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第18話 暴食の秘密
「だふぁらまふぉううぉむほうはすうんあお」
「ふむふむ。なるほどのう」
「あの、わたくしには、何を言っているのかさっぱりわからないのですが……」
皇都ヴァルハラの大衆食堂。
俺たちはそこで食事を摂っている。
キルシマイアはこういった場所に来た経験がないらしく、時折落ちつかなげに周囲を見まわしていた。
当然、正体がバレないようにフードで顔を隠している。
ヴァルハラの民衆の間ではアイドルみたいな存在だからな。姫巫女は。
「……ごくん。つまり、『暴食』の魔法の黒いモノ……仮に『ヤミ』と名づけるが、あのヤミには魔法を無効化する、あるいは使えなくする力があるんじゃないかと思うわけだが、どうだ」
言い終えて、俺は空になった皿を食い終わった皿タワーに追加した。
給仕の女の子が慌てて皿を回収しに来る。
「あ、モルモルのカスレとバララ鳥のガランティーヌ、あとペルギヌの卵のキッシュ追加ね」
「は、はい」
ついでなので女の子に追加注文をした。
ヴァルハラは食文化の発展が著しく、多彩な料理を楽しむことができる。
そんな俺をキルシマイアは驚きつつも微笑ましく見守る。
ニナは慣れたもので、マイペースに肉料理をもきゅもきゅとつまんでいる。
「で? どうなんだ?」
「そうですね」
返答を促すと、キルシマイアが答えた。
「ヤミがガルムを覆った直後に、通らなかった攻撃が通った……。確かに、状況から考えれば、ヤミがガルムの魔法防壁をかき消したとは考えられます。ですが、魔法を使えなくするという推測は何を根拠に?」
「ガルムの魔法防壁は無意識に展開されてるんだろ? ヤミに覆われている間だけ魔法が無効ってことなら、そこから出たらまたすぐに防壁が張られるはずだ」
キルシマイアはなるほどと頷く。
「だから、永続的か、一時的かはわからんが、ヤミには魔法を無効化すると同時に使えなくする力があると思われる」
防御系魔法だけを無効化、という可能性も勿論ある。
だがこの世界の魔法は「攻撃」「防御」といった括りで分類されるものではない。
それぞれの持つ魔法属性に応じた魔法が発動し、その効果によっては防御にも使えるというだけのこと。
ならば、ヤミで無効化できる魔法は防御に適したものだけ、と考える方が、むしろ不自然。
「ってのが、俺の考察なんだが」
ミッドガルドの魔法について、俺は付け焼刃な知識しか持っていない。
なのでキルシマイアに意見を聞いて、暴食の魔法の力をしっかり定義づけておきたい。
「リュースケ様の説にはとても説得力がありますね。わたくしもそれで間違いないと思います」
うむ。そうだろうそうだろう。
「じゃがのう……」
魔法については門外漢ゆえに、黙って肉をつついていたニナが口を開く。
「何だ?」
「なんでそれが、『暴食』の魔法なんじゃ?」
「「あ」」
俺とキルシマイアが同時に声をあげる。
確かに……言われてみればそうだ。
「ヤミが魔法を食っているという解釈? いやちょっと苦しいか……」
首を傾げる。
キルシマイアは顎に手を当てて、何かを考え込んでいた。
「リュースケ様、ちょっと失礼します」
「お?」
キルシマイアが、熱を測るみたいに俺の額に手を当てた。
そして驚きの声を上げる。
「……これは……!」
「な、何だ? どうした?」
そんな反応をされると不安になる。
風邪だと思って医者に診てもらったら、その医者が「こ、これは!? いや、何でもない……」とか言い出したら不安になるだろう?
そんな感じだ。
そんな医者はいないだろうけど。
「……なるほど……それで『暴食』と……」
「いや1人で納得してないで教えてくれよ」
「はい。リュースケ様の魔力の量は、ガルムの森に行く前から、ほとんど変わっておりません」
「変わってない? それがどう……」
――そういうことか。
「……普通は魔法を使ったら、魔力が消費されて減少するはず、ということだな?」
「はい。現にわたくしは転移を繰り返したことで、かなりの魔力を消費しています」
つまり――。
「リュースケ様の『暴食』の魔法は、相手の魔法・魔力を喰らい、自らの魔力へと変換する魔法だと思われます」
つまり――魔力の残量がほとんど変化していないということは。
ヤミを生み出すことで、俺は魔力を消費する。
だがヤミは、ガルムの魔法・魔力を喰らい、俺の魔力へと変換する。
その結果消費した分の魔力はガルムから回収され、俺の魔力残量は変動しなかった。
さらに副産物的効果として、魔力を喰われたガルムは魔法を使うことができなくなる。
「――そういうことだな?」
「おそらく。……魔法使いにとって、これ程怖ろしい魔法はありませんね」
暴食の魔法の詳細が明らかになったところで、給仕の女の子が料理を運んできた。
礼を言って受け取る。
女の子が離れたのを見計らってから、キルシマイアはにこやかに告げた。
「これほどの力があれば、魔王の娘とて恐るるに足りませんね」
「ああ。任せておけ」
ハーレ……ゲフンゲフン! 世界平和のために、俺はやるぜ!
残った料理を平らげて、俺は給仕の女の子に声をかける。
「ダルモースのクルートを!」
「えー!? まだ食べるんですか!?」
女の子がびっくりして持っていた盆を落とす。
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