線で描かれた魔法陣が現れる。
「リュースケ、ニナ、キルシマイアを私の部屋へ」
キルシマイアがそう呟くと、俺の視界は光に包まれた。
これは、俺が召喚されたときと同じ――。
気づけば、俺たちはどこかの一室にいた。
キルシマイアの呟き通りなら、彼女の部屋なんだろうけどね。
ベッドに本棚、クローゼットと一通りの家具は揃っているが、どれも飾り気のないシンプルなものだ。
「質素な部屋だな」
「恥ずかしいので、あまり見ないでくださいね」
「な、何を落ち着いて話しておるのじゃ! ここはどこじゃ! 今のは何じゃ!」
あ、やっぱり今のすごいことなんだ。
「ご心配なく。わたくしの魔法です。1度行ったところであれば、どこにでもすぐに行けるんですよ。あんまり遠いと、疲れちゃうんですけど」
魔法か。初めて見たな。
「むう。さすがは現人神キルシマイア……出鱈目な魔法じゃな」
「いえいえ。それほどでも。このような所で恐縮ですが、お好きなところにお掛けください」
自分はベッドに腰掛けながら、キルシマイアが促した。
俺は部屋をざっと見まわし、机とセットになっている椅子を1つ見つける。
キルシマイアと向かい合うように椅子を動かし、腰を下ろした。
そしてニナは、俺の左脚を跨ぐように、ちょこんと座った。
っておい。
……まあ嬉しそうだからいいか。
腹に手を回して支えてやる。
キルシマイアが微笑ましげに見ているのが気になるけど。
「さて。お話する前に、リュースケ様に確認したいことがあります。わたくしからお誘いしておいて、申し訳ないのですが……」
「何でも聞いてくれ」
キルシマイアは緊張しているのか、若干表情を強張らせた。
「では……。リュースケ様。貴方は普通の人間ではありませんね?」
「うん」
俺が答えると、キルシマイアは「ぽかーん」と口を開いた。
「おーい。みっともないぞ姫巫女」
可愛いけどね。
「……はっ。し、失礼しました。そんなにあっさり答えていただけるとは思っていなかったので」
キルシマイアは顔を赤らめて口を閉じた。
「おいおい。側室になるキルシマイアに、隠し事をするはずがないだろう」
「まだ諦めておらんかったのか……」
ニナが呆れたように呟く。
キルシマイアは緊張が解けたのか、花が綻ぶような笑みを浮かべる。
「うふふ。光栄です。是非とも、神聖皇帝陛下を説得してくださいね?」
「……善処する」
皇帝陛下かあ……。
マジでハードル高ぇよ、姫巫女。
「では、リュースケ様は何者なんですか?」
「俺は、異世界人だ」
告げると、キルシマイアは聞きなれない言葉に首を傾げながら、ゆっくりとその意味を咀嚼していった。
「異世界人……。こことは異なる世界の住人、ということですか」
「そうだ。このアホにノリで召喚されてな」
「阿呆とはなんじゃ! 阿呆とは!」
ニナが膝の上で暴れる。
頭を撫でてやったら、「ふにゃあ」と脱力して大人しくなった。
「召喚されたのは、8日前でしょうか?」
「いや、それより少し前だ。8日前は、俺とニナが白竜城を発った日だな」
「……なるほど。そういう事でしたか」
キルシマイアは、1人で勝手に納得していた。
「どういう事だったんだ?」
「今のわたくしは、未来を曖昧にしか読み取ることができません」
それでも十分すごいと思うけどな。
「その理由は、リュースケ様にあります」
「えっ!? 俺のせい!?」
おいおい。とんだ言い掛かりだぜ。
会ったのすら今日が初めてだってのに。
「正確には、リュースケ様がこちらの世界にいらっしゃったから、ですね」
「……あー」
なんとなく、わかってきた。
「つまりあれか。本来この世界にあるはずのない『俺』という要素が混ざることで、未来が不確定のものになった?」
俺が自分の推測を述べると、キルシマイアは驚きに目を見開く。
「え、ええ。わたくしはそう思います。未来視に詳しいわけでもないのに、さすがリュースケ様は聡明でいらっしゃいますね」
「ふ、まあな」
キルシマイアは感心している。
ニナは自分の事のように得意気だ。
未来視とか予言なんてものは、こっちじゃありふれた物語だというのは言わぬが花だろう。
「つまりミッドガルドの未来は、リュースケ様の行動次第で大きく変動するということです」
「すごく嫌だが、そうなんだろうな……」
異世界の異分子が混ざろうとも、例えば小石が1つ転がり込んだとて、未来に大きな変動はないだろう。
未来が視えなくなった――変わったということは、俺の存在は小石では済まないのだということ。
「リュースケ様が現れる前の未来は……」
世界征服急進派にせっつかれ、魔王がとうとう重い腰を上げる。
竜人・人間同盟軍と魔軍との、全面戦争が開戦する。
後に獣人も同盟に加勢するが、魔軍の圧倒的戦力を前に同盟軍は成すすべもなく蹂躙され、ミッドガルドの大地は鮮血に染まっていく――。
「それが、私の見た未来でした」
「なん、と……」
ニナが息を呑んで、腹に添えられた俺の手をぎゅっと掴んだ。
「ふーん……」
そう言われても、実感がわかない。
えらいこっちゃなーとは思うけどな。
「そんな暗い未来でも、視えなくなれば不安でした。ですがその原因がリュースケ様だったと知って、不安は希望に変わりました」
え?
キルシマイアはおもむろに立ち上がると、深々と頭を下げた。
「リュースケ様、どうかヴァルハラを、いえ、このミッドガルドを、貴方のお力でお救いください」
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