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(06/03)
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雪見 夜昼
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ネット小説とか書いてます。竜†婿は「小説家になろう」でも公開中です。
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第46話 永久氷晶

 あの熱い戦いから1週間が経過して。
 俺は今……ダラダラしていた。
 
「ほげー……」
 
 ベラールの村の中央広場にあるベンチっぽいものに横たわり、少年少女たちと遊びまわるニナを、のんべんだらりと眺めていた。
 
「竜輔殿」
 
「ん?」
 
 どこからか寄ってきたナツメが、眉根を寄せながら話しかけてくる。
 
「何だ?」
 
「何だ、ではない。竜輔殿は強者と戦う喜びに、努力を重ねる楽しさに気がついたのではなかったのか」
 
 どうやら、あまりの怠けっぷりに文句を言いに来たらしい。
 
「明日からやるよ。明日から」
 
「こらっ! それはやらないヤツの常套句だろう!」
 
「だってめんどくさい」
 
「……はぁー……」
 
 眉間を揉むナツメ。
 人間、そう簡単に変わりはしないよね。
 
「んな事より、そっちはどうなんだ。刀、手に入りそうか?」
 
 ナツメのコテツ(偽)は、あの戦いで折れてしまった。
 貿易商でもあるナラシンハのつてで、代わりの刀を探してもらっているらしい。
 と言っても、時折来る商人に心当たりがないか聞いているだけだろうが。
 
「いや。やはりミッドガルド大陸で、特にこのような西の端で刀を見つけるのは難しいようだ」
 
 ナラシンハに預けているのか、今は刀を差していない自分の腰を見て、ナツメは寂しそうに呟いた。
 
 一応、欠けた刀の破片は集めたようだが、打ち直そうにも大陸の鍛冶の主流は、鋳型(いがた)に溶けた金属を流し込み固める、鋳造(ちゅうぞう)方式。
 それに対して、熱した金属を槌で打ち、素材の密度と強度を高めつつ、目的の形に整えていくのが、鍛造(たんぞう)方式だ。
 
 刀と言えば典型的な鍛造による生産物であり、大陸の鍛冶とは相性が悪い。
 
「まージパングとはまともに貿易がないみたいだから難しいかもな」
 
「うむ。いっそ一度ジパングに戻った方が早いやも…………ふむ」
 
 ナツメは唐突に考え込む。
 
「(そうか……それも悪くない……)」
 
「ん? 何だって?」
 
「いや。何でもない。……では、拙者は鍛錬に戻る。竜輔殿も、あまり怠けすぎないように」
 
「へーへー」
 
 歩き出したナツメを、ひらひらと手を振って見送った。
 再びニナたちへ目を向ける。
 
「やー!」
 
 パコーン。
 
 一人の少年が、置かれた木片を蹴り飛ばしていた。
 
「な……また、負けたじゃと!?」
 
「ねーちゃん、よえー」
 
「よわいねー」
 
「よわいよわいー」
 
「ぐぬぬぬぬぬ……」
 
 ニナたちは俺が教えた『缶ケリ』で遊んでいた。
 蹴ってるのは缶じゃなくて、木片だけど。
 
 鬼はニナ。単純なので、すぐ裏をかかれて木片を蹴られていた。
 
「リュースケー!」
 
 涙目で俺に駆け寄るニナ。
 
「はいはい。俺がオニやるから泣かないの」
 
「おお、にーちゃんやるのか」
 
「りゅーにーちゃんやるの? やったー!」
 
「みんなゆだんするな! にーちゃんはてごわいぞ!」
 
 子供たちもわらわらと集まってくる。
 
「フハハハ。小童(こわっぱ)ども。リュースケに勝とうとは100年早いわ!」
 
「だから何故ニナが威張る」
 
 身体を起こし、立ち上がる。
 
「さて……」
 
 俺は近くの民家の陰から覗いているヤツに、声を掛ける。
 
「おーい、ラティ。お前もやろうぜ」
 
「ふぇ!?」
 
「ラティ、おったのか?」
 
「あれ、ラティじゃん」
 
「はやくきなよー。ラティ」
 
「とろいぞラティ」
 
「ちょ、みんな、何で私は呼び捨てなんですかっ!?」
 
 子供たちに呼び捨てられるラティ。
 しかし……。
 
「うぅ……」
 
 顔を赤くして、もじもじと悶えるばかりで出てこない。
 
「はいはい。俺に惚れちゃったのはわかったから、早く来いって」
 
「ほほほ、惚れてませんよ! なな何言ってるんですか!」
 
「あんなこと言ってるぞ」
 
 俺は子供たちに話を振った。
 
「えー。ラティ、バレてねーとおもってんのかよ」
 
「どうみても、りゅーにーちゃんのこと、すきだよね」
 
「ひゅーひゅー。らぶらぶだー」
 
「らぶらぶー」
 
 子供たちにからかわれて、ラティの顔がさらに濃い赤に変わる。
 
「うぅぅぅ! こ、こらー! 大人をからかうんじゃありませーん!」
 
「ラティがおこった!」
 
「にげろー!」
 
「わー!」
 
「待ちなさーい!」
 
 缶ケリのはずが鬼ごっこに変わっている。
 
「リュースケ」
 
 ニナがジト目を向けていた。
 
「ま、いいだろ? ラティならさ」
 
「……むう。仕方あるまい」
 
 不満げにしながらも、ニナはやれやれと肩をすくめた。
 
「ちょ、そこ! 勝手に決めないでください!」
 
 ラティが足を止めてこちらに向き直る。
 
「何を?」
 
「な、何って……それは……だから……」
 
 にやにや。
 
「うぅぅ……。もう!」
 
「ははは」
 
 ベラールは今日も平和である。
 

 
 竜輔が力将ガルデニシアを下し、中立の町ラトーニュからチコメコ・アトル大森林へ移動して。
 さらにはそこでロボを止めたり神と対峙している間に、他の勢力もそれなりの動きを見せていた。
 

 
 魔導要塞ヴァルガノスに魔力が7割方回復し、一時荒れた国内も落ち着いてきた頃。
 
「また、世界征服をやめろ、か?」
 
 力将を辞してから、時折訪ねてきてはそう告げる娘に、魔王ガルガディスは辟易する。
 
 ここは魔王城、玉座の間。
 父と娘以外には、玉座の傍らに知将ベリアルが無言で立っているだけで、他に人影はなかった。
 見た目にはそれほど年の差を感じない親子だが、実際には2000歳以上離れている。
 
「そりゃお前……ダメだろう」
 
「そう」
 
「そうって……今日は随分あっさり納得するではないか」
 
「これは、できたらでいいって言われた。だから、もういい」
 
「言われた、ねえ」
 
 ガルガディスは笑みを浮かべる。
 逆にベリアルは、眉間に皺を作った。
 
「ガルデニシア」
 
「……?」
 
「お前、例の男に惚れたか?」
 
「……?」
 
「いや、だからな」
 
「……?」
 
「もういい……。お前にまともな反応を期待した俺様が馬鹿だった」
 
「父様、馬鹿なの?」
 
「やかましいわっ!」
 
「???」
 
「ええ。この方は、とても馬鹿です」
 
「そう」
 
「そう、じゃないっ! まったく……魔王を敬わんか、お前ら」
 
 ここぞとばかりに便乗するベリアルに、ガルガディスは溜息をついた。
 
「ガルデニシア。お前は他にやることはないのか?」
 
「ある」
 
「ほう。何だ」
 
「これ」
 
 バキャア!
 
 やにわに娘のアッパーカットを喰らって、魔王は玉座から浮き上がった。
 落下し、一度椅子に跳ねてから床に倒れ伏す。
 
 …………。
 
 しばらくの間、誰も何も言わない。
 
「何をするかぁぁぁ!!」
 
 がばりと起き上がり、ガルガディスは当然の怒りを吐き出した。
 
「だから、やること。魔法と、体、鍛えてる」
 
「だからって何故殴る!?」
 
「……父様なら大丈夫だと思った」
 
「信頼が痛い!」
 
 だが実際、元力将に本気で殴られても元気であった。
 ベリアルに冷めた目で見られていることに気づき、ガルガディスは咳払いをして玉座に戻る。
 
「あー。もうよい。下がれ」
 
「わかった」
 
 頷いて、ガルデニシアは玉座の間から退出した。
 
 再び、沈黙。
 
「効きましたか?」
 
 ガルガディスはベリアルに問われ、知らず顎を撫でていた手を止める。
 
「きかぬ」
 
「……フッ」
 
「鼻で笑いおったな、お前……」
 
 ベリアルの怜悧な美貌で蔑まれると、結構心に響く。
 ガルガディスはすでに慣れていたので平気だったが、別に嬉しくはなかった。
 
「まったく…………ぬう!」
 
 ガルガディスの雰囲気が変わり、視線を西の方角へと向けた。
 
「……?」
 
 ベリアルもまたそちらを見るが、別段いつもと変わったところはない。
 
「……やはり、ボケ――」
 
「それはもうよい」
 
 律儀に突っ込みを入れつつ。ガルガディスは立ち上がる。
 
「地下書庫に篭る。しばらく誰も入れるな」
 
「……」
 
「いいな」
 
「イエス。魔王(ロード)ガルガディス」
 
 ベリアルは急なお達しに礼で返し、扉へ向かうガルガディスを見送った。
 
「……ふむ」
 
 そしてさも当然のように、気配を殺してその後を追った。
 

 
 魔王(ジジイ)の去り際のあの嗤い。
 いつだったか、ジークがどうとか言っていた時と同じ顔だった。
 そして、姫様を倒した例の男について語るときと、同じ顔でもある。
 
 地下書庫の本棚の陰から、ジジイの行動を観察する。
 この書庫は限られた者にしか知らされていない、魔国にとって危険な情報も置かれた場所。
 にも関わらず「誰も入れるな」などと、わざわざ命令するとなれば。
 
 ジジイの足が止まり、壁際の本棚へ体を向けた。
 
 一冊の本をジジイが押し込むと、
 
 ――カチリ。
 
 何かが切り替わる小さな音が聞こえてくる。
 
 ――ゴゴゴ。
 
 本棚が扉のごとく壁側に向かって開いていく。
 やはり。何かあるとは思っていたが。
 壁の中は暗く、この位置から内部は見通せない。
 
 ――ゴゴゴ。
 
 ジジイが入ると、本棚は自動的に元に戻った。
 
「……」
 
 慌てず、動かずに待つ。
 きっちり30秒後、件の本棚の前に立った。
 
 確か、この本だったな。
 
 ――カチリ。ゴゴゴ。
 
 押し込めば、先ほどと同じように本棚が開く。
 奥は、長い階段になっていた。
 一本道であり、これを下ればジジイにばったり、という可能性が高いだろう。
 
「構うものか」
 
 そのときは、そのときだ。
 
「構え、阿呆」
 
 バシッ!
 
 後頭部をはたかれた。
 
「……いつの間に」
 
 何故、この先に行ったはずのジジイが、私の背後にいるのか。
 相変わらず、ジジイの化け物っぷりには舌を巻く。死ねばいいのに。
 
「まったくお前という奴は……。誰も入れるなと言ったはずだが」
 
「ええ、確かに。ですが『私も入るな』と聞いた覚えはありません」
 
「屁理屈を捏ねるな。……まあよい。興味があるなら一緒に来い」
 
「ほう。いいんですか?」
 
「ああ。どのみち、いずれお前には見せるつもりであった。もっとも、もし今、入るのを躊躇っていたら――殺していたかもしれんがな」
 
 ジジイの口元が、弧を描く。
 
「……ふん。そんな臆病者に育った覚えはありませんね。何しろ、育ての親が化け物だったもので」
 
「ククッ。そうだったな」
 
 半分以上が本気で構成された軽口を叩き合いながら、私とジジイは暗い階段に向けて一歩を踏み出した。
 

 
 カツン、カツン。
 
 ジジイが手に持った松明の明かり以外、無明の階段を2人で下る。
 
 カツン、カツン。
 
 石段を足裏が叩く音が、手狭な空間にこだましていた。
 
「で、先ほどは何があったのですか?」
 
「何のことだ」
 
「玉座の間で。西の方角を見たでしょう」
 
「ああ、ふむ。あれはな……」
 
 ジジイは、殴られた顎にまた伸びそうになった自分の手に眉をしかめる。
 
「神だ。降りたな、ミッドガルドに」
 
「! それは、以前言っていたチコメコ・アトルの小物ではなく?」
 
「桁が違う。おそらく、十天神。降りたのはほんの一瞬であったが……」
 
「十天神……! しかし、一瞬……?」
 
「一瞬も永遠も変わらない。そんな規格外に、心当たりはあるがな。クク」
 
 そしてその心当たりについては、話すつもりがないらしい。
 ジジイの秘密主義には困ったものだ。いつか殺す。
 
「それで、その事とこの地下に、何か関係が?」
 
「あると言えばあるし、ないと言えばない。神が動くのなら、こちらも相応の手札を切らねばなるまい?」
 
「……まさか、神と戦争しようとでも」
 
「ククク……ふはーはははは! 当たり前だ! 全世界は俺様のモノ。天空大陸とて例外ではないわ!」
 
「……」
 
 頭を抱える。
 ダメだこいつ。早く何とかしないと。
 
「怖気づいたか?」
 
「……別に。ただ、そう言うからには、手札とやらは、それなりなんでしょうね?」
 
「フッ……見ればわかる」
 
 終わりがないのかとすら思えた階段の、終端が見えた。
 地下室に通じているらしい、扉のない入り口から、僅かな光が漏れ出している。
 
「明かりが……?」
 
「クク……」
 
 足を止めないジジイに続いて、私はそこに足を踏み入れる。
 
 ――ドクン。
 
「なッッッ!?」
 
 思いの外、大きな空間がひらけて。
 
 そこに、ソレは在った。
 
 どうして、地下にこんな空洞が存在しているのかとか、あの狭い通路の中、どうやってソレを運び込んだのかとか。
 そんな些細な疑問は、すぐにどうでもよくなった。
 
 氷だ。
 
 離れて立っていても、ここまで冷気が漂って来るほどの、巨大な氷。
 その氷が発する微細な光が、太陽光の届かぬ地下室を仄かに照らし出している。
 
「美しいだろう。永久氷晶(エターナル・プリズム)と言うらしい。俺様の知る限り、人間の中では最高の魔法使いが、これを生み出した」
 
 確かに、美しい。
 氷は隅々まで澄み渡っており、一点の曇りもない。
 光を発する様など、一種神々しささえ醸し出す。
 これを人間の魔法使いが創り出したというのなら、成る程、そいつは天才だ。
 
 だが。
 
「そんなことはどうでもいい! アレは一体、何ですか!」
 
 何故、ここに来るまで気づかなかったのか。
 ソレから漏れ出す濃密な魔力に、冷や汗が浮かぶ。
 
 ――ドクン。
 
 そして、鼓動。
 非常に緩慢なリズムではあるが、ソレは確かに、生きていた。
 
 氷の中に、ソレはいた。
 
 女性、だろう。
 あまりに生物離れした気配だが、外見だけ見れば我々人類と違いはない。
 永久氷晶は美しいが、彼女がそこに在ることで、ただの飾りと化している。
 
 我々と見た目に違いがない、といったが……ある一点を除けば、という文言が抜けていた。
 
 彼女の背にあるそれは、翼。
 
 純白の(・・・)、翼だった。
 
「ああ。確かに。彼女の美しさに比べたら、このような氷は引き立て役に過ぎぬ」
 
「色ボケジジイ。そうじゃないでしょう。これは何かと聞いています」
 
 背中の翼は神の証か。
 しかし神であるのなら、その翼は黒。
 ……実際に見たことがあるわけではないが、書物にはそのように記されている。
 
「――『殺すことのできない怪物』」
 
「なっ……!?」
 
「そう言ったら、どうする?」
 
 ジジイを見れば、凄惨な笑みで彼女を見つめていた。
 
「『怪物』は、英雄ジークフリートが倒したのでは!?」
 
「殺すことのできない怪物を、どうやって倒すんだ?」
 
 にやにやと腹立たしく嗤いながら、ジジイが言う。
 
「…………本当なんですか」
 
「クク。どうかな」
 
 どうやら、本当らしい。
 このジジイ。とんでもないモノを隠し持っていやがる。
 
「……ハァー。『殺すことのできない怪物』は、貴方の別名ではないかと推測していたんですが」
 
「確かに、俺様はそう簡単には殺せないが……不死ではないぞ」
 
 不死ではない、というその言葉もやや疑わしい。
 
「これがジジイの切り札ですか……」
 
「まあ現状、彼女を利用する手段は皆無だがな」
 
「は?」
 
「見ていろ」
 
 ジジイが右手を、大きく振りかぶる。
 
「ぬぅん!」
 
 爆音、激震、そして反響。
 
「――っっっ!」
 
 魔王ガルガディスの拳を受けてしかし、永久氷晶には傷ひとつなかった。
 
「クックク。やはり、無駄か。素晴らしい魔法だ。封印、防御、気配遮断。そしておそらく時間凍結。さすがは――」
 
「……」
 
「ん? どうした」
 
 ゲシッ!
 
 無言で、ジジイに蹴りを入れる。
 
「痛っ!? 何故蹴る!?」
 
「やるなら、やると。鼓膜が破れるかと思いました」
 
 ゲシッ! ゲシッ!
 
「わ、わかった。悪かったから蹴るのをやめろ」
 
「……で、この使えない切り札で、どうやって神と戦うと?」
 
「なるようになる! ふははははは!」
 
「ジジイ……」
 
 結局、楽しければ何でもいいんだろう。
 
 永久氷晶を見上げる。
 
 長く艶やかな、ぬばたまの髪。
 閉じた瞼の奥には、何色の瞳が眠っているのか。
 
 悔しいが、ああ、本当に。
 彼女は、美しい。この世のものとは思えぬほどに。
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