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第21話 呪われた大鎌
高級宿「はじける若さ亭」は、1階は食堂兼酒場、2階は宿屋という典型的で庶民的な雰囲気を保ちながらも、夜は階段前と外にしっかりと警備員を配置する優良宿だ。
客室には落ち着いたデザインのそこそこ高そうな家具を配置。
料理もうまいし雰囲気もいい。
お高い宿泊費に見合った質の高いサービスが提供されている。
非常に素晴らしい宿だ。……ネーミングセンス以外は。
俺とニナは現在、昨日知り合ったラティ、ナツメと同じテーブルを囲んで朝食を摂っている。
「お姉さん、おかわり」
「あいよー!」
女将兼料理長のおばちゃん――種族は人だ――におかわりを頼む。
……お姉さんと呼ばないとブチギレるのだ。
多分実年齢は30代後半くらい。
「……余計な事考えると、おかわりは出ないからね」
「すんませんでした」
何でわかるんだ……。
「しかし、何度見てもすごい食べっぷりですね……」
積み重なった皿を見て、ラティが感嘆とも呆れともつかない吐息を零す。
「リュースケのおかげで、いくら稼いでも瞬く間に食費に消えていくのじゃ」
これまでの旅程で散々苦労したニナが横目で俺を睨む。
腹が減ってはうんちゃらほいなんだよ。
「はっはっは。よく食べるのは健康の証。よいことではないか」
「だよな。さすがナツメはわかってる」
「そういうナツメちゃんも、リュースケさん程じゃありませんけどよく食べますからね……」
ナツメの側にも、皿は積み重なっていた。
何でそれだけ食べて太らないんですか? 拙者その分体を動かしているから。わらわも割と食べるほうじゃが太らないのは体質か――。
と、女3人寄れば姦しい。
仲が良いのはいいことだ。
「ラティたちはラトーニュに来て結構経つんだよな」
「はい。と言ってもまだ3日ですけど」
「ここは難易度の高い依頼が多い。武者修行にはもってこいだ」
「って具合にナツメちゃんが気に入っちゃいまして。まあこれまで私の旅に付き合ってもらってましたから。今回は私がお付き合いです」
「なるほどな。俺たちもしばらくは滞在するつもりだ」
おば(ギロリ)お姉さんが運んで来た料理をつつきながら、そろそろいいかと頃合いを見て、本来の目的に沿った探りを入れる。
「ところで、最近前線の方はどうなってるのかね」
「魔国とヴァルハラ連盟の戦争か……。膠着状態だったのだが、拙者が聞いたところによると、魔国側に不穏な動きありとのことだ。近々また小競合いがあるかもしれんな」
「魔国側というと、近くにあるのは魔導要塞ヴァルガノスだっけ?」
「はい。何でも新将軍が赴任したとかで。前にも増して好戦的になっているみたいです」
何か早々に有力な情報入っちゃったよ……。
ニナが、瞳を輝かせてこちらを見ている。
わかってるって。でもまだ情報が欲しい。
そんなアイコンタクトを交わしつつ、不自然でないように世間話を続ける。
「新将軍ね。まさか魔人四魔将軍ってわけじゃないよな」
「そこまではわからん。ただ魔軍の士気高揚ぶりを見るに、かなりの実力者であることは間違いないだろう」
「以前もお話ししましたが、魔王の娘じゃないかと噂されてますね」
是非とも手合わせ願いたいものだ、などと物騒な事を呟くナツメ。
そして俺のほうをチラリと見た。
「竜輔殿も、相当な武芸者とお見受けする。一手ご教授願いたいものだな」
謙虚な物言いだが、戦る気満々な眼光を向けられている。
おお、怖い怖い。
ナツメは、強い。身のこなしや威圧感でそれは十分に伝わるし、冒険者ランクはAだというのだから間違いなく強いだろう。
俺なんかまだDだ。
「気が向いたらな」
適当に答えて、残ったスープを飲み干した。
「やれやれ。柳に風だな」
ナツメも肩を竦めて食事に戻る。
「なんじゃ。やらんのか」
ニナはつまらなそうに唇を尖らせた。
ラティはそんな一瞬の攻防に冷や汗を流しつつ、いかにもひらめきました! とばかりに表情を明るくした。
「そうだ! リュースケさんたちに、例の依頼手伝ってもらったらどうですか?」
「……なるほど。その手があったか」
「何の事じゃ?」
話が見えない俺たちを代表して、ニナが問いかけた。
「実はギルドに気になる依頼があるのだが、最低4人以上のパーティでなければ受けられないのだ」
「私がギルドに入っても2人ですし。信用できる相手もいないしどうしようかと思ってたんですよ」
Aランクの依頼だ、とナツメ。
「報酬次第で考えなくはないが……俺はDランクだぞ? ニナはEだし」
「構わん。信用できる者で人数が集まれば、後は拙者が何とかしよう」
そう言ってナツメは不敵に笑う。
「どんな内容なんじゃ?」
興味を持ったらしいニナに問われて、ラティが細かく説明してくれた。
依頼達成条件は、近くのトイフェル山に陣取る「竜の翼」とかいう盗賊団を撃退ないしは撃滅すること。
盗賊団は山の中腹にある洞窟を占拠。
その洞窟では夜光石という特殊な鉱石が採れるそうで、盗賊団の狙いはその独占にあるという。
「地味に手堅い金稼ぎを考える盗賊団だな……」
「でも、夜光石が手に入らなくなってしまって、町の人は困っているんです」
夜光石は夜になるとうっすら発光する不思議な石で、この町の特産品として装飾品等に加工され売られている。
元々はこの町の商売を取り仕切っているマルゲラ商会が採掘を管理し、適度に市場へ流していたのだという。
「そのマルゲラ商会からの依頼で、報酬は白金貨80枚だ」
「はち!?」
「じゅう!?」
俺とニナが驚愕に目を見開く。
「何しろ夜光石はこの町の生命線ですから。マルゲラ商会さんも必死みたいですね。初めは金貨50枚くらいだったらしいんですけど、冒険者が何人も返り討ちにされて、徐々に報酬がつりあがったんです」
「1人頭白金貨20枚。十分すぎる額だな」
「うむ。それに『竜の翼』などという戯けた名前も気に喰わんしの」
「では?」
ナツメの最終確認に、俺とニナは頷いた。
で、俺たち4人は今、武器屋に来ていた。
何故かと言えば。
「武器? 俺はいつも素手だけど?」
「それはいかん。今回は手練の盗賊団が相手。武器は持っていたほうがいい。武器はいいぞ。特に太刀は。さあ、さあさあさあ!」
と武器マニアのナツメに引っ張って来られた訳だ。
当然太刀なんて売っていないが、短剣、片手剣、両手剣、槍、珍しいところでは槌、大鎌、斧槍なんかも売っている。
「ほほう。店主。中々の品揃えだな」
「ありがとよ。嬢ちゃんの持っている剣、珍しい形してるな」
「これはカタナというもので――」
ナツメと店主のおっちゃんの会話を尻目に、俺は武器を物色する。
武器なんて使ったことがないからなあ。
せいぜい喧嘩で木刀とか金属バットとか鉄パイプを振りました事がある程度で。
爺さんが趣味で剣道をしているのを見た事くらいはあるが、それこそカタナじゃなければ再現もできん。
「うーん」
「リュースケリュースケ。これなんかどうじゃ?」
「リュースケさんにはこれが似合うと思います」
ニナが持ってきたのは、巨大な大槌。
ラティが指差したのは、おどろおどろしい邪気を纏った、妖しく光る大鎌。
「ニナはともかく……それが俺に似合うというのはどういう意味かな?」
「えっ!? いやあ。何となくイメージで、ですね……」
「面白いこと言うなあ。ラティ」
「痛たたたたた! 骨が! 頭蓋骨がへこみますぅ!」
涙目になったところでラティをアイアンクローから解放した。
俺はニナに渡された大槌を右手で持ち上げる。
ブンブン!
こういう試し振りのためだろう。広く造られた店内で大槌を振りまわす。
「なんかしっくりこないな。あんま格好良くないし」
「ふーむ。そうじゃのう」
気づけば、店内がしーんと静まり返っていた。
ラティ、ナツメ、店主、そして何人かの客が、俺を茫然と眺めていた。
「あれ? 何この空気?」
店主がようやく口を開く。
「あ、あんちゃん、その槌、重くないのか? そいつぁほとんど、飾りみたいなもんだったんだが……」
「ん? まあ普通に重いけど?」
ブンブン!
「それにしては軽々と振りましているな……片手で……」
とはナツメ。
「え? 重いっちゃ重いけど、これそこまで重い?」
持ってきたニナに、槌を返した。
「むんっ」
ブンッブンッ。
ニナは両手を使って、なんとかかんとか槌を振りまわした。
振った後よろよろと数歩よろける姿が可愛らしい。
ふうと息を吐いて、ニナは槌を床に下ろす。
「竜人のわらわでもこんな感じじゃからな。人にとってはかなり重いと思うぞ?」
「そ、そうか」
迂闊だった。
別に実力を隠すつもりはないが、ナツメがいかにも戦ってみたいという顔でこちらを見ているし……。
「おほん。ところでこの鎌、何か滅茶苦茶黒いオーラを感じるんだが」
咳払いをして、誤魔化すように店主に尋ねた。
「ああ。それな。以前来た魔人が買い取って欲しいというから買い取ったんだが……」
魔人の天才鍛冶師、ヴァルガラムの作品。
技巧の粋を凝らし、折りたたみ収納を可能にした逸品。
複数の希少金属を混ぜ合わせる業で創られたその鎌は、まさしく常軌を逸した切れ味を持つという。
そのあまりの切れ味に持ち主は魅了され、何かに憑かれたように人を斬ることに執着する。
数多の血を吸った大鎌は、いつしか「血濡れの大鎌」と呼ばれるようになった。
「何!? これがかの有名な血濡れの大鎌かっ!」
ナツメが興奮した様子で鎌に駆け寄る。
有名なんだ。つかありきたりな名前だな。
「おい嬢ちゃん、迂闊に触るんじゃねぇぞ! 呪われた武器だ。魅入られたら人を斬るまで止まらねぇぜ」
鎌に触れようとしたナツメの手がピタリと止まる。
手出したり引っ込めたり、あうあうと逡巡して結局やめたようだ。
「無念……。拙者はその魔に魅入られぬ自信がない……」
うん。それ正解だと思う。何となく。
「つーかそんなもんを堂々と置いておくなよ……」
「いやつい、自慢したくて」
おいオヤジ。
「……ほー……」
あ、なんかニナがキラキラと目を輝かせてブラッディサイスを見ている。
「リュースケ!」
「駄目だ」
「……まだ何も言うておらんぞ」
「とにかく駄目だ」
ニナが「うー……」と涙目で見上げてくるが、さすがにコレは駄目だろう。
「欲しい欲しい欲しいのじゃー!」
「駄々をこねるな。いいか、よく見てろよ」
「へ?」
俺はおもむろにラティの手を掴むと、ブラッディサイスの柄を握らせた。
「「「「あ」」」」
ナツメ、店主、ニナ、それと関係ない客も声を上げる。
「ちょ、何するんです……! …………ケー!」
鎌を振りかぶってラティが俺に斬りかかってきた。
来るのは分かっていたので難なく躱す。
ドス! ビシッ!
「きゅう」
鎌が深々と床に突き刺さるの横目に、ラティの首筋を手刀で叩いて気絶させた。
「刈るための鎌で突き刺すとは……怖ろしい武器だな。な? 危ないだろ? だから諦めろ」
「むう……わかったのじゃ」
「こらこらぁ!? 竜輔殿!?」
「あんちゃん……鬼畜だな……てか床……」
3者3様の反応。
ナツメにこっぴどく叱られた。
すぐに起きたラティにも涙目で怒られた。
しかし半分冗談だったんだが、呪いって本当にあるんだ……。
まあ魔法があるんだから呪いがあっても、って。
「あ」
「ん? どうしたのじゃ?」
「呪いが魔法と同種のものなら……あるいは……」
ブツブツと言いだした俺を、全員訝しげに見ている。
「店主!」
「お、おう。何だ」
「この鎌はいくらだ」
「「「ええ!?」」」「買ってよいのか!?」
「可愛いニナの頼みだからな。値段次第では買ってやろうじゃないか」
「やったのじゃー!」
「ちょ、あんちゃん。アンタ自分で呪いを証明したじゃないか。本気か?」
「まあな……で、いくら?」
「……白金貨5枚」
「ああ? ざけんな。こんな実用性皆無の武器がそんなにするかよ?」
「実用性皆無だからだよ。美術品、骨董品としての価値があるんだ」
「だからって白金貨5枚はないだろ。どうせこんな呪われた武器、他に買い手はつかないぞ? せめて――」
値切りに値切り、泣きだす店長をさらに追い詰めて白金貨1枚――金貨10枚――で購入した。
喜んで鎌に近づこうとするニナの襟首を掴んで止める。
「もう買ったからな? 返さないぞ?」
「さっきからどうしたのだ、竜輔殿」
俺の妙な態度に、ナツメが首を傾げる。
俺は精神を集中させて、床に突き刺さる鎌に右手を向けた。
「――出ろ、ヤミ」
俺の右手からヤミが迸る。
突然の現象に、ニナ以外ドン引きした。
黒いヤミが鎌を覆ったところで、俺はヤミを消し去った。
「な、何ですか? 今の?」
ラティがびくびくしながら呟いた。
俺はてくてくと鎌に近づいて、おもむろにそれを手に取った。
「「「あああ!」」」
「…………ふむ。成功みたいだな」
俺は鎌をぶんぶんと振ったりくるくると回したりして感触を確かめる。
「ほら」
ニナに渡す。
ニナは子供のように歓喜して、鎌をぶんぶん振り回し始めた。
「な、どういうことだ……」
唖然として、店主が目を見張る。
「竜輔殿、今のは」
「ナツメとラティには説明するさ。出よう。俺の武器はやっぱいらない」
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