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(06/03)
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雪見 夜昼
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ネット小説とか書いてます。竜†婿は「小説家になろう」でも公開中です。
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第13話 水の都の夜陰に潜む


 蒼竜城とその城下町は、ミッドガルド最大の湖、エアグロス湖の湖上にあった。
いや、湖上というのはちょっと違うか。
蒼竜城のある蒼竜島(ブラオ・ドラッケン・インセル)と呼ばれる湖上の島は、正確には島ではなく、半島に当たる
 
石造りの町には、大小の運河が縦横に駆け巡っていた。
交通の主役はもっぱら手漕ぎボート(ゴンドラ)だ。
 
 地上の路地は迷路のように複雑に入り組み、地元住民でも頻繁に道に迷うらしい。
 そんな時はやむを得ず竜化して空から道を探すので、上空を見上げれば蒼竜の羽ばたく姿が見受けられた。
 
「わらわは蒼竜城へ挨拶に行って来る。行かぬのであれば好きに行動しておってよいが、迷子になるなよ?」
 
 数日かけて蒼竜城下町に到着した俺たちは、商人のマテウスと別れ、今は宿の一室にいる。
 城への挨拶なんて堅苦しいもんに付き合う気はないが……。
 
「それはいいが、ちょっと小遣いが少ない気がするぞ」
 
 俺が受け取ったのは、ドラッケン銀貨1枚。
 
 ちなみに、青銅貨10枚で銅貨1枚分、銅貨10枚で銀貨1枚分、銀貨10枚で金貨1枚分、金貨10枚で白金貨1枚分の価値だ。
 だいたい青銅貨1枚が10円くらいだと考えていい。
 
 白竜城で支給されたドラッケン硬貨は、金貨30枚分。
 その300分の1しか渡さないとは、あまりにケチではないか。
 
「リュースケに金を渡しても、どうせ全て食事に消えるに決まっておるからの。わらわが預かっておく」
 
 嫁さんに財布の紐を握られてしまった。
 
「ではの。戻るのは、明日の昼になるぞ」
 
 そう言って退室するニナの背を、少々恨みがましく見送った。
 
 窓の外を眺めれば、運河の水が陽光を反射してキラキラと輝いている。
 はあ。じっとしていても仕方が無いな。
 俺は木製窓のよろい戸を閉め、軽い財布を持って立ち上がった。
 

 
 事前にマテウスから聞いていた通り、蒼竜城下町の路地は激しく入り組んでいた。
 記憶力には自信があるが、油断すれば確かに迷子になりそうだ。
 
 すれ違う人々には、やはり蒼竜人が多い。
 だが白竜城の方と比べて、異人種もかなりの数を見かける。
 軽鎧を身に纏った者もいるが、あれが冒険者というヤツだろうか。
 
「ギルド、か」
 
 興味はある。
 大抵のファンタジーものにおけるギルドといえば、いわば仕事依頼の仲介・斡旋を行う組織だ。
 銀貨1枚という心許ない財布事情を抱えている今、覗いてみるのも一興か。
 白竜城下町にはないようだったが、ここには支部があるとマテウスも言っていたし。
 

 
 剣と、(くわ)のようなものが×字を描く特徴的なシンボルが描かれた看板。
 その下の扉を開け放つ。
ざわざわという冒険者たちの話し声が耳朶に響いた。
 
 手前のスペースにはいくつかの円卓が置かれ、竜人、獣人、人間が入り混じって卓を囲んでいる。
奥には、役所を思わせるカウンターと、複数の受付があった。
 
 俺は空いている受付に進むと、担当の蒼竜人のお姉さんに声を掛ける。
 
「ギルドについて聞きたいんだけど」
 
「はい、わかりました。ギルドについて、基本的なご説明を致しますね」
 
 事務的ながら、にこやかに対応するお姉さん。
 
「頼む」
 
「ギルドでは、仕事を依頼するか、あるいは受けることができます。内容は、法に触れないものならどんなものでも可能です」
 
「依頼はしないと思うから、受ける方だけ説明よろしく」
 
「はい。依頼を受けるには、ギルド所属の『冒険者』に登録する必要があります。登録条件は特にありません。名前をお聞きするくらいですね。ただし重複登録は禁止です」
 
「登録すれば、どんな依頼でも受けられるのか?」
 
「いいえ。依頼は難易度に応じてランクが設定してございます。また冒険者様ご自身にもランクがございまして、ご自分のランクに合ったご依頼のみを受けて頂きます。ランクは上から、S、A、B、C、D、E、F、G級となっており、登録当初は一部の例外を除いてG級からの開始となります」
 
「G級なら、G級の依頼しか受けられないのか?」
 
「いいえ。ご自身のランクよりも2つ上の依頼までなら受けられます。ただし自分より高ランクの方とパーティを組まれた場合、高ランクの方から見て2つ上の依頼まで受けられます。また、ランクに関わらず受けられる、フリーランクの依頼もございます」
 
「ランクを上げるには?」
 
「達成した依頼に応じて、冒険者証にスタンプが押されます。スタンプがいっぱいになったら、次のランクへと昇格されます」
 
「なるほど」
 
 長々と聞いたが、おおむね想像通りの内容だったな。
 
「よければ、登録したんだけど」
 
「わかりました。では、こちらの契約書の内容をご確認の上、サインをお願い致します」
 
 契約書の内容は簡単。
 ギルドは仕事を斡旋するだけで、その安全性や冒険者の生死に一切の責任を持たないが、よろしいか? ということだ。
 俺は名前を書いて、お姉さんに契約書を返す。
 
「リュースケ・ホウリューインさん。登録完了しました。こちらがG級冒険者証になります」
 
「どうも」
 
 受付のおねーさんから、紙でできた冒険者証を受け取る。
 
「冒険者証を完全に紛失すると、再度Gランクからの開始となりますのでご注意下さい。まめにギルドで控えをお作りになることをお勧め致します」
 
「了解。ありがとう。ついでに、短時間で終わるおすすめの依頼はないか? できれば面白いやつ」
 
「そうですね……」
 
 お姉さんは俺のわがままな要求にも真面目に応じ、少し考え込む。
 そして表情を輝かせて、1枚の手配書を取りだした。
 
「短時間で終わるかどうかは腕次第ですが、こちらなどいかがでしょうか」
 
「……『怪盗シュピーゲル』?」
 
 お姉さんによると、怪盗シュピーゲルは最近城下町を騒がせている盗賊なんだそうだ。
 
「毎晩のように現れるんですが、誰も捕まえることができないんです。捕らえたと思ったら幻のように消えてしまう。まるで鏡に映った虚像のようだと。それで誰が呼んだか――」
 
 怪盗「(シュピーゲル)」というわけか。
 怪盗シュピーゲルは自ら義賊を名乗り、悪徳業者や性悪官僚ばかりから盗みを働いているらしい。
 そうは言っても泥棒は泥棒。
 シュピーゲルの度重なる暗躍に、事態を憂慮した蒼竜城から、ギルドに依頼が下賜(かし)されたというわけだ。
 依頼内容は、怪盗シュピーゲルを捕らえる事。生死問わず(デッドオアアライブ)で。
 
「フリーランクの依頼なので、誰でも受けることができます。依頼主は蒼竜王様ですから、それなりの報酬ですよ」
 
「いかほど?」
 
「白金貨10枚です」
 
「引き受けた」
 
 即答。
 だって金貨100枚分ですよ?
 俺の小遣いの1000倍ですよ?
 
「はい。こちらが依頼証です。がんばってくださいね」
 
「ありがとうお嬢さん(フロイライン)
 
「どういたしまして。あ、パーティを組まれるのでしたら、何組か参加希望待ちのところがございますが」
 
「不要です。俺の活躍にご期待下さい」
 
 あまりの報酬に口調がおかしくなっている気がするが、まあいい。
 お姉さんの苦笑に見送られ、俺はギルドを後にした。
 
 クックック。
 義賊という名の偽善者め。
 我が野望(しょくじ)(いしずえ)となるがいい!
 

 
 深夜。
サラサラと流れる水音のみが、俺の鼓膜を震わせる。
 月明かりが照らす水の都は、一種幻想的な雰囲気を漂わせていた。
 
 俺は月影に煌めく運河を眺めながら、ただひたすらに耳を澄ませていた。
 
 ここは、とある政府高官の屋敷の裏手。
 石壁の影で闇に紛れる。
傍から見ても、人がいるとは気づけない位置だ。
 腕を組んで、冷たい壁に寄り掛かる。
 
 昼間行った情報収集の結果、怪盗シュピーゲルが狙う対象には、ある共通項が存在することに俺は気がついた。
 
 対象が悪人であり、金持ちであることは勿論のこと。
 問題は、盗み出されたモノにある。
 
 宝石だ。
 
 硬貨や美術品など、他の価値あるものも同時に盗まれてはいる。
 だが、全ての犯行において必ず盗まれているものは、宝石だけだった。
 
 偶然かもしれない。
 だがヤマを張るには十分な推測。
 俺は、城下でも有名な宝石蒐集家である、この高官の屋敷に張り込むことにした。
 
 張り込みを始めてから、はや2時間程が経過しただろうか。
 
 ――コト。
 
 ほんの些細な、気を張っていなければ気づかない程の、小さな物音。
 高官の屋敷の裏口から、怪しい人影が姿を現した。
 
 ちっ。
 出てきた(・・・・)、だと?
 
 心中で舌打ち。
 いつの間に侵入を果たしたのか。
 
 一手、出し抜かれた。
 だが――見つけたからには。
 
 俺に遅れること数秒。
 人影は動きを止めて、こちらを見た。
 
 気づかれたか。
 あるいは初めから……。
 
「はじめまして、怪盗シュピーゲル。俺の野望のため、お前にはお縄についてもらう」
 
 俺は壁から背中を離し、怪盗シュピーゲル(と思われる人影)と向き合った。
 
「……あらあら。今宵の狩人は、一味違うみたいね」
 
 意外なことに、女の声。
 その声に焦りは感じられず、むしろ状況を楽しんでいる事がありありと伝わってくる。
 
 女が一歩、前に出る。
 影が覆って判然としなかった怪盗シュピーゲルの姿を、路地裏に射し込む月光が暴きたてた。
 
 スラリとした長身の女。
 身体にぴったりと張り付くような薄手の黒い布地が、彼女のメリハリの利いた肉体を浮き上がらせる。
 タイツとまではいかないが、それに近い用途であることは一目瞭然だ。
 
 そしてその顔の上半分は、目の部分を除き、竜の翼を模したと思しきマスクで覆われている。
 流れるような蒼い髪は、彼女が蒼竜人であることを示していた。
 
 しかし……。
 
「その格好は、ちょっと、ないわ……」
 
「なっ……!」
 
 シュピーゲルがほんのりと頬を染めた。
 
「き、機能美と形式美を兼ね備えたこの格好の良さは、坊やにはわからないのよ」
 
「形式美ってことは、趣味ってことだろ? わかりたくもないわ……そんな露出趣味」
 
「誰が露出狂だってのよ! 全然露出なんてしてないでしょ!」
 
「いや、露出してるようなもんじゃね? 身体のライン丸わかりだし。恥ずかしくないの?」
 
 シュピーゲルは、口の端をピクピクと痙攣させる。
 
「ぼ、坊や。あなたは、少し痛い目を見たほうがいいわね? 目上の人は、敬わないとダメよ?」
 
「泥棒に言われても……」
 
「泥棒じゃないの。怪盗。か・い・と・う。そこのとこ、間違えないでちょうだい」
 
「まあそこらへんの職業意識はわからなくもない」
 
「わかってもらえて嬉しいわ。それじゃあ――眠りなさい」
 
 俺は右腕を頭の側面に掲げた。
 
 ズンッ。
 
 右腕で受けた存外重い一撃を、下半身に力を込めて受け止める。
 
「えっ!?」
 
 シュピーゲルの驚愕の声が、後ろから(・・・・)聞こえてきた。
 同時に、前方のシュピーゲルが溶けて消えた(・・・・・・)
 
「水で出来ていたのか。よくできたお人形だったな」
 
 俺は振り返って、身構えている本物の(・・・)怪盗シュピーゲルにニヤリと笑いかけた。
 
「どうして……!」
 
 彼女の声には最初のような余裕は感じられず、焦りが滲んでいた。
 
「簡単な事。俺はお前が屋敷に侵入した事に気づけなかった。にもかかわらず、出てきた事には気づけた。いや――」
 
 と、いうよりも。
 
「気が付くように仕向けられた、と言うべきか?」
 
 シュピーゲルが苦々しげに口元を歪める。
 
「それを偶然と思えるほどの楽観主義者ではないんでね。アレが囮だということはすぐに気づいた。まあ『虚像の怪盗』シュピーゲルっていう事前情報が無ければ危なかったが……」
 
 ありがとうギルドのお姉さん。
 
「そう。まんまと嵌められたのは、私の方だったということね。まさか水の魔宝石の力を見破られるなんて……。思えば私の格好を馬鹿にして挑発したのも、本物の私をおびき出すための罠だったのね」
 
「……え? あ、うん。まあ、そうかな……」
 
「憐憫の眼差しを送るなっ!」
 
 顔を赤くして怒るシュピーゲル。
 だってこの格好は、ねえ?
 
「……くっ。でも、虚像を見破られたからといって大人しく捕まる私じゃないわよ」
 
 シュピーゲルは俺に正面を向けたまま、じりじりと後退する。
 
「逃がすと思うのか?」
 
「捕まえられると思って?」
 
 ダッ!
 
 走り出したのは同時。
 シュピーゲルは真っ直ぐに運河へ向かって走る。
 
「飛び込む気か?」
 
 と呟いて、罠に嵌まったフリをしてやる。
 つくづく搦め手の好きな女だな。
 お前の目は、このまま逃げるのを良しとはしていないぜ。
 
 運河の(ふち)にギリギリまで迫ったところで、シュピーゲルは急ブレーキをかける。
 後ろ向きに跳び上がりながら体を捻り、走り寄って来た俺に体重の乗った(かかと)落としを仕掛ける。
 器用なヤツ。
 
 予想していなければ、アクロバティックな動きに翻弄されていたかもしれない。
 
 まさかこの動きを想定していたわけではないが、攻撃に転じてくることはわかっていた。
 俺は右の手のひらだけで、その一撃を受け止める。
 
 ガシ!
 
「なぁ!?」
 
 シュピーゲルの右足を掴んで、逆さまに宙吊りにする。
 
「は、離しなさい! この、馬鹿力!」
 
 暴れるシュピーゲルに、一言告げる。
 
「おやすみ。俺の白金貨」
 
 ぐいっと体を回転させ、シュピーゲルを放り投げる。
 ブン! ぽーい。
 
「きゃあああ!! 覚えてなさいよおぉぉぉーーー…………」
 
 どちゃ。
 
 壁にぶつかったシュピーゲルは動かなくなった。
 あ、死んではいないぞ。多分。
 
 俺は怪盗シュピーゲルを官憲に引き渡し、白金貨10枚を受け取ると同時に、冒険者ランクがFに上がった。
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