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第20話 新たな旅立ちと再会と出会い
ヴァルハラ宮殿の前で見送りの神殿騎士に囲まれて、俺は頭を抱えていた。
理由はもう……ね? わかるだろ?
「昨夜のリュースケ様は雄々しく、勇ましく……素敵でした」
キルシマイアが、顔を赤らめてそんなことを言う。
神殿騎士の嫉妬の視線は俺を射殺さんばかりだ。
うおおお! 俺の馬鹿っ!
どうして憶えていないんだっ!
「リュースケ……」
またやっちゃったの? と同情を込めて俺を見るニナ。
やめろ! そんな目で俺を見るな!
というわけで、神聖ヴァルハラ皇帝アレクサンドロス92世陛下から、魔王の娘及び魔王討伐の御下命を頂きました。
「わたくしは御一緒できませんが……」
涙目で俺を送り出そうとするキルシマイア。
いやー。そんなに行って欲しくないんなら俺ずっとここに……ダメ? ダメか。
わかったよ。行くよ。行きますよ。
「すぐに終わらせて、迎えに来るから」
「はい。お待ちしております」
せめて格好つけたことを言って踵を返す。
ニナも続く。
でも魔王とか無理だから。絶対無理。
1対1でも2000年以上生きてる化物に勝てる気はしないし、まして魔国全てが敵にまわるわけで。
魔人四魔将軍とかいるみたいだし。
まあ四天王なんてあれだ「ふ。奴を倒したからといって調子にのるなよ。奴は所詮、四天王最弱の男」とかそういうベタな奴らだろ楽勝だハハハハハ。
「……リュースケ……」
「違うぞ! これは涙じゃない! 目から汗がでたんだっ」
俺は某国民的人気アニメの、映画だと何故か良い奴になる肥満気味ないじめっこの名台詞を口走る。
こうして2度目の門出を経て、俺たちは中立の町ラトーニュへと旅立った。
中立の町、ラトーニュ。
国境付近に位置しており、度重なる魔国とヴァルハラ連盟の小競合いで、領土所有権がいったりきたりした結果できた町。
住民はどちらの属領であることも経験しており、どちらであっても一般人にはあまり関係がないことがわかっている(意外なことに、魔国の統治も横暴なものではないようだ)。
故にこの町では人と魔人が共存していた。お上の政治的対立などどこ吹く風だ。
人と魔人だけではない。
「全てを許容する」という土地柄、罪を犯して逃げ出した人、訳あって住んでいた地を追われた人などが集まり、今やラトーニュはあらゆる人種が生活する混沌の町と化している。
「そのせいで治安がいいとは言えないが、な」
俺は財布をスろうとした獣人男性の腕を捻りあげる。
ジタバタ暴れるので放してやると、一目散に逃げ出した。
おー。さすがに獣人。速い速い。
「よいのか?」
「キリがないしなあ」
今のでスリは5回目だ。
黒竜人と白竜人。
この町に似つかわしくないこの2種族の組み合わせは、スリ師には格好の獲物に見えるらしい。
俺は黒竜人じゃないけどな。
「耳が尖っているやつが魔人か?」
「そうじゃ」
少し意外だ。
魔人という語感から、もっとおどろおどろしい種族を想像いていたのだが。
とんがり耳の彼らを見ると、俺なんかはむしろ「エルフ」とかを連想してしまう。
耳が尖っている以外、我々と何程の違いも見当たらない。
少々、顔の彫りが深いくらいか。
「して、リュースケ。まずは宿か?」
「そーだな」
この町で集めたくもない情報を収集していくわけだが。
一朝一夕で見つかるものでもあるまいし、まずは拠点――宿が必要になるだろう。
ニナも先程まで飛んでいて疲れているだろうしな。
これまでの旅でわかったことだが、よほどの大都市以外、ミッドガルドは全般的に治安が悪い。
そのため宿なんかは頑丈な作りで、鍵もしっかりしているところが多い。
高い宿では独自に警備員を雇っているほどだ。
「俺やニナなら襲われても大丈夫だろうが……煩わしいからな。できれば警備付きの高級宿をとりたいところだ」
「そうじゃな」
それ以前に、王族であるニナが安宿では我慢できないというのもある。
野宿は我慢するのにな。
まあ金に困っているわけではないので、俺にも否やはないんだが。
きょろきょろとおのぼりさんのように周囲を見まわす。
このあたりは地面に布を敷いて商品を並べただけ、といったような簡素な商店が並んでいる。
宿とかはどこにあるんだろうか。
「あれ? あなた方は……」
「ん?」
声を掛けられて、俺とニナが立ち止まる。
声の主を見れば、茶色い毛並みの若い獣人女性。
それと連れなのか、後ろに目つきの鋭い冒険者風の女性がいた。
髪をポニーテールに結ったそのお姉さんは、軽そうな革鎧を着て、腰には特徴的な武器を下げているが、今はそれより。
「おお。貴女はいつぞやのネコミミさん」
「ねこみみ?」
ネコミミさんは首を傾げたが、すぐに人の良い笑顔を浮かべて挨拶をしてくれた。
「お久しぶりです」
「ああ。奇遇だな」
「……どういう関係なのだ?」
ネコミミさんの連れの女性が、男らしい口調で誰にともなく問う。
なので俺は正直に答えてあげることにした。
「ちょっと、触らせてもらった仲だ」
「ええっ!?」「な、何!?」「な……ああ。あの時の」
ネコミミさんと連れのお姉さんが同時に驚きの声を上げ、ニナは思い出したのか納得して頷いた。
「ラティ……お主……」
お姉さんがネコミミさん――ラティと言うらしい――をジト目で見る。
「ち、違います! 誤解を招くような言い方しないでください! 」
顔を真っ赤にして否定するラティさん。
「誤解も何も事実じゃないか。あの柔らかくて壊れそうな、それでいてしっかりとした弾力をも兼ね備えた魅惑の感触は、今でもこの手に残っている」
俺は手をにぎにぎと動かす。
「ラティ……」
連れのお姉さんの視線は、もはや冷たいを通り越し呆れを乗り越え、悲哀を込めた眼差しだった。
「もー!! 変な言い方しないでください!」
ラティさんが顔を赤らめたまま、ぽかぽかと俺の胸を叩く。
やー。可愛い人だなあ。
「リュースケ、そなたという奴は……。冒険者の方。こやつが触ったのはそこの獣人女性の、耳じゃぞ」
「………………耳? あ、ああ。そういうことか」
冒険者風のお姉さんはラティさんの肩に、ぽんと手を置いて、良い笑顔で言った。
「拙者はラティを信じていたぞ」
「嘘です! 絶対に嘘です!」
ふむ。拙者ときたか。
腰に差した太刀といい、この大陸では黒竜人にしかあり得ない黒い髪といい、このお姉さんは……。
「そっちの冒険者のお姉さんは、東方の出身なのか?」
「ああ」
「なるほど」
「何? その黒い髪、黒竜人ではないのか?」
ニナが驚いたように問いかける。
「この大陸では黒竜人しか黒髪はいないようだが、拙者の国では人間が皆黒髪なのだ」
「ほう。東方というと、ジパングの民か。初めて会った。そういえば、瞳も赤ではなく黒じゃな」
ミッドガルド大陸よりも、海を渡って東側。
ジパングと呼ばれる島国があることを知った時は、驚いたものだ。
かつての日本とよく似た文化を持つその島には、カタナという片刃の剣を使う「サムライ」と呼ばれる剣士がいる、と、旅の途中とある商人から聞いた。
まさか、髪が黒いところまで日本と同じとは思わなかったが。
あ。キルシマイアの巫女装束はジパングから伝わったのか?
大陸の東は魔国の領土が占めているので、ジパングとの国交はほぼゼロと言ってもいい。
それ故に、教育が一般人に行き届いているとは言い難いミッドガルドでは、ジパングの存在自体知らない人も珍しくない。
俺はたまたま商人に聞いたのと、日本に似ているということで好奇心から書物で調べただけだ。
「そういうお主もその髪の色。ジパングの出か?」
「んー。まあそんなようなもんかな」
「え? 貴方も黒竜人ではなかったんですか?」
ラティさんが目を丸くして驚いている。
「人間だよ。一応。リュウスケ・ホウリュウインだ。お姉さんには法龍院竜輔で通じるかな? 名字は仰々し過ぎるから、呼ぶならリュウスケでいい。よろしくな」
お姉さんだのお主だのと呼び合い続けるのも何なので、今更ながら自己紹介をする。
名前を告げる俺を見て、ニナも続いて口を開いた。
「わらわはニナ・ベラ・アドル……いや、ニナと呼んでくれ。見ての通り白竜人じゃ」
途中で名前の全てを伝えるのを諦めたニナ。
まあ王族ってのも一応隠したほうがいいから、結果オーライ。
「私はベラール族のラティです。私もラティでいいですよ。で、こっちが――」
「ナツメ・ヒイラギ……柊棗と申す。拙者のことも、ナツメと呼んでくれてかまわない」
「ラティにナツメね。おっけー覚えた。俺は美人の名前は忘れないから安心してくれ」
「び、美人だなんて」
恥ずかしそうに俯くラティ。ナツメも世辞はよせと笑いつつまんざらでもない様子。
実際、2人とも美人なのは本当だ。
「と、ところで、おふたりはラトーニュで何を?」
赤い顔を誤魔化すようにラティが質問してきたが、それに真っ正直に答えるのもいかがなものか。
「ま」がしっ。
絶対に口を滑らせるであろうニナの口は瞬時に塞いでおいて、俺は適当に理由をでっちあげる。
「何ということもないんだが、旅の途中で寄ってみただけだ。魔国に近いここなら、ギルドに面白い依頼もあるかもしれないしな」
俺の言葉を聞いて、ナツメがこくこくと頷いた。
「うむ。お主らも拙者と同じく、武者修行の一環ということだな」
武者修行?
ああ。魔国の近くで面白い依頼=魔物討伐という図式か。
「そういうラティとナツメはどうなんだ。というか2人はどういう関係なんだ?」
「ナツメちゃんとは、護衛契約をしているんです」
話を聞けば、ラティの戦闘能力はそれほどでもないらしく、旅のお供にナツメを雇っているのだということだ。
ナツメはラティの護衛がてら大陸を回って、武者修行中とのこと。
「雇われているとはいえ、ラティとはもう随分と長い付き合いになる。雇い主であり、仲間であり、友であるのだ」
ナツメの言葉に、ラティは照れながらはにかむ。
なんかいいなあ。この2人。
「目的はわかりましたが、おふたりはどういう関係なんですか?」
「婚約者じゃ!」
ラティの質問に、ニナが胸を張って答えた。
「え、ええー!? そ、そうだったんですか!?」
まだお若いのに……と何故か驚愕してブツブツ言うラティ。
「はっはっは。羨ましい限り。拙者らはずっと女2人で、男っ気などまったくないからな」
軽く笑い飛ばすナツメだが、その言葉にラティは「うぐっ」とダメージを受けていた。
「そういうことなら、キミタチも俺のハーレ……」
ズン!
軽い震動に、周囲の人々が何事かと慌てていた。
寸前まで俺の右足があった地面に、ニナの左足がめり込んでいる。
避けなかったら……折れはしないだろうがとんでもなく痛かっただろう。
「ニナ、軽い冗談だ。それに約束では……」
「わかっておっても、怒らずにはおれぬ乙女心なのじゃ!」
ニナはぷいっとそっぽを向いた。
やれやれ。
そのあまりに壮絶な嫉妬っぷりに、若干引き気味なラティと、かんらかんらと笑うナツメ。
「あ、ところでちょっと聞きたいんだが、この町でおすすめの安全な宿ってどこかな?」
何事もなかったように問いかける俺に、ラティは気を取り直して応対してくれた。
「それでしたら、私たちが泊まっている宿に空きがあったはずですよ。よければご案内しましょうか?」
「お、そうか。悪いけどよろしく頼む」
「はい!」
先導するラティとナツメに、俺とニナが続いて歩く。
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