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(06/03)
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ネット小説とか書いてます。竜†婿は「小説家になろう」でも公開中です。
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第52話 死神の輪舞曲

 アレハンドロ一家とひと悶着あった酒場の前は、今は誰もいないし、スペースも広い。
 誰もいない、といっても、酒場の扉や窓から、荒くれの船乗りたちが野次馬をしているが。
 マリアが誰なのか分かっているらしく、外に出てくる様子はない。
 
 その開けた空間で5メートルほどの距離を置いて、エレメンツィアと『薔薇色の』ロサ・マリアは向かい合っていた。
 俺たちは酒場側に並んで立ち、2人の対峙を見守っている。
 
「さあ、ワタシが勝ったら約束通り、その神秘の肉体を隅々まで……ハァハァ」
 
「……そんな約束はしていません」
 
 露骨に顔を歪めるエレメンツィア。
 蔑みの視線を受けて、マリアは嬉しげに体をくねらせた。
 
 何故喜ぶ。
 
「では……。両者、構えてください」
 
 マリアのウザい反応を意図的に無視して、マリアいわく副船長なベルナさんが仕切る。
 
「……」
 
 エレメンツィアは無言で、大鎌を胸の前に掲げる。
 
「ふふ」
 
 マリアは不敵に笑いながら、片手剣を鞘から抜き放ち、切っ先をエレメンツィアに真っ直ぐ向けた。
 
 マリアの剣は胸の高さで、地面に対してほぼ水平に構えられている。
 元の世界で言えば、フェンシングの構えに近いだろう。
 半身の姿勢――体はほぼ、真横を向いている。
 首から上、それに剣とそれを握る右腕だけが、エレメンツィアに向けられていた。
 
 トーン、トトーン。
 
 不定期なリズムで、ステップを踏んでいる。
 これは割合どっしりと構えるフェンシグとは、大きく異なる。
 
 彼女の剣は片手剣といえど、現代競技としてのフェンシングに使う、フルーレとかエペとかいう剣と比べれば遥かに重い……ハズだ。
 詳しくは知らないけど。
 
 まあつまり、長く構えていると腕が疲れてしまうのではなかろうか。
 故に、短期決戦型の構えなのでは、と推測する。
 所詮素人の考えなので、隣にいるナツメに確認してみた。
 
「おそらく、その通りだろう」
 
「じゃが、その割には……」
 
「……ええ、動きませんね」
 
 固唾を呑んで見ている俺たちだが、2人は睨みあったまま、攻撃に移ろうとしない。
 
「……」
 
「……」
 
 トーン、トトーン。
 
 微動だにしないエレメンツィアと、軽くステップを踏み続けるマリア。
 片や無表情に、片や微笑んで。
 
 そして先に動いたのは、マリアだった。
 
「っふ!」
 
 高速の突き。
 
 いわばそれだけだが、マリアの派手な赤髪を見失いそうな速度。
 瞬く間もなく距離が詰まる。
 
 ギィンッ!
 
 肩口に突き出された鋭い切っ先を、大鎌の刃の背の曲線が、余裕を持って受け流す。
 
「ワオ。やるぅっ!」
 
 楽しげに笑いながらも、マリアは立て続けに突きを放つ。
 
 ギギギィン!
 
 先ほどより速度を増した3連突き。
 それもまた、無表情のままエレメンツィアは受け流す。
 
「まだまだ!」
 
 ギギギギィン!
 
「これなら!」
 
 ギギギギギギィン!
 
「アハ、アハハハハハ! マリア式百烈突き! なんてね!」
 
 ギギギギギギギギギギギギギギギギ!!
 
 突きは、止まない。
 
「こ、これは!」「おお……!」
 
 ナツメが興奮した様子で身を乗り出し、ニナも瞳を輝かせた。
 
「あ、あれ。剣が分裂して……」
 
 視力はかなり良いものの、動体視力はそうでもないラティが、目をこする。
 
「……驚いた。あんな特殊な武器でよく……」
 
 ベルナさんはマリアにではなく、その攻撃を凌いでいるエレメンツィアに瞠目しているようだ。
 
「……手が疲れそうな様子はないな」
 
 やっぱり所詮素人意見だった。
 
「腐ってもSランクじゃな。いろんな意味で腐っても」
 
 ニナに激しく同意しつつ、戦いの行方を見守る。
 
 ギギギギギィンッ!
 
「アハハハッッハ!」
 
 笑い続けたために、マリアの呼吸が一瞬、乱れた。
 
「ふっ!」
 
 隙とも呼べないような僅かな隙を、エレメンツィアは見逃さない。
 回数を数えるのも馬鹿らしい突きの合間を縫って、受け流した勢いのまま、鎌の柄の部分が斜めに大きく跳ね上がる。
 
「……!」
 
 咄嗟に背筋を大きく反らしたマリアの顎先を、柄の先が掠めた。
 
 驚きながらも、マリアは突いていた剣を引き戻すが、今度はエレメンツィアが反撃を許さなかった。
 
 跳ね上げた鎌をそのまま回転。
 反り返るマリアに、下から刃が斬りかかる。
 
 ギャリッ!
 
 かろうじて剣で受けるが、
 
「はぁぁぁ!」
 
 気勢を上げてエレメンツィアが鎌を上に振り切ると、勢いに押されたマリアは、後方へ大きくよろけた。
 
 返す刃がマリアに迫る。
 
「……アハ!」
 
 トンッ。
 
 慌てる様子もなく、マリアは軽く地面を蹴った。
 
 ヒュン!
 
 押されるに逆らわず後ろへ跳んだマリアは、紙一重で大鎌をやり過ごす。
 
 間髪を入れず、エレメンツィアが追い立てる。
 
 斜めに振り下ろされた大鎌は、やや歪な円を描く軌道で旋廻。
 360度を一瞬で消化し、三度刃はマリアを襲う。
 
 ギキッ!
 
 先程とは立場が逆転し、マリアが剣で受け流した。
 しかし動かずに、とはいかず、横にステップを踏みながらの回避だ。
 
 振り切って終わり、ではなく、エレメンツィアは鎌をバトン回しのようにくるくると輪転させる。
 
 ヒュン。
 ギィン!
 
 旋廻する大鎌を、マリアは独特のステップで躱し、流す。
 
「何と、見事な足捌き……!」
 
 ナツメも、マリアのステップに注目している。
 
 エレメンツィアが不動に受け流していたのに対し、マリアは足を使って攻撃を捌いていた。
 
 しかし。
 
 ヒュン。
 
「あら」
 
 ヒュン、ガキッ!
 
「これは」
 
 ヒュン。
 
「お返しってこと?」
 
 ヒュン……ヒュン…ヒュン、ヒュン、ヒュンヒュンヒュヒュヒュヒュ!
 
 廻転は、止まない。
 
「……死神の輪舞曲(ジ・エンド・ロンド)、とでも」
 
 微かに口角を上げながら、エレメンツィアが呟いた。
 
 技名を宣言するとか中二病クサいのに、エレメンツィアがやると様になる。
 
 ヒュヒュヒュガキキキヒュキキィンッ!
 
 止まらない斬撃をしかし、マリアは無難にいなす。
 
「アハハ! これ以上は本気になっちゃいそう……!」
 
 三日月型に口端を大きく吊り上げながら、マリアは強く石畳を蹴りつけ、エレメンツィアから距離をとった。
 
 無論、逃がすまじと、エレメンツィアも地を蹴るが、
 
「必殺、マリア式投剣術ー!」
 
 マリアは引いたと見せて、すぐさま逆足でブレーキ、反転。
 突進しながら、自らの武器を『投てき』した。
 
「なっ……くっ!」
 
 ガキィン!
 
 まさか唯一の得物をここで投げてくるとは思わず。
 エレメンツィアは珍しくも驚愕をあらわにしながら、マリアの片手剣を上方に弾いた。
 
「もらったっ!」
 
 ドン!
 
「ぐっ……!」
 
 マリアはそのまま突っ込んで、手を巻きつけるようにタックルをかます。
 
 ドサ!
 
 エレメンツィアを押し倒し、マリアは、
 
「ああ! 至高の感触! ワタシもう死んでもいい!」
 
 もふもふもふ!
 
 エレメンツィアの胸元に顔を押し当てて、ぐりぐりと頭を擦り付けていた。
 
「「「「「……」」」」」
 
 あ、ダメだ。今全てが台無しになった。
 
「何てうらやま……ねたましいことを!」
 
「いや竜輔殿、それは言い直せておらんぞ」
 
 間違えた。
 
 エレメンツィアはしばし茫然。
 徐々にその顔から血の気が失せて蒼く染まり、
 次いでブツブツと、真っ白な肌に鳥肌を立てた。
 
「……き」
 
 き?
 
「きゃあああああ!!」
 
 ボグシッ!
 
「あべしっ!」
 
 悲鳴を上げたエレメンツィアの右拳が、マリアの左頬に突き刺さった。
 
「!? え、エレメンツィアが……!」
 
「悲鳴を上げて……」
 
「『殴った』!?」
 
「うははははは!」
 
 俺、ナツメ、ラティが衝撃を受けて目を見開き、なんかツボに入ったらしいニナが涙を浮かべて大笑いした。
 
 ドサリ。
 
 宙を舞ったマリアが、落下。
 
 ピクピクと気色悪い痙攣を繰り返してから、ゆらり、と上半身だけを起こす。
 
 そして鼻血を垂らしながら、いい笑顔で親指をビシリと立てる。
 
「……合格よ。ナイスパンチ、あーんど、ナイスおっぱ……(がくり)」
 
 力尽きて地に伏す彼女を、哀れむ者はいなかった。
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