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(06/03)
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ネット小説とか書いてます。竜†婿は「小説家になろう」でも公開中です。
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第12話 英雄、英雄を知る


 広大な森林地帯と、それを切り拓いて造られた街道を遥か眼下に、俺たちは天を行く。
 しかし空の旅は快適だが、ひとつ重要な問題点がある事に気がついた。
 
「雨が降ったらどうしよう……」
 
『確かに……。これ程の距離を飛んだ事はなかったから、気づかんかったのう』
 
 ニナが言うには、竜型で濡れても人型に戻れば乾いているとのことなので、ニナは問題ない。
 俺もレインコートのようなものがあればいいのだが、御者を雇って馬車で行くと思ったのか、城で用意してもらった荷物には入っていなかった。
 
 幸い、今は晴天だ。
 地球で言えば太陽に相当する天体が、進行方向、南の空に高く昇っている。少々眩しい。
 
そんなアレコレを話しながら、俺たち――というかニナ――はそれなりの速度で飛行している。
 時速30~40kmといったところだろうか。
 自動車や電車での移動に慣れた日本人からすれば、体感としてはそう速くは感じない。
 だが馬車の速度はだいたい時速10km~20kmくらいだと聞いた事があるので、それに比べればかなりの速さだ。
 
 とはいえ、地図によれば白竜城はドラッケンレイでも最北端に当たる。
 位置関係的には、人の領域に辿り着く前に蒼竜城(ブラオ・ドラッケンブルグ)緑竜城(グリュン・ドラッケンブルグ)の城下を経由するのが無難だろう。
 というか、経由しなければ俺は死ぬ。
 
「腹減った……」
 
 食料の入った荷物を見つめる。
 
『駄目じゃからな』
 
「わかってるよ」
 
 食料は計画的に消費しなければならない。
 わかってはいても、燃費の悪い俺の身体は栄養分を欲していた。
 
「竜の肉ってうまいのかな……(ボソ)」
 
『リュースケ!? わらわは食べ物ではないぞ!?』
 
「冗談だ」
 
『本気の波動を感じたが……』
 
 食べられるのを怖れたか、ニナはにわかに速度を上げた。
 
『ん?』
 
「どうした」
 
『何かおる』
 
 ニナの視線を追うと、まだかなり先だが、確かに街道に何か見える。
 
「馬車……だな」
 
『よく見えるのう……。竜人のわらわでもしかとは見えぬのに』
 
「あれは……成程。お約束だな」
 
『おやくそく?』
 
 馬車は、四足歩行の大きな生物の群れに囲まれていた。
 狼のようにも見えるが、その毛色は漆黒。
 体長は3メートルから4メートルはあるか?
 
 距離が縮まり、ニナもその姿を確認したようだ。
 
『魔物! 黒狼(こくろう)じゃ! 街道までは滅多に出てこない種なんじゃが……
 
 ひーふーみーの4匹か。
 
「強いのか?」
 
『群れをなしているので厄介じゃが、1対1なら一般的な竜人の方が強いな』
 
「よし、食う……助けるぞ!」
 
『今、食うと申したか?』
 
「下降!」
 
『助けることに異存はないが……』
 
 ニナは黒狼の1匹を目がけて一気に滑空する。
 俺は風圧に目を細めた。
 ニナの爪が黒狼に届く寸前、体を宙に躍らせる。
 
 俺は別の1匹、蒼い髪の男が組み合っていた黒狼に、勢いのまま飛び蹴りをかます。
 
 ドゴン!
 
「ギャウン!」
 
 黒狼は悲鳴を上げて地面を転がり、そして舌をだらんと垂らしたまま動かなくなった。
 
「結構堅いな……おいしくないかも」
 
 大地に降り立った俺は、目を丸くしている男をチラリと確認してから、ニナの方に振り返る。
 
 白竜の力強い足に押さえつけられた黒狼も、すでに息は無いのかピクリともしない。
 
「グルル……」
 
 残った2匹は、警戒するように唸りながら後退る。
 
「……お前たちも、食われたいか?」
 
 ギロリと睨みつける。
 俺の言葉を理解したわけでもないだろうが、黒狼たちはビクリと体を震わせると、森の奥へと消えて行った。
 

 
 助けた男はマテウスという名の商人だった。
 蒼い髪に水色の瞳は蒼竜人の証。
 丸々と太ったお腹は商人の証?
 竜人の常で見た目は若いが、実年齢は43歳だそうだ。
 
「いやー。本当に助かりました。ありがとうございます」
 
「ひひふふは」
 
「気にするな、と言っておる」
 
 助けたというより、食料を確保したに過ぎない。
 俺は皮を剥いで丸焼きにした黒狼の肉を噛みしめる。
 
 もっきゅもっきゅ。
 
「……おいしいのですかな?」
 
 マテウスが興味半分、恐怖半分といった様子で尋ねてくる。
 
「……ごくん。筋肉質だから筋張っていて、堅い。調味料もないから大味だ。はっきり言って、まずい」
 
 ガブッ。ブチブチッ。もぐもぐ……。
 
「その割によく食うのう……」
 
 人型に戻ったニナは、呆れたように傍で見ている。
 
「あ、塩なら馬車にありますぞ。取って参ります」
 
「も、ふぁむいま」
 
「お、悪いな、と言っておる」
 
 もらった塩を振りかけて食べる。
 多少はましになったが、やはり美味いとは言えんな、コレは。
 
「ふー。食った食った」
 
 カラン、と最後の骨を放り捨てた。
 
「2匹を丸ごと……化物か……」
 
「凄まじい食欲ですな……」
 
「さて、助けてやった報酬の件だが」
 
「件と言われても初耳ですぞ!? とるのですか!?」
 
「当たり前だ」
 
「タダより高いものはないのじゃ」
 
 ニナ……良くも悪くも俺の相棒に相応しいヤツ。
 というかその慣用句こっちにもあるのか。
 
「心配しなくても大したことじゃない。マテウスは蒼竜城の城下町に向かってるんだろ? 俺たちも馬車に乗せてってくれ」
 
 俺は、いつの間にやらすっかり雲に覆われた空を見上げながら言う。
 マテウスの馬車には(ほろ)がついているので、雨が降っても大丈夫だろう。
 
「ああ。そのくらいでしたら」
 
 マテウスはほっとしたように了承した。
 

 
 小降りな雨の中、マテウスの幌馬車はゆっくりと前進していた。
 
「ええ!? リュースケ殿は人間なのですか!?」
 
「まあな」
 
 俺は腹ごなしに片手腕立て伏せをしながら、御者台のマテウスと話していた。
 ニナは俺の背中に座ってご満悦である。
 
「では、どうやって空から?」
 
「わらわの背に乗せておったんじゃ」
 
 何故かニナが得意気に語る。
 提案したのは俺だぞ。
 
「なるほど、背に……。そんな手があったのですなあ」
 
 マテウスは感心したように言った。
 
「まあ余程信頼しておる相手でないと、乗せる気はせんけどの」
 
「そうですな」
 
 竜人同士、頷き合っている。
 どうやら蒼竜人も飛べるようだ。
 
「しかし人間にしてはとんでもなくお強いですが……」
 
「生まれつきだ。気にするな」
 
「はあ」
 
 マテウスは納得していないようだったが、本当の事なのだから仕方がない。
 
「まるで、伝説の英雄のようですな」
 
「伝説の英雄?」
 
「おお。そういえばそうじゃのう」
 
 俺はニナに小声で聞いてみる。
 
「(何の話だ?)」
 
「(リュースケは知らんのじゃったな。ミッドガルドに伝わる、子供でも知っとるお伽噺じゃ)」
 
 
かつてミッドガルドを「殺すことのできない怪物」が襲った。
 
人の技術も、獣人の速さも、竜人の力も、魔人の魔力も、
 
怪物には通用しなかった。
 
世界の滅亡の危機に、立ち上がったのは1人の竜人。
 
卓越した力を持ったその竜人は、怪物を撃退することに成功する。
 
だがその代償に、英雄はミッドガルドから永久に姿を消すことになる。
 
 
「(それが英雄『ジークフリート』の伝説じゃ)」
 
 ジークフリートて。
 ドイツの英雄叙事詩「ニーベルンゲンの歌」の竜殺しの英雄と同じ名前かよ。
 竜人なのに……。
 
生まれながらに卓越した力を持っていたというのなら、確かに似ていると言えなくもない。
 
「リュースケ殿はきたる魔軍との戦争に、神が遣わした新たな英雄かもしれませんな」
 
「よしてくれ。英雄なんて柄じゃない」
 
 どちかといえば、魔軍の仲間になって世界征服した方が面白そうだ。
 
「リュースケ。何かよからぬことを考えておらぬか?」
 
「全然」
 
 ポーカーフェイス。
 
 パッカパッカパッカ。
 カラカラガタン。
 
 馬車はマイペースに、蒼竜城へと車輪を回す。
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