忍者ブログ
    ブログではなく、小説を連載しています。
目次
(06/03)
(06/03)
最新CM
プロフィール
HN:
雪見 夜昼
HP:
性別:
男性
自己紹介:
ネット小説とか書いてます。竜†婿は「小説家になろう」でも公開中です。
ブログ内検索
最新TB
[22]  [21]  [20]  [19]  [18]  [17]  [16]  [15]  [14]  [13]  [12
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

第15話 視えない未来と異世界人

「姫巫女じゃと? 『未来視』の現人神、キルシマイアか?」
 
 ニナが目を丸くして女の子――キルシマイアを見つめた。
 
「はい。でも現人神なんて言われていますけれど、わたくしは普通の人間ですよ」
 
「何だ? 未来視って。まさか、未来がわかるとでも?」
 
 本当に未来が視えるなら、それは確かに「現人神」の名に相応しいが……。
 
「そのまさかじゃ。あらゆる未来を見通すその力は、歴代最高の姫巫女じゃと謳われておる」
 
「いやいや。おかしいだろう。あらゆる未来を見通すんなら、何で今さっきこいつらに攫われそうになってたんだよ」
 
 俺は倒れている2人のゴロツキを指差した。
 本当に未来がわかってたんなら、こいつらに絡まれる事態は回避できたはずじゃないか?
 ……まあ、俺が助けることまで予知していたというのなら、話は別だが。
 そんな感じでもなかったしな。
 
 ニナは、「あ」と声を上げて、そういえば、何で? といった感じでキルシマイアを見て首を傾げる。
 
「それは……」
 
 キルシマイアは悲しげに眉尻を下げた。
 あ、やべ。
 
「い、いや。別に疑ってるわけじゃないんだけどね? ただ、何でかなーと思って」
 
 慌ててフォローを入れる。
 
「ふふ。リュースケ様はお優しいんですね。……その件に関しましては、このようなところで軽々しく口にすることはできません」
 
 キルシマイアは力無い笑みを浮かべる。
 
「その事も含めまして、落ち着いてお話ししたく存じます。よろしければ、神殿に一緒に来てはいただけませんか?」
 
 俺はニナと顔を見合わせる。
 キルシマイアのお誘いを受けるのはやぶさかではないんだが……。
 
「何で、俺たちに話すんだ? よくわからないが、そうそう口外できないようなことなんだろ?」
 
 未来視があれば避けられる事態を、避けられなかった。
 つまり、未来視が機能していないということ。
 そんな重大そうな事について、部外者である俺たちが聞いていいのか?
 
「事は、リュースケ様にも関係があることなのです」
 
「俺に?」
 
「はい」
 
 キルシマイアは真剣な瞳を向けてくる。
 ……厄介事レーダー、反応。
 だが美少女の頼みは断れない。
 
「わかった、行こう。いいよな? ニナ」
 
「リュースケがそう決めたのなら、それでよい」
 
「ありがとうございます。では、転移しますね」
 
「は? 転移?」
 
 キルシマイアが右腕を振ると、ローブの袖から棒状の何かが飛びだした。
 
――魔法の杖?
 
 木製の()の先に赤色の大きな宝石が付いたそれは、いわゆる魔法の杖にしか見えなかった。
 
「えいっ」
 
 キルシマイアは可愛らしい掛け声と共に、杖を振る。
 
「!」
 
 その瞬間、キルシマイアの体から、何か大きな力の流れのようなものを感じた。
 直後、俺たちの足元に、光の線で描かれた魔法陣が現れる。
 
「リュースケ、ニナ、キルシマイアを私の部屋へ」
 
 キルシマイアがそう呟くと、俺の視界は光に包まれた。
 これは、俺が召喚されたときと同じ――。
 

 
 気づけば、俺たちはどこかの一室にいた。
 キルシマイアの呟き通りなら、彼女の部屋なんだろうけどね。
 
 ベッドに本棚、クローゼットと一通りの家具は揃っているが、どれも飾り気のないシンプルなものだ。
 
「質素な部屋だな」
 
「恥ずかしいので、あまり見ないでくださいね」
 
「な、何を落ち着いて話しておるのじゃ! ここはどこじゃ! 今のは何じゃ!」
 
 あ、やっぱり今のすごいことなんだ。
 
「ご心配なく。わたくしの魔法です。1度行ったところであれば、どこにでもすぐに行けるんですよ。あんまり遠いと、疲れちゃうんですけど」
 
魔法か。初めて見たな。
 
「むう。さすがは現人神キルシマイア……出鱈目な魔法じゃな」
 
「いえいえ。それほどでも。このような所で恐縮ですが、お好きなところにお掛けください」
 
 自分はベッドに腰掛けながら、キルシマイアが促した。
 俺は部屋をざっと見まわし、机とセットになっている椅子を1つ見つける。
 キルシマイアと向かい合うように椅子を動かし、腰を下ろした。
 そしてニナは、俺の左脚を跨ぐように、ちょこんと座った。
 
 っておい。
 ……まあ嬉しそうだからいいか。
 腹に手を回して支えてやる。
 キルシマイアが微笑ましげに見ているのが気になるけど。
 
「さて。お話する前に、リュースケ様に確認したいことがあります。わたくしからお誘いしておいて、申し訳ないのですが……」
 
「何でも聞いてくれ」
 
 キルシマイアは緊張しているのか、若干表情を強張らせた。
 
「では……。リュースケ様。貴方は普通の人間ではありませんね?」
 
「うん」
 
 俺が答えると、キルシマイアは「ぽかーん」と口を開いた。
 
「おーい。みっともないぞ姫巫女」
 
 可愛いけどね。
 
「……はっ。し、失礼しました。そんなにあっさり答えていただけるとは思っていなかったので」
 
 キルシマイアは顔を赤らめて口を閉じた。
 
「おいおい。側室になるキルシマイアに、隠し事をするはずがないだろう」
 
「まだ諦めておらんかったのか……」
 
 ニナが呆れたように呟く。
 キルシマイアは緊張が解けたのか、花が綻ぶような笑みを浮かべる。
 
「うふふ。光栄です。是非とも、神聖皇帝陛下(おとうさま)を説得してくださいね?」
 
「……善処する」
 
 皇帝陛下かあ……。
 マジでハードル高ぇよ、姫巫女。
 
「では、リュースケ様は何者なんですか?」
 
「俺は、異世界人だ」
 
 告げると、キルシマイアは聞きなれない言葉に首を傾げながら、ゆっくりとその意味を咀嚼していった。
 
「異世界人……。こことは異なる世界の住人、ということですか」
 
「そうだ。このアホにノリで召喚されてな」
 
「阿呆とはなんじゃ! 阿呆とは!」
 
 ニナが膝の上で暴れる。
 頭を撫でてやったら、「ふにゃあ」と脱力して大人しくなった。
 
「召喚されたのは、8日前でしょうか?」
 
「いや、それより少し前だ。8日前は、俺とニナが白竜城を発った日だな」
 
「……なるほど。そういう事でしたか」
 
 キルシマイアは、1人で勝手に納得していた。
 
「どういう事だったんだ?」
 
「今のわたくしは、未来を曖昧にしか読み取ることができません」
 
 それでも十分すごいと思うけどな。
 
「その理由は、リュースケ様にあります」
 
「えっ!? 俺のせい!?」
 
 おいおい。とんだ言い掛かりだぜ。
 会ったのすら今日が初めてだってのに。
 
「正確には、リュースケ様がこちらの世界にいらっしゃったから、ですね」
 
「……あー」
 
 なんとなく、わかってきた。
 
「つまりあれか。本来この世界にあるはずのない『俺』という要素が混ざることで、未来が不確定のものになった?」
 
 俺が自分の推測を述べると、キルシマイアは驚きに目を見開く。
 
「え、ええ。わたくしはそう思います。未来視に詳しいわけでもないのに、さすがリュースケ様は聡明でいらっしゃいますね」
 
「ふ、まあな」
 
 キルシマイアは感心している。
ニナは自分の事のように得意気だ。
 未来視とか予言なんてものは、こっちじゃありふれた物語だというのは言わぬが花だろう。
 
「つまりミッドガルドの未来は、リュースケ様の行動次第で大きく変動するということです」
 
「すごく嫌だが、そうなんだろうな……」
 
 異世界の異分子が混ざろうとも、例えば小石が1つ転がり込んだとて、未来に大きな変動はないだろう。
 未来が視えなくなった――変わったということは、俺の存在は小石では済まないのだということ。
 
「リュースケ様が現れる前の未来は……」
 
 世界征服急進派にせっつかれ、魔王がとうとう重い腰を上げる。
 竜人・人間同盟軍と魔軍との、全面戦争が開戦する。
 後に獣人も同盟に加勢するが、魔軍の圧倒的戦力を前に同盟軍は成すすべもなく蹂躙(じゅうりん)され、ミッドガルドの大地は鮮血に染まっていく――。
 
「それが、私の見た未来でした」
 
「なん、と……」
 
 ニナが息を呑んで、腹に添えられた俺の手をぎゅっと掴んだ。
 
 
「ふーん……」
 
 そう言われても、実感がわかない。
 えらいこっちゃなーとは思うけどな。
 
「そんな暗い未来でも、視えなくなれば不安でした。ですがその原因がリュースケ様だったと知って、不安は希望に変わりました」
 
 え?
 キルシマイアはおもむろに立ち上がると、深々と頭を下げた。
 
「リュースケ様、どうかヴァルハラを、いえ、このミッドガルドを、貴方のお力でお救いください」
 
「……何ぃぃ!?」
PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
この記事へのトラックバック
この記事にトラックバックする:
忍者ブログ [PR]