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(06/03)
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ネット小説とか書いてます。竜†婿は「小説家になろう」でも公開中です。
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第48話 竜の都の座談会

 ギリギリギリギリ。
 
 硬いモノが擦れる不快な音が、耳に障る。
 
「うるさいぞ、ナラシンハ」
 
「呼びすてるなっ! ナラシンハ『様』、だっ!」
 
 ラティの父、ナラシンハの歯軋りだった。
 
 ベラールの村から、麓へ向かうための踏みなされた道。
 その入り口で、俺、ニナ、ナツメ……そしてラティの4人は荷物を背負い、村民たちと向き合っていた。
 
 彼らの先頭に立つナラシンハは、凄まじい怨念を込めて俺を睨みつけている。
 
 傍らに立つ奥さん……アミーシャさんは、その様子に苦笑していた。
 後ろの村民たちも、やれやれと肩をすくめている。
 
「お、お父さん。ごめんね……。わがまま言って……」
 
「い、いや、違うぞラティ。別にお前に怒ってるわけじゃないんだ」
 
「あなた。前のときとは違うのだから、今度は笑顔で送り出しましょう」
 
「う……うむ……」
 
「そうだぞナラシンハ。娘の門出を喜んで見送れよ」
 
「貴様には言われたくないわっ!」
 
 とことん嫌われたようだ。
 まあ理由はわかってるけど。
 
「ラティ……。旅に出るのは構わん。構わんのだが……この男だけはやめておけっ!」
 
「ええ!? だ、だから私は別に……!」
 
「……本当か? ほんとーーに、リュースケのことは何とも思ってないな?」
 
「だ、え、あ、その……」
 
 じーっ。
 
 ナラシンハをはじめ、ニナやナツメ、アミーシャや村民たち。そして勿論俺。
 この場の全員が、ラティの返答に注目していた。
 
「はう……」
 
 ラティは猫耳をたたみ、顔を真っ赤にして俯いた。
 
「なぁっ!?」
 
 ナラシンハは口をあんぐりと開き、娘とは逆に顔色を青くする。
 アミーシャさんはニコニコと笑う。
 ニナは仕方ないな、とでも言いたげに、腰に手をあてて軽く息を吐く。
 ナツメは目を閉じて軽く笑った。
 村民たちは口笛を吹きながらはやしたてる。
 
「ええい! だまれだまれ!」
 
 村民に怒鳴り散らしてから、ナラシンハが俺を睨む。
 
「……フッ」
 
 鼻で笑って見下してやった。
 
「き、キッサマーー! リュースケぇぇ!! こ、殺す! 殺してやるっ」
 
「挑発するな」
 
 ナツメが俺の後頭部をばしりと叩いた。
 
 「やめてくださいって」「勝てるわけないでしょ」と、村民に押さえつけられるナラシンハに、俺は笑いかける。
 
「冗談だって。義父さん」
 
「誰がとうさんだっ!」
 
 ばしり。
 
 またナツメにはたかれる。
 
「むう……。正妻はわらわじゃからな! ラティは3番目じゃぞ!」
 
「い、いえ、だから私は……! ……え……? 3番目?」
 
「さあ、行こうか!」
 
「うむ!」
 
「ああ! ちょ、ちょっと待ってください! 2番目って誰なんですか!?」
 
「リュースケっ! 次にここに顔を出したときが、貴様の最期だっ!」
 
「あらあら、まあまあ」
 
「やれやれ……。まあ、湿っぽい別れよりはいいかもしれんな」
 
 いろんな意味で賑やかな中、俺たちは旅立った。
 目指すは再び、人間の国。
 ミッドガルド大陸の南南西に位置する巨大な港湾都市、ポスクェである。
 

 
 『黒金の英雄』などと呼ばれ、いつの間にか有名人になっているとは露知らず、リュースケたちがチコメコ・アトルの大自然にまたぞろ挑みかかる頃。
 
 白竜城(ヴァイス・ドラッケンブルグ)では、王族による家族会議が開かれていた。
 

 
 白竜城の中庭。
 古の竜の加護により、外の寒気から守られたそこには、白竜城周辺ではあまり見かけることのない鮮やかな花々が咲き乱れる。
 
 その中心に据えられた丸いテーブルを、3人の竜人が囲んでいる。
 全員が全員、白金の髪に白磁の肌。そして黄金に輝く瞳を持つ。
 白竜人……それも色濃い血統を残す、白竜王の一族だ。
 
 ミッドガルドの最北端にあるこの城にさえも、『黒金の英雄』の噂は届いていた。
 
 カチャリ。
 
「……まさか、彼が本当にここまでやるとは思いませんでした」
 
 ティーカップをソーサーに戻してから発言したのは、一際目を引く美しい女性。
 白竜城の王妃。
 一部では影の支配者とも噂される、エルザ・フォン・ヴァイス・ドラッケンレイである。
 
「えっ。でも期待して送り出していたではないか。余も期待していたし」
 
 彼女の言葉に目を丸くするのは、冷ややかな美形ながら、温和な性格を持つ白竜城の主。
 白竜王、バルトロメウス・フォン・ヴァイス・ドラッケンレイだ。
 
「父上は少々、能天気が過ぎます」
 
 辛辣な言葉を吐き出す白竜人男性は、いずれは白竜王になるだろう、今は白竜城の第1王子。
 フェルディナント・フォン・ヴァイス・ドラッケンレイ、その人だ。
 
 その姿はバルトロメウスに生き写しだが、性格は彼ほど穏やかではない。
 普段は東の国境、黒竜城と魔国の隣接地帯に派遣されている白竜軍の、前線指揮をとっている。
 
「ひどいことをいう」
 
 フェルディナントの冷たい言葉に、バルトロメウスは困ったように苦笑した。
 
「母上は恐らく、ニナのためにその彼の事を認めただけでしょう。ニナはゲオルグを嫌っていましたからね。母上は昔から、ニナにだけは甘い」
 
 黒竜城の第2王子、ゲオルグ・フォン・シュヴァルツ・ドラッケンレイと、白竜城の第3王女であるニナとの婚姻がご破算になった事件から、まだそれほどの時は経っていない。
 
「彼自身の戦闘力に惹かれたのも嘘ではありませんよ。ただ……彼はあまり、魔王の娘の捜索に乗り気ではないとう気がしたのだけれど」
 
 勘が鈍ったかしら、と王妃。
 
「まだ、そのリュースケという人物が魔王の姫を倒したと決まったわけではありません」
 
「ええ、そうね……。まあ、ゲオルグ様との婚姻を破棄した上で、黒竜城の勢力圏から逃れられているのだから、どちらでもいいわ」
 
「ゲオルグ殿には、悪いことをした。黒竜城との関係もまた悪化したし……」
 
「それは僕がエミリアを娶れば、それで済む事です」
 
 エミリア・フォン・シュヴァルツ・ドラッケンレイ。
 黒竜城の第2王女である。
 
「ニナに甘いのは、エルザだけではないようだ」
 
「……」
 
 笑いながら言うバルトロメウスに、フェルディナントは無言で返した。
 
「ともかく一度、リュースケ殿とニナに接触する必要があります。事実の確認のためにも」
 
「……そのためだけに、わざわざ姉上を行かせたのですか?」
 
「事ここに至って、彼を軽視するわけにはいきません」
 
「余は、はじめから彼はやる男だと思っていたのだが……」
 
「……」
 
「……」
 
「……?」
 
 自分以外の沈黙の意味がわからず首を傾げた後、バルトロメウスは暢気にお茶を口に含んだ。
 
「(多分、虚勢ではなく本当の事だろう。これだから父上は侮れない)」
 
「(やはり白竜城の王には、この方こそがふさわしい)」
 
 バルトロメウスは優柔不断で気弱な男だが、最終的には正解を見抜く『目』を持っている。
 単なる温和な王様では、この難しい時勢を乗りきれはしない。
 
 本人にその自覚は、あまりなかったが。
 
「……ところで、城の最下層で見つかった魔法陣の解析は進みましたか?」
 
 勿論、リュースケを召喚したという、あの魔法陣である。
 エルザに問われ、フェルディナントが苦い顔をした。
 
「残念ながら。そも、魔法陣という技術そのものが失われて久しい。竜人はおろか、人間の魔法学者でも歯が立たないようです」
 
 わざわざ神聖ヴァルハラ皇国から借り受けた、複数人の魔法学者。
 その全員が、3日と待たずさじを投げた。
 
「魔法学者によれば、あれを読み取れる者がいるとするなら……魔将リリスくらいであろう、という話でした」
 
 魔人四魔将軍、魔将リリス。
 魔力量こそ知将ベリアルに劣るものの、魔法に関する知識と技術においては、ミッドガルド随一と目される。
 
「……さすがに魔将に協力は要請できぬな」
 
「むしろ、魔法陣の存在を最も知られたくない相手ですね」
 
 両親の言葉に、フェルディナントは頷いた。
 
「しかし、余が昔赴いたときには、魔法陣などなかったように思うが……」
 
「ええ。僕も子供の頃に地下室へ行きましたが……見た記憶はありません」
 
「何者かが、ごく最近に刻んだものだと?」
 
「いえ。それはないでしょう。隠ぺいされていたものが、何かをきっかけに姿を現したのではないかと」
 
「そのきっかけとは……いえ、わからないから、苦労しているのでしょうね」
 
「魔法陣に関しては、残念だが諦めるしかないだろう」
 
 バルトロメウスが残念そうに溜息を吐く。
 リュースケと同等の存在が召喚できるのならば……と調べたのだが、無駄骨に終わったようである。
 
「父上は、この先どうするべきだとお考えですか?」
 
 魔法陣やリュースケの事だけではなく、全体的な今後の方針について、というニュアンスでフェルディナントが父に訊ねる。
 
「うん? そうだな……。しばらくは様子を見るしかあるまい。魔国の内部の動きも、安定していないようだし……。こちらも、黒竜城との関係修復を主に、足元を固めよう」
 
「「……御心のままに」」
 
 性格ゆえに、公の場ではエルザに主導権を握られる場合もあるのは確かではあるが。
 エルザが影の支配者である、というは、まったくの眉唾である。
 

 
「お」
 
 潮の香りが、鼻腔をくすぐる。
 
「地図によれば、この丘を越えれば、そろそろ見えてもおかしくはない」
 
「ほほう。どれどれ」
 
 ニナが駆け出し、一足先に丘を登りきる。
 
「おおー!」
 
 上から聞こえてくる歓声に、俺の足も自然と速くなる。
 
 やがて丘の向こうに、空とは違う青が姿を現す。
 
「こりゃ、絶景だな」
 
 まだ遠いが、遥か眼下にそれは望めた。
 陽光を眩く反射する、海、海、海。
 視界の半分以上を、空と海の青が占領していた。
 
「海もすごいですけど、陸のほうもすごいですよ」
 
 ラティの言葉に視線を少し手前にずらせば、海に沿って延々と連なる人口建築物。
 石造りのそれは、おそらく倉庫街だろう。
 その手前には勿論、民家や商店が軒を連ねている……はずだ。まだ遠くて何がどれだかわからないが。
 
 そして港には、巨大な帆船がずらりと並ぶ。
 
 ミッドガルド最大級の港湾都市ポスクェは、もう目と鼻の先だ。
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